火の門番
「――この先、あれが目的地の扉なはずだけど…何か居るなぁ、デカイの」
道中、炎の障害を消しながら進んだカイセ。
そして辿り着いたのはゴールの手前。
地図通りなら扉の向こうは目指す場所であるはずなのだが…その扉の前にはやはり障害となる存在があった。
「小人兵の小人って、もう名前変えろってぐらい大きいなぁ、あれ」
そこに立つのは巨大な小人兵。
小人とはもはや何なのか、名付け親に問いかけたいほど大きな【巨人型小人兵】の門番。
一行の目指す場所への道を阻む、恐らくは最後の壁。
「なら…行くか」
そしてその最後の壁に向かうカイセ。
とは言え本人はミコを背負う立場なの、先陣を切るのは騎士ゴーレムたち。
あくまでも小人兵の延長線上にある敵ならば、ゴーレムでも相手に出来るはずだった。
「……ボォオオオッ!!」
「な…下がれ!」
最速で駆けて初撃で仕留めようとするゴーレムたち。
巨体の小人兵はその速さには着いて行けていないように見えた。
しかし…反応しない小人兵に反して突然湧き出す炎。
小人兵の全身を覆うように炎がその体を包んでいく。
「ボォオオオ」
「火の巨人の門番…もしかして火の精霊が仕込んであるのか?」
炎を纏った巨人型小人兵。
その炎は正に火の精霊の放つ炎。
それも一体からの出力でなく、複数体分の力を感じる。
「火の精霊内蔵型の巨人型小人兵…また面倒な組み合わせを…」
その巨体に火の精霊を内包した小人兵。
組み合わせとしては厄介極まりない。
何せ火はエネルギーとしては風や水や土よりも、他の属性の精霊達よりも扱いやすく強い力だ。
あれが炎を纏い放つだけでなく、稼働の為のエネルギーとしても転用出来るなら――
「ボォォ――ボフッ」
「チッ、重い!?」
瞬間、小人兵が圧倒的な瞬発力でこちらに突撃して来た。
前衛のゴーレムたちを力任せに弾き飛ばしながら一切減速せずにカイセの守りに激突してくる。
「ダンジョンで覚えのある重さだけど…そう何度も吹っ飛ばされてたまるか!」
以前にダンジョンでグリフォン相手に突進攻撃を直撃で受けたカイセ。
今回も似たような状況だが、吹き飛ばされる事無く受け止め切った。
「で…俺が盾役になると!」
突撃を受け止められてその場に足を止める小人兵。
するとそのガラ空きの背後に迫るのは、飛ばされた騎士ゴーレム達の剣。
グリフォンのような自由さのない小人兵にはこの一撃に振り返れる反射的行動の能力はなさそうだった。
「ボォオオオ!!」
だが体は振り向けなくとも、内蔵された火の精霊の力があれば背中に集中的に炎柱を生やすことは出来る。
その炎に剣を阻まれるゴーレムたち。
「じゃあこっちで。《水斬》」
「ボォ――」
しかしそうして後ろにかまけるなら、今度は前からカイセの魔法が放たれる。
突進の勢いが死に不要になった守りの壁。
それを解いて放つ魔法攻撃。
背中に炎の出力を集中した小人兵そのもの纏う炎は総合的には弱まる。
そこに叩き込まれるのは、とてもシンプルな水の斬撃。
一種のウォーターカッターのような切り口で、一瞬で上下で両断された小人兵。
更にその身に受けたのが水の力ゆえに、一瞬背中の炎柱も減衰する。
「うん、この出力なら剣も通る」
弱ったところへの再び斬撃。
弱まった炎ならゴーレムの剣でも問答無用で斬れる。
「で…中身がご登場か」
そうして巨人型小人兵がバラバラになった直後、内蔵されていた火の精霊が三体ほど姿を現した。
「《水連撃》」
もはや破れ被れで迫って来る火の精霊たち。
その全てにしっかりと水で追撃。
今まで通りしっかりと消していく。
残されたのは小人兵の残骸のみとなった。
「他には…なさそうだな」
他に妨害、障害がないことを確認し扉の前に立つ。
これで扉を開く邪魔をする者は居なくなった。
「と、その前に…あぁ、ちょっと溶けてるな」
そしてこのまま目的地に…となる前に、ゴーレムたちの剣を確認する。
すると案の定少しばかり、炎で剣の刃が溶かされていた。
「この先も火が邪魔になる可能性を考えると…この剣使うか」
ゆえにカイセは元々の剣を回収し、新たに取り出した剣を渡す。
【火の魔剣 炎】
〔全ステータス+25〕
〔火魔法レベル+1〕
〔火中活動時全ステータス+25〕
それは以前にダンジョンで手にした【火の聖剣】の複製品。
名前が違うだけでほぼ同一のコピー品。
敵に火の精霊が居る可能性を加味して急遽用意したゴーレム用の剣。
元々持たせていた魔剣に比べれば剣としての強度は少しばかり劣るが、相手が炎を振るうなら火の剣を持った方が火に対する耐久力は高くなる。
少なくとも先ほどの炎柱程度はそのまま切り裂けるはずだし、こうして溶かされる事もない。
「さて…それじゃあ開くか」
そしてカイセは準備を整え、目の前のゴールの扉を開く。
「…開かない」
だが手にした扉は開かれず。
この領域には物理的な鍵はない。
全て権限レベルの管理により扉の開閉設定がなされる。
「いやまぁ大事な場所だし、セキュリティはしっかりしてるのは当たり前だけど…突入部隊には俺含めてここを開けるだけのワンタイムキー的なのが発行されたはずなんだけど…」
目的地は領域内でも上位の重要施設。
その扉が一般的な権限で開くはずもない。
しかし今回の突入に際して臨時処置で一時的な許可を権限に付与されているカイセ。
本当ならこれで一度だけこの扉を開くことが出来たはずだった。
「許可が取り消されてるか、扉に必要な権限が引き上げられているか…何にせよ、困ったな。これだと向こうには…」
理由はともかく、このままだとカイセは一生ゴールに踏み込めない。
臨時の権限が使えないなら他の人々が合流しても結果は同じになってしまう。
「…私の…手を…」
「あれ?ミコ!?起きたのか?」
するとカイセが背負うミコが、微かに動いて声を出す。
小さな反応、小さな声だが、確かに意識は取り戻したようだ。
「すいません…力が入らないので…私の手を…扉に」
「えっと…こうか?」
起きたが体は自力では動かせない脱力状態にあるらしいミコ。
ゆえに言われるまま、カイセはその力の入らぬ手を扉に宛がう。
「…開け」
そして小さく開けとミコは口にした。
するとカチャという音と共に、目的地の扉はゆっくりと開き始めたのだった。




