大精霊、集結
《――よう!やっと来たか…待ちくたびれたぞ人間!!》
目的地となる場所へ辿り着いたカイセ。
門番を倒し、開いた扉の先に足を踏み入れた。
そしてその広間の内装を眺める時間もなくいきなり掛けられた声。
カイセらを待ち望んだかのように声を上げた存在。
《我は火の大精霊サラマンダなり!よくぞここまで辿り着いた!人間!!》
すると鑑定するまでもなく自らその正体を明かす。
メラメラと燃え続ける〔火の体〕を持つその存在が火の精霊の関係者なのは言うまでもなかった。
だがその正体は火の精霊の中の火の精霊。
各属性の頂点に立つ四体の大精霊の一つ、【火の大精霊 サラマンダ】。
自己申告と鑑定情報の一致による確定情報。
目的地の広間でまるでボスかのように待ち構えていた大精霊。
《我が配下を通して見ていたぞ!よもや無傷でここまで辿り着くとはビックリだ!》
どうやら彼?は道中の妨害役になった火の精霊を通してカイセの存在を認識していたようだ。
つまり道中に使った手の内は皆割れてしまっているという事でもあるだろう。
《そなたは強い!だが…所詮はこっぱな精霊相手、しかし我は大精霊!この奥へと進みたくば死を覚悟して挑むがよい!!》
そんな火の大精霊が阻む道。
目的地に辿り着いたが、行くべきはこの広間の奥にある〔端末〕。
つまり目の前に立ちはだかる火の大精霊は、カイセらにとって純粋に邪魔者として壁になる。
これまでの火の精霊などとは比較にならない大精霊の敵対。
(気持ち明るいけど、大精霊相手ってとんでもなく厄介だよなぁ…)
なんとなく遊び感覚にも聞こえる火の大精霊の言葉。
しかしその存在はそれこそ格が違う。
淡々と倒せた火の精霊とは違う別格の敵。
純粋なステータス999だけでは比べ難い異質な相手が立ちはだかる。
(しかも…これもしかして、水の大精霊よりも強い?)
ステータスの比較が出来ないゆえに明確には断言できないが、しかし彼の纏う力は水の大精霊よりも大きく感じる。
元々聞いていた話だと、大精霊同士の強さはほぼ同一。
ならばここまであからさまな力の差異を感じる事はないはず。
(…まぁなんにせよ、予定通りに行こう)
そんなちょっとした予想外もあったが、実は火の大精霊との遭遇はあらかじめの想定の範囲内での出来事。
ゆえに用意した準備を、今この場にて起動させる。
「それじゃ早速…とりゃ!!」
《ん?何を投げて…いや、これは…この気配は…》
ボックスから取り出した一塊の〔氷〕をカイセは勢い良く床に叩きつけた。
すると氷塊は粉々に砕け…そして一瞬で氷の破片達は溶けて水となり床を濡らした。
《そなた…それはまさか水の!?――くぅ!?》
その直後、床に出来た小さな水溜まりが渦巻き水を膨張させ、水の渦柱を生み出した。
だがそれも数秒程度の出来事。
水の渦柱は直ぐに霧散し…しかしその中から彼女は現れる。
《――やはりここで貴方が待っていましたか。サラマンダ》
《おま…ウンディーネ!?何故ここに!?》
現れたのは【水の大精霊 ウンディーネ】。
今回の一件に同行すると言いつつ突入部隊に姿がなかった、水属性の大精霊。
目の前のサラマンダと同格の存在。
《何故と言われても、隠れてないと逃げますよね?貴方は》
元々水の大精霊は突入部隊に同行する予定だった。
しかし出発時にその姿は何処にも見えなかった。
だからこそ火の大精霊も『水の大精霊は来ない』という思い込みを持って堂々とボスポジションで敵を出迎えた。
だが…彼の前には水の大精霊が立つ。
《貴方の逃げの判断力、逃げ足の速さはよく理解しています。少々パワーアップしているようですが、それでもわたくしがやって来るとあらかじめわかっていたならこうして堂々と現れはしませんでしたよね?それだとわたくしがここに来る意味がない。わたくしは貴方を、同じ大精霊のやらかしを咎める為に彼らに同行しているのですから、逃げられると困るのです。だから隠れる事にしました》
実は姿こそなかったが、ずっとカイセに同行していた水の大精霊。
先ほど手にした氷の塊、その中に自らを封印していた。
完全に気配を絶っての同行。
氷塊をカイセに預け…火の大精霊に遭遇したならの前で砕いて封印を解けと、そんな手筈になっていたのだ。
全ては逃げ足の速い火の大精霊に確実に対面する為の策。
《そ…そうか!だが今更遅い!確かに少し前ならお前が居ると知ればすぐに逃げていただろう!しかし…しかし今の我は違う!もはやお前はどっちつかずの同格の相手ではない!今の我は既にお前よりも強い!今ならお前に負けるはずもない!!》
そうして逃げ損ね天敵と対面することになった火の大精霊。
しかし…ことこの場においてはもはや逃げの必要はないと言い切る。
不自然なパワーアップを果たした火の大精霊は、元々ほぼ同格だった水の大精霊を既に超えているという。
自分よりも弱い相手から逃げる必要はないと宣言。
《そうですね。確かに…今の貴方はわたくしよりも強い。このまま戦えばわたくしが負けるでしょう》
《そうだろう!だがそれでも我に挑むなら、その人間と共闘するか?》
《いえ、精霊同士の語り合いに人間の力は借りません。準備のお手伝いはして貰いましたが、貴方と戦うのはわたくし達だけです》
相手は強者、だがこちらにはカイセの存在もある。
水の大精霊と999カイセの力が合わされば格上の大精霊にも勝ち目はあるだろう。
しかし…水の大精霊はその手を使わない。
《ははは!では我の勝ちは決まったな!》
《それはどうでしょうね?…彼らもお願いします》
「はい了解。後二つも…とりゃ!」
《な!?それは…!?》
すると水の大精霊の指示で、カイセは更に二つの塊を取り出し床に叩きつけた。
一つは〔風の塊〕という良く分からない状態の結晶体。
一つは〔土の塊〕という土団子のような球体。
その二つともを先ほど同様に叩きつけ砕いてしまう。
《――ふぅ!窮屈だった!やっと出れた!》
《はぁ、めんどくさいが出番が来てしまったか…》
そしてそれぞれに姿を現した二体の大精霊。
【風の大精霊 シルフィード】
【土の大精霊 ノーム】
水の大精霊同様に、残る二つの大精霊の封印も託され運んできたカイセ。
その二つも今この場において解放した。
《お…お前ら!?》
《久しぶりね、火の坊や》
《全く、面倒ごとばかり起こしてからに…》
新たに現れた大精霊に驚き戸惑いを見せる火の大精霊。
彼らは昨晩、水の大精霊が呼び寄せた残りの大精霊たち。
大精霊同士の語り合いに人間との共闘は選ばない。
しかし同じ大精霊なら話は別。
彼らは当事者、この席に座る資格を有する者達なのだから。
《さて、確かに今の貴方は大精霊の中で最強の力を持っているかもしれない。でも…それは残る三つの大精霊を全て敵に回しても、勝てるほどに歴然とした力の差なのかしら?》
《ぐ…》
何かしらの手段で大精霊最強となった火。
しかし対するのは水と風と土の三者同盟。
一対三の数の不利を覆せるほどには大きな差ではないと、その火の反応が告げている。
《では…協力してくれてありがとうカイセ。この馬鹿はわたくしたちに任せて、堂々と奥に進みなさい》
「はい」
そしてカイセはこの場を大精霊たちに譲り、更に奥に進んだ。
するとそこには…大精霊たちの対峙を、事のやり取りを眺めていたエルフの姿があった。