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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第七章:エルフの国のもう一振りの神剣
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火の信奉者




 「――これは…子龍までも琥珀の檻に捕らわれておいでなのですか…」


 カイセ達が向かった場所に待っていたのはエルフの人々。

 地下避難所とはまた別に、一部のエルフ達が集う建物。

 そこでエルフ側の臨時責任者に、樹液で作られた檻に閉じ込められたジャバを見せる。


 「実はこのように…他にも捕らわれた者たちが居るのです」


 そして案内され見せられたのは、同じように琥珀に閉じ込められたエルフの人々。

 同じ部屋に保護されている琥珀檻の被害者たち。

 パッと見で十名ほどの姿が見える。


 「どうやら下手人は一定以上の強者と対峙した時には撃破ではなく拘束による無力化を選んでいるようです。琥珀に閉じ込められているのはこの国でも腕利きばかりです」


 騒動を起こした連中が、敵対者に取る対応は二つ。

 斬って戦闘不能状態に落とすか、琥珀の檻で閉じ込めるか。

 その基準が相手の強さ。

 明確な格下相手には容赦なく斬って、相応の実力者はなるべく傷を浅くし檻に閉じ込め無力化する。

 

 「その腕利き達に檻を押し付けられるほどの実力者が居るということですか」

 「そうですね。相手が何者であるかは対峙した者たちがこの有様なのでまだ確認できていませんが、彼らに対して余裕がある実力者が相手に居るのは確かでしょう」


 実際に騒動を起こしたエルフと対峙した者は皆斬られて意識を失っているか、琥珀の檻の中で正確な情報が得られていない。

 

 「しかも…我らエルフの同胞が、この出来事に大きく関わっているとは…悲しい話です」


 今回の騒動にエルフの誰かが関わっているのは確定的。

 だがその『エルフの誰が?』の特定がまだ出来ていない。

 各避難所の避難者など、現在位置が判明する者たちで名簿でも作れって照らし合わせれば自然と居ないものが判明するがその余裕が今はまだない。


 「彼らと、筆談での情報交換などは?」

 「それが…閉じられた者はみな意識がぼやけているようで…この檻は世界樹様の気が濃く、中の者達は酔ったように意思疎通が難しくなっているのです」

 「ジャバ殿は元気そうだが?」

 「子龍とは言え龍となれば、その手の耐性が強いのだと思います」


 気を失っている人々と違い、檻の中の人々は起きてはいる。

 だが琥珀檻の栄光を、世界樹の濃い気に充てられて酔ったように意識がぼやけて会話が成立しない。

 しかしジャバは龍ゆえか、その反応は見られず元気。


 「それならばジャバ殿から相手の目撃情報を…いやもっと…もしや大精霊様ならば、眷属の見た景色の絵から特定できるのではないですか?」


 すると王子はジャバから情報を聞き出す提案をしようとして…もっと会話をしやすい情報源を思いつき、同行する水の大精霊に情報の有無を尋ねた。


 《そうですね。全てとは言いませんが数名の顔は判別出来ます。ですが見た目が分かるだけで、その者の名や役職などは》

 「似顔絵を描くのは可能ですか?」

 《残念ながらその手の技能に疎く》

 「名簿がございます。要職に就く者に限りますが、顔絵付きの登録簿が存在します。手練れとなればその中の誰かと、それを読んで頂ければ一致する者が居るかもしれません。水の大精霊様。確認して頂けませんか?」

 《構いませんよ》

 「では保管庫にご同行頂けますか?重要書類の類は長などの許可が無ければ保管庫から持ち出せないのですが…今この場におらず保管庫に赴くしかないのです」

 《分かりました。向かいましょう》

 「君、保管庫は任せる。くれぐれも大精霊様に粗相のないように」

 「勿論です」


 そして大精霊と補佐官のようなエルフが一度この場から去って行く。

 残されたカイトと王子たちは、目の前の問題に言葉を交わす。


 「それで…ジャバ殿は、いやここにおられる琥珀に捕らわれた者達は解放出来ないのですか?」

 「…元々この琥珀の檻はこの国の世界樹素材研究の一環で生まれた試作品の一つなのでが、様々な運用上の問題から実用には至らなかった物なのです。ゆえに特殊樹液そのものも、この檻の拘束解除用の魔法道具も、全て一つずつしかないはずなのです。ですが…」


 本来は一個しかないはずの樹液の檻が、何故か複数個、この場の拘束された人々の分だけ勝手に量産され、こうして悪用されていた。


 「保管してあったそれらを確認したところ、特殊樹液も解除道具も、そして設計図の書類の写し(・・)も、あるべき場所になく何者かに持ち去られていたことが判明しました」


 いつの間にか無くなっていた道具一式。

 それを元に量産し、今の悪い状況に至っていると推測できる。

 まだ確認は出来ていないが、素材となる世界樹の樹液も盗難に遭っていると推測できるだろう。


 「写し、と言うことは原本は?」

 「あります。今はそれを用いて新しく解除道具を作成しているところですが…元々、腕利きの職人でも一つ作るのに数日かかる代物です。ゆえにすぐにとは」


 しかし設計図は残っているので奪われた解除道具を新たに作ることは出来る。

 だが…今の状況では数日掛かりの製作過程。


 「…ギリギリだな。龍であるジャバ殿は保つだろうが、エルフの方は衰弱する者も多いだろう」


 琥珀の檻は光を通すが、人の生存に必須となる水を通すことは出来ない。

 つまり閉じ込められている間、食事に水飲みも出来ない。

 解除道具が完成するまでに脱水でどこまで弱るか。

 時間が掛かればそのまま死もある。


 『現在対応策を検討中です。しかし檻が相当に厄介な性質を持っており難航しています。今しばらくお時間をください』


 一応神剣がカイセらの力でこの檻を安全に割る方法を検討してくれているが、さしもの神剣ですら手をこまねく世界樹の樹液の琥珀檻の厄介さ。

 結局現時点では有志に任せて棚上げにするしかない問題となった。


 「戻りました。大精霊様のご協力により、数名の身元が判明しました」

 「どれどれ…ふむ…」


 すると戻って来た大精霊たち。

 彼女が眷属を通して目にした光景に映る人々の姿と、名簿の姿絵の称号の結果三名の該当者が出て来た。


 「…なるほど、全員"火の信奉者"ですか」

 「信奉者とは?」

 「我々エルフは精霊を信仰します。ですが…皆が同じ精霊様を信仰しているわけではないのです。勿論全ての精霊様に敬意を示しますが、その中でもそれぞれに一番に思う属性(・・)が存在するのです」


 エルフは世界樹と自然と精霊信仰の種族。

 だが精霊には水、風、土、火の四属性が存在する。

 精霊信仰を持つエルフ達の中でもそれらは一種の派閥(・・)のように、一番に好いている精霊が異なる。 

 前提は精霊全員への敬い。 

 しかしその中でも一番尊敬するは誰?というお話。


 「そして今判明した襲撃者のエルフのうちの三名は、全員"火の信奉者"です。つまり火の精霊様を第一に敬う者達です」


 そして判明した三人は、全員が火の精霊を敬う信奉者。

 

 「恐らく…今回の騒動は、火の信奉者によるクーデター(・・・・・)なのでしょう」


 その前提で生まれる推測。

 今回の騒動そのものが、火の信奉者が起こしたクーデターというお話。


 「それは、彼らはそれだけの事を起こす可能性を持っている集団だと?」

 「そうですね。その通りです。火を信奉する彼らにとってこの国の火の精霊様の扱いには常より思うところがあるでしょうから」


 火の精霊はこの国において唯一定住が拒まれている精霊だ。

 森と火の相性を鑑みれば仕方ないがという意見もあるだろうし、火の精霊はそれに従っている。

 だが火を信奉する者達には、その扱いに思うところがあるのも分からなくはない。


 《そうですか、彼らが火の精霊たちを焚きつけている(・・・・・・・)張本人だったのですね》

 「焚きつけるとは?」

 「最近火の精霊様がたと水の精霊様がたは仲違いをされているようでして」

 《最近の彼らは、わたくしたち水に対して随分と挑発的になっており、喧嘩に発展することも多くなっているのです》


 それはここに辿り着くまでの旅路で、水の大精霊から聞いたお話。

 水と火の仲違いの最中。

 例の、雨を降らせ続けた水の精霊の行動の根幹にある懸念の元。


 「…フェニが攫われてるのって…」

 《火絡みゆえ、でしょうね》


 この騒動に火が絡むとなると、やはり結ばれるフェニとの関係性。

 拘束無力化ではなくフェニそのものが攫われた理由。

 火の精霊にとって不死鳥は同族の成れの果てにして祖先でもある。

 フェニの存在に何かを思って居ても不思議はない。

 

 「フェニ、とは不死鳥の名でしょうか?」 

 「あ、はいそうです」

 「となるとますます火の…と、帰ってきましたか」

 「あれは…族長殿か」


 するとこの施設に、臨時の対策本部のようになっているこの場所に戻って来たエルフ達。 

 その中にはこの国の長である、エルフの族長の姿もあった。


 「おぉアルフレッド王子!御無事であったか…使いを送ったが途中で倒され、代わりが辿り着いた時には既に牢を出た後だったと報告が来て心配しておったがよかった!」


 どうやら牢屋に放置されていた時間は、彼らにとっても不本意だった様子。  

 使いが途中で敵に遭遇し倒され、辿り着いた時には入れ違いになっていたらしい。


 「ご心配をおかけしました。それより…族長殿自ら一体どちらへ?」

 「賊どもの行き先じゃ。あやつら…よりにもよって世界樹様の御許に立てこもりおった!」

 

 そして判明する賊の行き先。

 世界樹周辺の聖域の先、転移を使って踏み込む箱庭。

 あの白い空間に、下手人たちは立てこもったのだった。



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