表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第七章:エルフの国のもう一振りの神剣
178/221

琥珀の檻




 《――ほらほら早くお開けなさい。これ以上掛かるなら壊しますよ》

 「まもなく終わりますので少々お待ちを!!」


 大精霊に急かされて、急いで牢の扉を開けようとする見張り番のエルフ。

 牢屋の鍵は多重のセキュリティで固められているようで、一つ鍵を開けて開放とは行かないようだ。


 「…開きました!」

 《さぁ行きましょう!》


 そして数分掛けて開いた扉を出て、急いで施設の外に出るカイセ。

 

 「これ全速だして大丈夫か?」

 《文句を言うものが居るならば、私が叱りつけましょう》

 「じゃあ遠慮なく…とりゃ!」


 するとカイセはその足に力を入れて跳びあがる(・・・・・)

 順路を無視して橋から橋へ、ほぼ全力で跳んでショートカットしながら目的地に向かう。


 「あ…王子たち追い抜いたか」

 《この速度ですからね》


 すると道中で、先んじて牢屋を出て走る王子と従者を追い抜いた。

 彼らの牢は鍵がかかっていなかったので一足先に出発した。

 だが通常の強化速力程度はステータスの大きな差で覆せる。

 数分先んじたアドバンテージは、道行きの中間地点辺りで追い抜いた。


 《あの位置ならば彼らも直ぐに追いつくでしょう。今はまず一刻も早く辿り着くことを》

 「分かってる!」


 そのまま追い抜き進む道。

 そうして先に辿り着いた場所は…カイセらに宛がわれた宿泊用の家。

 

 「血の痕か…」


 だがその家の前にはいくらかの血の跡。

 人の姿はないものの、戦いの痕跡が残されている。


 《負傷者は余所へと運ばれています。誰も死んではいません。なので今は中に》

 「あぁ…」


 そんな異変の起きた家の扉を、カイセは開いて中に入る。

 するとそこには…数体の水の精霊の姿。


 《見守りご苦労様。もう良いですよ》


 大精霊の言葉を聞いてすぐに去って行く精霊たち。

 彼らが退いたその先には…〔琥珀色の結晶体〕の存在。


 「――――!」

 「ジャバ…元気そうなのはわかるけど、何言ってるか全く聞こえない」


 そこに待っていたのは子龍ジャバ。

 ただしその姿は琥珀色の結晶体の中。

 つまりは閉じ込められた(・・・・・・・)状態。

 その中で何か元気に喋っているのだが、言葉は遮られ此方に伝わらない。

 そして見渡す周囲にはエルマとフェニの姿もない。


 「――――!」

 「だから分からないって…まずはジャバだな。というかジャバにも壊せなかったんだな。この《結界》。いや…でもこれは…」


 そして確認するのは脱出の手。

 この琥珀色の結晶体の、目の前の《結界》の破壊方法の模索。

 だが…その目の前の結界に、カイセは違和感を感じる。

 同時に《鑑定》を起動するが〔試製・世界樹式拘束具:四型〕としか表示されない。

 鑑定の欠陥というべきか、名付けた名前が全てそのモノの本質を表すものではないという致し方ない欠点を改めて知らさえる。


 《そもそもこれは結界ではありませんよ?》

 「みたいだけど…こっちじゃ拘束具としか分からなくて」

 《これはただ樹液(・・)を固めたものです》

 「…じゅ、樹液?」


 だが水の大精霊曰く、そもそもこれは結界にあらず。

 正体はただの〔樹液〕。

 木から採取できる液体を、ジャバを閉じ込める形で固めたもの。


 「てことはまじでこれ〔琥珀〕なのか」


 大昔の樹液が固まり化石化した〔琥珀〕という一種の宝石。

 中に蚊が閉じ込められていたりするとDNA的な価値が生まれる少し特殊な代物。

 しかし今琥珀に閉じ込められているのは死んだ虫ではなく生きた子龍。


 《勿論、普通の樹液ではなく、世界樹から授かったという特別な樹液です》

 「もう何でもかんでも世界樹だな、ここって…」

 「まぁ仕方なかろう。ここはそういう国なのだから」

 「あ…王子?」


 するとそこに遅れて辿り着いた王子たちが姿を現す。

 結構全力で走っていたはずなのだが、息の一つも荒らげてはいない。


 「樹液を固めた琥珀の檻か…となると空気はどうなる?」

 「え、あー」


 そうして合流した王子は目の前の事象に疑問を投げかけた。

 結界ならば回避できる問題。

 しかし樹液を固めた、物理的な密閉の檻であるならばそれは酸素も遮断する要因になる。

 現状音は遮られ、しかし光は通っている樹液の檻。

 

 「あれ?でもさっきから全然…」

 《この檻は都合の良いものを通し、都合の悪いものを遮るように調整されていますね。中の者を生かすために空気も問題ないようです》

 「どれだけ優秀なの、世界樹素材…」

 「ここの者達は世界樹素材にはより一層研究熱心と聞くからな。そこで生まれた一部の技術は交流と共に我々の国にも恩恵をもたらしている」


 光や空気は通しつつ、しかし物理・魔法問わず攻撃要素はしっかりと弾く。

 便利で都合の良すぎる世界樹産樹液の琥珀の檻。


 (空気を通して、本物の琥珀みたいに密閉しているわけでもなく内側には狭いけど動けるだけの余裕のあるスペースを用意してる。元からジャバを殺すつもりはなかったのか)


 ただ、その都合の良すぎる琥珀の檻は、ジャバを封じる為のもので生かす為の最低限の配慮があった。

 更に言えば護衛の騎士たちも全員負傷はしたが生きてはいるらしい。

 何かしらの事を起こしつつ、可能な限りの不殺の意志を感じる。


 《念のため、動かさずに分析させましたが、動かしても問題はなさそうです》

 「でも檻を壊すは大精霊にも無理なのか…」 

 《申し訳ありません。精霊という存在は、自然との親和性ゆえに逆に概念的に世界樹には不利が多いのです。この檻に関してはどうにも…》

 「ある意味で、精霊にすら有効な手というわけか」

 「精霊にも…」

 『しかし我々であれば破壊自体は可能です』

 「お?壊せる?」


 すると言葉を発したのは腰の神剣。

 あくまでも聞こえたのはカイセだけだが、神剣は自ら分析した目の前の問題の突破方法をカイセに伝授する。


 『本剣を全力(・・)で振るってください。それで破壊は可能です』

 (それ多分中のジャバもタダじゃすまない奴だよなぁ…文字通りの全力だと)


 ただしその手段は神剣を用いた上で999の全力の斬撃。

 余計な付与は要らない純粋な力任せの(・・・・)斬撃。

 剣の達人と違い、最小で最大を発揮は出来ないカイセはきちんと力を使って振るわねばならない。

 そしてさしもの世界樹の樹液の檻も、その馬鹿げたパワーには耐えきれない。

 だが…その全力(・・)は諸々の影響を度外視したもの。

 つまりは周囲や中のジャバに、どれだけ被害が出るか分からない。


 「…乱暴な手段以外に、これ解決する方法はないのか?」

 《そもそもエルフの技術の結晶ならばエルフに頼めば解除は出来ましょう。ですが…そのエルフ達は今まさに大変な状況に陥っていますから》


 餅は餅屋、世界樹素材のエルフの技術はエルフに尋ねるのが一番。

 そこにはきっと乱暴なリスクを負わずとも、安全にジャバを解放する手段はある。

 ただしその余裕も平時であるのならば。


 「そもそも、ジャバ殿をこのような目に合わせ、エルマと不死鳥を連れ去った者は何を目的にしているのでしょうか?」

 《真意まではわからないですが、やっていることは明確ですね。一部のエルフが火の精霊と協力してこの里に反旗を翻した(・・・・・・)、一種の反逆・クーデターです》


 今この里に起きている事件。

 それを起こしたのは一部のエルフと、協力関係にある火の精霊陣営。

 彼らは今、何かの目的の為にこの里で騒動を起こしている。

 昨晩の巫女の襲撃と神剣の強奪。

 そしてここで起きたジャバの拘束、フェニとエルマの誘拐。

 それらは全てそいつらの起こしたことだと、水の大精霊は語る。


 「「王子!!」」

 「おぉ、皆無事か」


 すると更に王子一行が合流してくる。

 いつの間にか連絡を取っていたのか、駆け付けた騎士たちが王子を守りだす。


 「他の者は?」

 「エルフ側の避難誘導に従い地下へ避難を」


 エルフの習慣は地に足を付けないものだが、いざという時の避難場所はその更に下の土の中、地下空間に存在するようだ。

 王子一行の非戦闘員は、エルフ側の誘導に従いそこに逃げている。


 「エルマ殿の守護に回した者達は?」

 《この場を守っていた人々は、エルフも人間も全て倒されました。命までは奪われていないようですがこちらでエルフ達のもとへと運びました》

 「そうですか…感謝します」


 そして元々ここでエルマの守りを任されていた騎士を含め、彼らは全て襲撃者に倒され、今はエルフの下で治療中のようだ。


 《押しかけて来た火の精霊の手勢により彼らは倒され、子龍は檻に拘束され、非力な神眼少女と不死鳥は攫われました。私が駆け付けたのはその後ですが、近くに居た水の精霊から記憶を共有しました》


 水の大精霊自体は全てが片付いた後にここにやって来たらしいので直接事の次第を目にしていない。

 しかし配下の水の精霊が目撃したその情報を自身で共有し、その流れを知ったようだ。


 「もしや…今も配下の精霊と共有を?」

 《えぇある程度は。火の精霊相手には自衛できない弱い子も多いので数は限られていますが、強い子達には刺激しない程度に森の中に散って私の眼になってもらっています》

 「では、攫われた者達が何処へ行ったか分かりますか?」

 《ごめんなさい。追わせはしたのですが見失いました》

 「ならば何処に向かえばエルフ側の責任者達と合流できるかわかりますか?」

 《えぇそちらはしっかりと。案内しましょうか?》

 「お願いしたい。カイセ殿も、焦る気持ちもあるだろうが今は行動を共にして欲しい」

 「分かりました。ジャバもエルフに見せたいですし」

 「ありがとう、では行こう!」

 

 そしてその場の一行は、水の大精霊の導きに従い移動する。

 カイセとしては今すぐにでもフェニやエルマを助けに行きたい気持ちもある。

 だが居場所は分からない上に、相手の目的も不明。

 下手な行動が大惨事の引き金になりかねない。


 「…ジャバ、行こう」

 

 内心で気持ちは焦りを見せるが、それでも冷静にあろうとするカイセはジャバの収まった琥珀の檻を抱えて、ひとまず一行の後についていく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ