正道ルートの戦い
「――全員、転移完了しましたか」
「そうですね。ただ…やはりカイセ殿の姿はないか…」
目的通りの転移先。
転移陣を通り、出口に出現した突入部隊の一同。
第一陣、第二陣と何度かに分かれて人の騎士もエルフも時間を掛けて全員が終結した。
だが…そこに一人だけ姿を見せない人物が居た。
特殊な立場で同行することになったカイセ。
龍たちを連れた稀有な人間だけは、この場に現れなかった。
「向こう側、転移の入り口には確かに彼の姿はなかった。追い返されてきたり、転移を拒否されたものでもなかった」
「それでこちらにも居ないとなると、やはり別の場所に…」
出口にも入り口にも姿がない。
転移は発動したのに何処に行ったか分からない。
ゆえに彼らは転移陣に仕込まれた〔罠〕の存在に気が付く。
「私の暫定的な権限では設定を覗き見る事は出来ません。ですが…状況で見れば特定条件に引っ掛かる人物はこことは違う場所に飛ばすという変更がなされていたのでしょう」
「一度の転移で二か所に飛ばす、そんなことが可能なのですか?」
「普通の転移では無理でしょう。ですがここは世界樹様の御力により存在する領域です。この中であれば何処であれ同じ場所なのです」
基本的に通常の《転移》で跳べるのは、一度に一か所まで。
一度の転移で二か所三か所と複数人を別々のバラバラの場所に飛ばすことは出来ない。
しかしそれが現実に起きたと思われるこの領域への転移。
それもこの場限定の仕様によるもの。
この領域は例え何処であれ〔同じ場所〕としてカウントされる異空間。
領域内のA地点、B地点、C地点、その全てが概念上は同じ場所として転移できる。
ゆえにこうして転移による分断も可能という。
「ですが、理論上可能でも、そもそも根本的な問題があります」
「それは?」
「この場の転移陣の設定変更自体が、誰にでも出来ることではないという点ですね」
確かに仕組みとしては可能。
だがその為には本来設置されている転移陣の設定を変更する必要がある。
だが…そもそもその変更自体を行える者が限られる。
「そうですね…そのレベルの権限を持つのは巫女様、族長様を含め四人ほどしか居ないと思います」
転移陣の設定変更は、エルフの中でも特に高い権限を持つ者にしか実行できない。
「その中に敵側のエルフは含まれますか?」
「いえ…巫女様を除き、全てこちら側で所在も判明している者ばかりです。向こうの勢力には居ないはずなんです」
当然この変更を行ったのは、クーデターを起こしたエルフ達側の誰かという推測になる。
しかし彼らの中に、それほど高い権限を持つ者は居ないはずだった。
「巫女様自身がやむを得ぬ事情で協力しているのか、我らの知らない内に権限を手にした者がいるのか、もしくはまた別の…未知の手段で。今すぐ答えが出せるものではありませんが」
「ちなみにですが、加えられた変更の内容は推測できますか?」
「いくつか候補はありますが、彼一人だけが居ないとなると、ステータスを条件としている可能性が高いかと」
「ステータス…か」
あくまでも確証の無い話だが、それならばカイセだけ分断された理由にも合点が行くと考える騎士リーダー。
彼の正確なステータスは分からない。
しかし自分たち精鋭騎士よりも上であるという点は聞き及んでいる。
突入部隊で一番ステータスの高い人間。
その彼一人が居なくなったとなれば、まさにステータスを参照し分断する設定になっていてもおかしくはない。
「跳ばされた先は何処に?」
「そこは…分かりません。この領域内の何処かなのは確かですが、同じ場所として何処にでも飛ばせるので」
「跳んだ先がいきなり水中や岩の中、マグマの上などと言うことは?」
「ないですね。いえ転移の仕様を考えるとマグマの上に飛ばすことは工夫すれば出来ますから、可能性としてはゼロではありませんが、そもそもここにはマグマはありませんから」
その跳ばされた先がいきなり即死に繋がる場所である可能性は否定できないが、この領域の施設設備で考えれば低いだろうというのがエルフの見解。
設定の変更は出来ても、大改築には権限の有無以前に時間が足りない。
いくら世界樹の領域とは言え、大規模な改装パパっとは出来ない。
「…ならばひとまず、カイセ殿は後回しにしましょう。この庭園の確認が終わり次第先に進みましょう
「そうですね」
結局カイセの状況は推測でしか立てられない。
救出する手段も、合流の手も今は無い。
ならば今できるのは本来の仕事をこなすこと。
この話の間にも、転移の出口すぐに存在する庭園のような場所の調査は進む。
静かで他に誰も居ない庭園、箱庭のような場所を探索中。
室内とは思えないほどの広さの大庭園を、騎士やエルフ達が探っていく。
「これは…笛の音」
「向こうか!」
すると聞こえてくるのは笛の音。
視界に収まらない距離を離れても情報を伝える為の伝達用の合図。
それは味方が異常を示した知らせ。
「ぐああぁ!!?」
直後、笛の方角に近い別のエルフの叫びが聞こえる。
それと同時にガシャガシャと、金属音も聞こえてくる。
すぐさま一行は戦闘態勢で、不意打ちを警戒しつつ騒ぎの方へと集いだす。
「あれは…小人兵、それも重武装の」
彼らが見たのは地に転がるエルフ。
そして…揃いの姿で並ぶ小人兵。
その名にそぐわぬ大人の背丈、そして全身武装状態の姿。
「あれが小人兵?ですが装備は聞き及んでいたのとは」
「貴方たちの言葉で言うならば親衛隊仕様とでもいいますか、とにかく、普通の戦闘用小人兵よりも格段に上の――」
「防御ぉおお!!」
「ぐぉ!?」
敵の正体を語る最中に飛んでくる弓矢。
すぐさま前に出て盾を構えた騎士達。
後ろに引っ張られたエルフが一瞬声をあげたが、先ほどまで彼の立っていた場所目掛けてしっかりと矢が降り注ぐ。
「つ、通常は統一装備の近・中距離用だが、親衛隊はパーティー戦仕様だ!」
通常の戦闘用小人兵は全て統一された装備。
どんな状況にも一定の対応が可能な平均的な仕様。
しかしここに現れたのは、重武装の盾役、近・中距離の剣や槍装備、そして遠距離の弓役などの役割分担がなされた〔パーティー戦闘用装備〕の小人兵。
「そういうのが居るという事も、あらかじめ情報共有して欲しいところでしたが…だがわかりやすい!」
元々聞いていた統一装備の数のごり押しの可能性。
一定以上の力を持つ上での数と聞いて、少々厄介だと考えていた騎士達。
しかし現れたのは少数精鋭のパーティー戦仕様が数隊分。
個々の力はより厄介かもしれないが、むしろ彼らにはこちらが分かりやすい。
「お手本編成の冒険者パーティーを相手にするようなものだ。むしろわかりやすい!」
騎士として散々に予習済みのパターン。
むしろ既知の戦い方を見せようとする相手に、騎士達の闘志が燃えてくる。
こうしてカイセとはぐれた一行も、小人兵と遭遇し闘いに赴くのであった。




