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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第七章:エルフの国のもう一振りの神剣
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999 VS 999


 《第三の部屋。勝利条件は〔巫女を戦闘不能にする〕です》


 システムアナウンスが機械的に告げる言葉。

 この部屋における勝利条件として、正当に出口を開く為の情報。

 それは目の前に現れた〔巫女の撃破〕。


 (タチは悪いが…殺害とかが条件になっていないだけマシな方か。戦闘不能なら手はある…まぁ普通なら)


 相手は世界樹の巫女、それもどう見ても正気を奪われた操り状態。

 光を失った瞳で、人形のように命令を待つエルフ。

 もし相手の死亡が勝利条件だった場合、権限の喪失を覚悟してでも敗北の道を選ぶか、どうにかして勝ち負け以外の裏技を絞り出さなければいけなかった。

 だが戦闘不能なら道はいくつもあり。

 完全拘束、気絶、睡眠、封印。

 生かしたまま無力化して勝てばいい。

 カイセにしてみれば比較的簡単な事…だったかもしれない。

 それが普通の相手ならば。


 

 個体名:―

 種族:エルフ族

 年齢:―

 職業:巫女

 称号:"世界樹の巫女"


 生命 999

 魔力 999

 身体 999

 魔法 999


 特殊項目:

 世界樹の加護

 


 (…ステータスの変調は無し。つまり相手は同じ999)


 しかし巫女はカイセと同じステータス999を持つ存在。

 ステータス差による今までのようなゴリ押しは通用しにくい相手。

 カイセにとって初めての、ステータス条件が互角の相手。


 (…変調無しなのに操り状態?世界樹の加護って、状態異常耐性を含むよな?)


 そんなの巫女の情報には、改めて視るが以前からの変化は全くなかった。

 《世界樹の加護》が取り上げられたり減衰・封印されたような形跡もない。

 ならば操られている状態は不自然。

 この加護には《状態異常耐性(全)》を最大レベルで内包するのは図書館情報で把握している。

 それはカイセの持つ耐性と変わらぬものであり、ゆえに《洗脳》や《催眠》と言った状態にはなりえない

 この加護がある限り他者に操られる状態はあり得ない。


 (なのにこの状態。意志喪失は洗脳関連じゃない?)


 操られないはずの巫女のおかしな様子。

 その原因は外部というよりは内部(・・)

 そしてそれは同時に、突入部隊の想定以上に状況が悪いことを示す。


  《カウント…3…2…1…開始です》


 だがそんなこちらの思考など関係なく始まる三つ目の試練。

 アナウンスの合図と同時に、巫女はこちらへ向けて駆けだす。


 「はや――クッ!!?」


 先手の一撃はカイセに正面からヒットする。

 しかしきちんと備えの自動防護に守られダメージはほぼ無い。

 仮に直撃していてもこちらも999の身体ステータスを持つ以上、一撃で勝負が決まることはないだろう。


 (鋭い!これは…巫女の戦い方じゃないな)


 油断や慢心と言われてもおかしくない綺麗なヒットを貰ったカイセ。

 とは言え今のミコは先日、へっぴり腰で神剣を振るっていた戦いの素人の動きではない。

 むしろ近しいのは小人兵の動き。

 さっきまで散々戦って来た小人兵の戦い方を999の身体で再現したような感覚。


 (素人の999ならさほど怖くないけど…ちゃんと戦える戦闘プログラム(・・・・・・・)が仕込んであるならゴーレムじゃ分が悪すぎるな)


 ミコの拳をなんとか避けながら、双子ゴーレムを下げるカイセ。

 戦闘技能を手にした999と正面から打ち合わせてもステータスの差が大きい分だけゴーレムに厳しい。

 下手に一撃まともに受ければそれで完全に破壊されてしまう可能性だって高い。

 ゆえに役割の交代。

 今までと逆に、カイセが前に出てゴーレム達はここ一番の隙を伺う。


 (幸いなのは…やっぱり龍よりは怖くない点か)


 ステータスだけで言えばカイセよりも下の龍たち。

 だがそのステータス差を覆す程の圧を彼らは持っていた。

 しかし巫女にはそれがなく、彼らよりもステータスが上であっても精神的余裕を持ちながら向き合える。


 「――《極氷雪原》」

 「な…いきなり!?」


 動きこそ小人兵の上位互換であったミコ。

 だが彼女には小人兵にはなかった999ベースの魔法がある。

 似合わぬ肉弾戦で埒のあかない状況に早速、それもいきなりの遠慮なしの大技をかましてくる。

 この場を覆い尽くす吹雪に紛れて高威力の氷の礫の嵐が降り注ぐ。


 「戻れ!」


 強力な範囲攻撃を前に、ゴーレムたちを仕舞うカイセ。

 広範囲高威力の魔法攻撃を前にしては双子ゴーレムもジリ貧でしかない。

 下手に出し続けて潰されるよりも、仕舞ってしまった方が先の為。

 だが結果、カイセはミコと一対一で向き合うことになる。


 「すぅ…《極炎熱波》!」

 「――!?」


 そして同時にそれはカイセ自身も味方を気にせず魔法を振るえるということ。

 吹雪も氷も溶かす炎と熱波。

 同等級の魔法で場を相殺する。


 「《水牢獄》!」

 「――!!」


 その上で次の手。

 今回の目標である巫女の無力化。

 可能な限り傷を付けずに落としたいカイセは水の牢獄でミコの全身を包み込む。

 樹液の、琥珀の檻のような拘束の為の魔法。

 ただし中を空洞にしている琥珀と異なりこの牢獄はしっかりと水で満たされている。


 「ぐぐッ」


 つまり捕えられれば溺れる(・・・)

 人の身である以上は、999のステータスを持とうとも呼吸が出来なくなれば詰む。

 更に呼吸の阻害はそのまま、魔法を扱う自身の意志集中への妨害工作にもなる。

 巫女であろうと999だろうと人の身である以上は呼吸は弱点となる。

 いや、巫女であるならもしかしたらその弱点を克服している可能性も…とは考えたが、この様子ならそれはないようだ。


 「――!!」

 「ぐ…まぁ、簡単に落ちないよな」


 だがそれも相手次第。

 溺れるとは言っても時間的な猶予が存在する以上、逃れる手を打つ余裕はある。

 むしろ今のミコは思考が機械的であるゆえに、この程度でパニックになることもなく苦しみながらも冷静に対処し、水の檻を魔力で一気に散らす。

 これで落とせなかったのは残念だが、時間稼ぎ(・・・・)には十分だった。


 「すぅ――《大海牢獄》」

 「グ――!?」


 しかし檻から解放された瞬間、再び水がミコの体を覆い尽くす。

 いや正確にはこの場全てが(・・・・・・)大水の中に飲み込まれてしまった。

 この閉鎖された試練の空間に水が満たされて二人ともに取り込む。

 カイセもミコも共に水の中。

 

 「ぐぶ…ぶぶ――」


 元々溺れる中で無理矢理に水を散らして檻から脱出したばかりのミコは、きちんとした呼吸の間もなく再び水の檻に飲み込まれ溺れる。

 対してカイセは勿論対処済み。


 (やっぱり…《環境適応魔法》の心得はないんだな)


 共に水に飲まれたはずのカイセは取り乱すことなく冷静に水中に立つ。

 本来人は水の中では呼吸が出来ずにまともに活動できない。

 しかし以前にダンジョン内の海でも使用した《環境適応魔法》があれば、魔力消費こそ重くなるが続く限りは海の中水の中でも呼吸が継続出来て活動が可能になる。

  

 だが…今も溺れ続けるミコの様子を見るとその気配がない。

 どうやら目論見通り彼女は《環境適応魔法》を扱えないようだ。

 巫女と言えども、999と言えども全ての魔法が使えるわけではない。

 そして巫女という存在は、本来は生涯を世界樹の下で生きる者。

 長い一生を変わらぬ環境下で生きるゆえに習得の必要ない魔法

 海のような大水に飲まれ溺れる経験はなく、こんな状況が想定されていなくとも当然の流れ。

 そもそもこの場の九割を満たす程の大水を魔法で出すというのも常人には魔力量の都合で難しい。

 魔力も999ゆえこそに可能な雑な大技。

 想定などされず対策もなく、対処する手が欠けていても仕方ない。

 

 「ぐぶぶ――」

 (行かせない!)


 ただしこの場所を全て水で満たすことはできなかった。

 残る一割の空間、天井付近には空気が残っている。

 つまり水面、上を目指せば呼吸が出来る場所が存在する。

 それに気づくミコは当然上を目指し、不慣れな水を掻きながら浮上しようとする。

 だがカイセは彼女の前に立ちはだかりそれを邪魔する。

 適応魔法だけでなく、水中活動の心得が無いのはミコだけでなく小人兵のプログラムも同様。

 更に不慣れな水中に、呼吸の乱れでとにかく集中を邪魔される状況では大きな魔法も使えない。

 ゆえに浮上の妨害も容易く、ミコは空気を得られないまま時間が過ぎていく。

 そして…その結果は当然の結末。


 「――ぶく――」


 もがく事も出来なくなり、ただただ静かに沈んでいくミコ。

 意識を失い戦闘不能。

 すると次の瞬間、出口の扉が開かれ…大量の水が栓を抜かれて流れ出す。


 「――ぶは!?ミコはどこに行った!?」


 その後、部屋からほとんどの水が排水されて地に足を付けたカイセは直ぐに周囲を見渡す。

 

 「居た…ミコ!!」


 すぐさま見つけたミコの下へと駆け寄る。

 なおも意識がないのは明白。

 その上で確認すべきは呼吸と鼓動。

 溺れて意識を失ったのだ。

 当然呼吸は止まっている。


 「…すぅ――ふん!」


 ゆえにすぐさまカイセは人工呼吸(・・・・)を開始する。

 唇を重ねて空気を送り込む。

 元の世界で習った技術が、このような場で発揮されるのは予想外だったがやはり覚えておいて損はない技術だ。


 「――ぶふ!ゴホゴホ」


 そして水を吐き呼吸を取り戻したミコ。

 目は覚まさないが窮地は去っただろう。

 

 「…とりあえず無事だな。何とかはなったけど…だいぶ喰われたな」


 こうして三つ目の試練をクリアしたカイセ。

 だがここまでに相当な魔力消費を強いられた。

 分断と足止めの妨害工作が敵の目的なら、まんまと目論見通りになったこの結果。

 

 「まぁ、流石にミコに敵を倒させるのが第一目標だろうし、完全に目論見通りになってないと思うけど」


 普通の人間なら999のステータスを持つ巫女と敵対して勝てるかどうかは怪しいところ。

 少なくともこれだけのスペック差を単独でひっくり返せるほどの実力者は突入部隊の面々にはいなかった。 

 ゆえに相手も、ここに跳ばされた人間は倒して当然という想定をしているはずだ。

 カイセは魔力こそ多く失ったが、その一番の目論見は回避した。


 「ミコは…置いてけないよな。あまり動かしたくもないけど仕方ない。背負って…よっと」


 そしてカイセは意識の戻らないミコを背負って歩き出す。

 再び出したゴーレムに護衛させ、ミコを伴い扉を出ることにしたのだった。

 

 (にしても…あくまでも心得のない付け焼刃のミコが相手で助かった。ちゃんと戦える999が相手だったなら…いやまぁそんな仮定は無意味なんだけど)

 

  

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