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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第七章:エルフの国のもう一振りの神剣
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静かな朝



 「――静かな朝だなぁ…」

 

 朝、エルフの国で貸し与えられた部屋のベットで目を覚ますカイセ。

 そこで気になるのは静かな時間。

 部屋の外から聞こえる、小さな鳥の鳴き声や風の音程度の、和やかな自然の音しか聞こえないこの空間。


 「ジャバとフェニが居るといつも朝は賑やかだからなぁ」


 いつもならジャバとフェニが側にいて、彼らが起きれば賑やかになる。

 しかし今日は、今はこの部屋にはカイセ一人。


 「フェニはいまどうなってるか。火の信奉者なら丁重に扱うだろうって話だったけど…それとジャバは…まぁこっちはまだ大丈夫か」


 子龍ジャバはまだ例の樹液の檻の中。

 エルフの研究所に預け、他の閉じ込められた人々と共に安置されている。

 急ピッチで進む解除道具の作成が完了次第、順次解かれて解放される手筈になっている。


 「作るのに数日…が、推定今日中に短縮されたのは朗報だけど、まぁ今日の突入には間に合わないよな」


 ちなみにその解除道具の作成に関しては、当初の予定よりも完成が早まる計算になっている。

 元々用意されてる設計図は完成品への道筋が記されているわけだが、それで出来上がるのは『壊れず何回でも使い回せる解除道具』。

 長く使うための耐久性も兼ね揃えた品への道のり。

 だが…今回はその発想の転換ともいうべきか、即興で〔使い捨ての廉価版〕の作成に方針を転換したのだった。

 今必要なのは目の前で閉じ込められている人々を早く解放する事。

 ジャバは別として、人間は飲まず食わずではあまり長く保たないことへの心配ゆえにスピードが優先される。


 『あ…これ、耐久性度外視すればもっと早く、それも手を掛けずに作れるんじゃないか?』


 〔星の図書館〕でカイセは例の設計図と同じものを見つけた。

 そしてその中で、耐久性を求めなければ端折れる工程がいくつかある事を知った。

 しかもそこが熟練者の腕を試されるシビアな部分。


 その後、カイセが地上に意識を戻すとすぐにエルフ側へ提案し、結果として〔完成品を一個〕ではなく〔廉価版を複数個〕量産していく方針に切り替わった。

 使い捨て版は難所をカットした分、一流で無くともそれなりの技量があれば作れる為に人員も増員出来た。

 ただ…一つ問題があるとすれば素材の消費量が跳ね上がる点。

 コスト削減を目指す暇がなく、完成品の七割ほど素材コストが掛かる廉価版を複数用意すると結果として完成品一個分の何倍もの素材消費が必要になった。

 とは言えそこは人命優先。

 利益採算コスト度外視で、今まさに廉価版が組まれている。


 「とりあえず図書館での情報収集が無駄にならずに済んだけど…他は役立つのか?」


 図書館での情報はいくつか拾ってきたが、今日の突入に分かりやすく使えそうな情報は見当たらなかった。

 とは言え〔種〕となりそうなものはいくつか。

 これが役立つかはこれからの状況次第。


 「まぁ…使い道ないぐらい平穏に終わってくれればいいんだけど…経験上なぁ…」


 今まで散々に普通じゃない出来事を体験して来たカイセ。

 ゆえにもはやフラグ(・・・)を口にしようとしなかろうと、起きる時は起きると割り切っている。


 「それと…一番の問題はエルマか」


 攫われたフェニとエルマ。

 この二人で、不安になるのはやはりエルマの状況。

 子龍でも不死鳥でもない普通の人間。

 その肉体強度は比べるまでもなく弱い。

 

 「指輪の発動形跡はなし。まぁ発動しても妨害で跳べないけど」


 以前にエルマに渡した、使い切りの〔転移の指輪〕。

 回収はせずに、今回の旅にも持ってきていたアイテム。

 あれが使えれば今すぐでも脱出が出来るのだが…向かった先は転移妨害の掛かる場。

 ゆえにあの中で発動しても逃げられないが、発動した痕跡は伝わる。

 しかしその形跡は今のところなし。

 そこまで切羽詰まった状況ではないと取れる。


 「まぁ、意識がない状態だと発動のしようもないんだけど、向こうも(・・・・)無事な状態なのは確認してるし」


 そしてその安全は二つの手段で確かめたもの。

 一つはカイセが渡した指輪の状態。

 もう一つは、むしろ安否確認においては指輪よりも確かな国側の道具。

 国家資格持ちのエルマに持たされた道具により、もっと正確に王子はその状態を確かめることができる。

 おかげで切羽詰まった状態にないのは保証された。

 だが…今後もそうとも限らない。


 「――あぁ、おはようカイセ殿」

 「おはようございます。今朝は王子もこっちなんですね」


 そんな静かな朝を迎えたカイセは、朝の身支度を終え食堂に移動する。

 するとそこには王子の姿。

 騎士や使用人たちとは別のテーブルではあるが、同じ食堂で食事を取っていた。


 「カイセ殿も、こちらで一緒にどうだ?」

 「え?うーん、良いんですかね?」


 そこで食事の同席を勧められる。

 だがどう見ても騎士たちは遠慮して別のテーブルを取っている。

 見るからに空白地帯になる王子周辺の席。

 彼らが上下関係を意識している中でカイセが堂々と座っていいものかと。


 「賑やかな食堂で一人は流石に寂しくてな。彼らは立場もあるゆえにあまり無理強いも出来なくてな。その点カイセ殿なら」

 「まぁ、直接の上下関係ではないですからね。それじゃ、お邪魔します」

 

 そうして王子の正面に座るカイセ。

 するとその瞬間、目の前に朝食セットが数瞬で並ぶ。

 一応、朝食メニューはいくつかあったはずなのだが、王子と同席する以上はこれ一択で決まりらしい。

 

 (まぁ美味しいから良いんだけど…モグモグ)

 

 王子とほぼ同じメニュー。

 その質も一般メニューより上。

 作戦前に英気を養うには良い。


 (そういえば…内容はともかく、向こうは量が多いな)


 そして騎士たちは騎士たちで、力をつける為に昨日よりもしっかりと量を多く取っているように見える。

 想定される戦いの前に、力をつけるのは当然の話だが…それにしても本職はあれだけ食べるのかと感心する。


 「…カイセ殿。すまないが、やはり今日の突入に私は付いていけない」

 「え?あぁ、まぁ当然ですよね」


 今日行われる突入作戦。

 ここに居る騎士たちも一部は共に行く。

 だが…当然ながら要人である王子自身は未知の領域に踏み込むリスクを負うわけにはいかない。

 一応本人には意志はあったようだが、周りは当然止めるだろう。


 「ゆえに…エルマ殿を頼む」

 「はい」


 こうして淡々と、そして着々と近づくその時。

 突入作戦は直前へと迫ってくる。

 

 

 

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