早速の分断
「――嵌められた、かな」
すぐさま双子ゴーレムを取り出し、周辺の警戒を強めるカイセ。
集団での転移。
転移陣により五人で跳んだにも関わらず出口にはカイセ一人きり。
それも本来の出口ではなく、全く違う場所へと着地。
『転移陣の設定変更、もしくは改ざんに気付けませんでした。申し訳ありません』
「(いやまぁそこは誰も気付けなかった時点で誰の咎でもないけど)」
カイセは念の為に転移陣を確認し、不審な点が無かったことを把握していた。
しかし跳んでみればこの有様。
騎士やエルフ達と分断され、一人見知らぬ場所に立つ。
「…開かないか、この扉」
そこにある唯一の扉。
試しに手を掛けるが開かない。
「そうか、ここは〔試練の間〕か」
開かない扉に一つ前情報が浮かび上がるカイセ。
図書館で得た知識の一つ。
この場所は〔試練の間〕と呼ばれる部屋。
文字通り試練を受ける為の部屋で、エルフの精鋭の訓練であったり、要職選抜の実戦試験などで使われる場所だ。
強固に閉じられた扉を開くには〔勝利条件〕を満たす必要がある。
だいぶ俗に言ってしまえば〔○○しないと出られない部屋〕。
この世界においては『敵を倒さないと次に進めない〔ダンジョン部屋〕』にも使われている、ある程度当たり前に存在しているギミック。
それがこのエルフの国の、世界樹の領域の一室に存在する。
つまり目の前の扉は、開く為に設定された勝利条件を満たす必要がある。
「てことは、反対にもう一つ…あった」
するとカイセはもう一つの扉を見つける。
それはもう一つの出口。
ただし〔敗北〕で開く扉。
つまり進む為ではなく、追い返される道への扉。
試験であれば不合格者やギブアップした者がそのまま転移し地上に帰る出口だ。
「こっちは簡単に開くはずだけど…負けの出口は使わない。地上に戻ってまたこっちに来れるか分からないわけだし」
一度外に出て仕切り直す手もあるが、もう一度こちら側に転移出来るかも分からない。
わざわざ転移に仕込みをして分断するような手を使ってくる相手だ。
なるべく出ずに進む道を選びたい。
「…よし、扉を壊すか」
そうしてカイセはそのまま、勝者の扉に戻る。
ここがダンジョンの一室だったなら、この扉は999の力をぶつけても壊すことは出来ないだろう。
しかしここはあくまでも、エルフ達によって作られた場所。
世界樹の加護があり強固とは言え、神の用意したダンジョンとは違い破壊することは可能な設備だ。
ここの勝利条件が何に設定されているか分からないが、時間を掛けるよりも一撃ドンで時間を短縮して先に進むのも手だ。
《警告、当施設の意図的な破壊は許可されておりません》
するとそんな荒い手を察したガイドシステムが警告のアナウンスを告げてくる。
《警告を無視して施設の破壊行為を行った場合、付与されている入場権限の一時的な凍結を行います》
「あー、そっかそっちの問題があるのか…」
そしてもし破壊行動を行った場合には、この領域に踏み込む為に必須だった権限を凍結される。
それはつまりここから追い出されるという意味であり、その時は再入場すらできなくなる。
「…ちなみにここの勝利条件って何?ここで何が起こるの?」
《勝利条件は〔小人兵百体の撃破〕に設定されております。時間は無制限。今から一分後に小人兵が順次投入されます》
「あー小人兵か…」
アナウンスによる解説で、これから起こる事を理解したカイセ。
この部屋を出るには小人兵を百体倒す必要がある。
(小人兵…戦闘用の小人か)
これから現れるのは大きな小人。
そういうと首を傾げる言葉になるが、巫女と共に暮らしていた小さな小人の別形態。
あの小さい方がお世話用だとすれば大きい方は戦闘用。
この領域や世界樹の防衛戦力となる人形であり、今回はこの場の模擬戦闘に使われるようだ。
《出現カウント…3…2…1…開始です》
そして姿を現す《小人兵》。
小人と言いながら普通の大人の人間サイズの数体。
(このデザイン、あんまり気は進まないけど…)
正直デザイン的には小人と類似しているので、昨日のほんわかした姿を見た上でとなると精神的に躊躇もある。
だがここが条件を満たさないと出れない場所ならば、倒さなければ先に進めない。
(…あとでミコに謝ろう)
そうして始まる戦闘。
襲ってくる小人兵をカイセと展開した双子ゴーレムたちで次々と順調に撃破していく。
(…硬い。強さも、流石に双子ゴーレムには及ばないけど複数体で連携して来て中々にしぶとく…それに倒すたびに補充されてキリがない!)
だが倒せども倒せども数が減らない小人兵。
倒した矢先に即座に補充され、一定数を下回らない。
それに小人兵の力自体も十分に、複数体の連携前提なら双子ゴーレムに向き合える。
双子ゴーレムだけならば何処かで押し切られてしまっていただろう。
だが…この場はゴーレムだけでなくカイセの魔法や物理的な支援もある。
申し訳ないが戦いは一方的に小人兵を蹂躙していくだけの時間になる。
(いっぺんに来てくれればこれも魔法でドン!で済むけど…減ったら補充するタイプで百体相手にするとなると魔法は最小限に控えて温存したいな。物理で行こう)
小人兵が強くとも、カイセの魔法ならいっぺんに出てくれれば一度の大きな魔法で殲滅できる。
しかし逐次投入でちょっとずつ相手にしないとならない為、必然的に時間と手間が取られる。
(これで六十!)
それでも普通ではありえない速度でしっかりと狩ってゆく。
実際にトドメを刺すのは殆どはゴーレム達。
カイセは数の優位の差でゴーレム達にどうしても出来る隙をしっかりと突いてくる小人兵を、強固な守りの中で身を守りながら後衛職に専念して的確に打ち抜いていく。
「九十!とりあえずあと十!」
ひとまず百が区切りと宣言されている為に見えているゴールへ向けて、残る十体も狩っていく。
「…百!」
そして百体目を倒し区切りを迎えた。
するとカチャリという音が扉の方から聞こえてきた。
小人兵の残骸を越え、ゴーレムに周囲を警戒させながら扉に再び手を掛けた。
「…開いたな。でも…まだこの先は」
扉は予告通りきちんと開いた。
しかしまだ安心できないカイセ。
エルフの訓練用であると共に、武人の実力試験にも使われるこの〔条件部屋〕は三段階存在する。
勿論訓練や試練の内容によっては一部屋や二部屋だけを稼働させる事も多い。
なのでここが既に最後の部屋である可能性も否定できない。
「…まぁ、動いてるよな。次も」
だが予想通り、次の部屋もしっかりと起動済み。
分断目的でここに跳ばされたとすれば全ての部屋を利用しない手はない。
《第二の部屋。勝利条件は〔特殊小人兵一体の撃破〕です》
「…デカブツ一体。この方がありがたいな。一撃で終わるし!」
すると二つ目の部屋で出現したのは巨体の、更に大きな特別仕様の小人兵一体。
カイセにはむしろこっちの方が戦いやすい。
何せ魔法の一撃で終わる。
「終わりっと」
一撃で消し飛ばした大型小人兵。
そして開く次への扉。
この向こうに待つのは三つ目の部屋。
三連戦の最後の場。
「――これ考えたやつ、悪趣味が過ぎるだろ」
そして三つ目の部屋に待っていたのは見知った人物。
この設定をした人物の悪辣さ、非道さが伺える待ち人。
見紛う事なき"世界樹の巫女"本人。
この場限定とは言え、ステータス999を持つ女性。
ただしその目は虚ろで、自我を感じさせない存在感。
《第三の部屋。勝利条件は〔巫女を戦闘不能にする〕です》