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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第七章:エルフの国のもう一振りの神剣
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平穏な時間




 (――結局、分からないことが分かった、って感じだな)


 二振り目の神剣の情報を求め、ダメ元でポカ女神のもとを訪れたカイセ。

 ことが神剣事案である為、人の身に伝えられることは殆どないだろうなと思いつつ尋ねた情報。

 そもそも縁があるとはいえあくまでもカイセは人間。

 人には伝えられない言葉も多いと…思っていたが割と、存在証明やら漂流物やら地上では聞く機会のない言葉や世界のルールを普通に口にし聞くことになった。

 そういう意味では何の成果も無かったわけでもないのだが…肝心の神剣に関しては文字通り『分からないことが分かった』だった。


 (あの神剣の出所は分からない。漂流物で、よその世界から流れ着いたにしてもその大元の世界が何処かが全く分からない。推察すると神剣って全部登録されてるようなそぶりだったのに、それでも神にも天使にも確認できなかったか…)


 天使クロが目を通していた本。

 中身を読むことは当然叶わなかったが、話の流れであれらの本には事実上全ての神剣について記されたものだと推測できる。

 何処まで詳細に記されているかは不明だが、少なくとも作られた神剣の出身世界については知ることのできる本なのだろう。

 だが…その本を読み切ったはずのクロは、結局あの神剣の出自を明らかにすることが出来なかった。


 『ここに記されていない以上はすぐに答えを見つけ出すのは難しいです。勿論より深く調査をすれば分かることも出てくるでしょうが…あぁ、そろそろ限界みたいですね。はぁ…』


 勿論、もっと手間暇をかけてしっかりと調査すれば何かしら出てくるだろう。

 しかし今のポカ女神たちには山積みの書類が待っている。

 休息時間に別件にとかまっている間に更に積もった山。

 漂流物の存在証明こそ急ぎの案件ゆえ手を掛けたが、不明の神剣の正体探しは大事だが緊急ではない為に、ポカ女神たちはまず調査よりも周囲の山を崩すことを優先せねばならなかった。



 「――というわけで、ただいま」

 「おかえりー」「グル」


 そうして結局余分な知識ばかりを増やして帰って来た地上。

 向こうでの時間に比べればこっちの経過時間は遅く短いので大した時間でもないだろう。


 「ふふ、祈っていただけなのにただいまにお帰りとは珍しいやり取りですね」

 「あ、えぇ…まぁ」 


 そしてそんな地上では、あくまでも祠に祈りを捧げていただけのカイセ。

 あの領域に踏み込めるのはあくまでも魂や精神と呼ばれる中身のみで、人から見れば無心で祈る姿がそこにあり続けただけ。

 人目には何処へ行っていたわけではないのに『ただいま』に『おかえり』と挨拶を交わしたカイセらに首を傾げつつ微笑した案内人さんに、ちょっと失敗したなと思うカイセだった。


 「と…もう夕方か?」


 ふと、戻って来た地上の空を見上げると、木々の合間から赤い空が見えた。

 

 「もうこんな時間だったのか。祈り…というよりも向こうにそれだけ長く居たってことか」


 祈りと神様のもとに向かった時間はさほど長くはない。

 今日の予定で一番時間を割いたのはやはりあの世界樹の異空間の滞在。

 一泊して朝に中継地点の森の宿を出てエルフの国にはお昼前に入国。

 それから広い国の中を徒歩で移動しながら、最後には世界樹の巫女のもとへと転移。

 お茶会でお腹を満たしていたせいもあってか昼食を飛ばしたことも気にならずに観光案内され、外に出て今の祈りの時間。

 これで気付けばもう夕方。

 

 「世界樹様のあの空間は、時間が感じにくい場ですのでゆっくりし過ぎると外に出て『もう夜!?』と驚くこともよくあります。巫女様自身も不老ゆえか時間を気にせぬお方でありますし」


 時間の経過を感じにくい空間に、巫女自身が実質不老ゆえに時間への認識が人とはずれている。

 そのせいかあの場を訪れた者の多くは体内時計の調子を崩すらしい。


 「と、いうわけなので、せっかくですしこのまま食事場の方へとご案内しようかと思うのですがどうでしょうか?」

 「お腹すいたー!」

 「グルゥ」

 「お前らお茶会であんだけ食って…まぁ、お願いします」

 「ではこちらへどうぞ」


 そうして地上に帰還したカイセは、ジャバらと共に食事の場へと案内されるのであった。





 「――あ、お疲れ様です」

 「ん?あぁカイセさんか」


 その後、案内されてやって来たその場所には、エルフではなく人が集まっていた。

 彼らは王子の一行の面々。

 その中でも御者など、どちらかと言えば立場の低い人々。


 「皆さんだけですか?」

 「他は皆それぞれのお役目を。王子は会食もお仕事のうちですので」

 「あぁなるほど」


 王子にその側近や騎士たちの姿がないこの場。

 というのもまぁ考えれば当然と言えば当然なのだが、王子にとっては食事もお仕事の場。

 今はエルフの国のお偉いさんたちと会食の時間。

 ここにいるのはその場に付き添わない立場の者たち。


 「カイセーお腹すいたー」

 「と…そういえばここってジャバたちも入って大丈夫な食事処ですか?」

 「問題ありません。流石に酔って暴れる、などと言う不作法はご遠慮いただきたいですが、食事を楽しまれる分にはご自由に。エルフがこちらで食事を取ることもありませんの、作法もどうぞ皆さまのご自由に」

 「あ、客人専用の場所ってことかな?」

 「その通りでございます」


 エルフの食文化がどうなっているかはわからないが、少なくともこの場は客人専用の食事の場であるようなので、エルフの食事作法にお目に掛かることはなさそうだ。


 「ご用意いたしますお料理は私どもエルフの職人がお作りしますが、人族の一般的な料理は一通り習得しておりますのでどうぞお好きなお料理をご要望ください。もしご興味がありましたら私どもエルフの伝統料理もご用意させていただきます」


 ただ、ここで食せる料理は人族の文化に合わせたものもありつつ、エルフが普段から食す料理も注文可能で幅広く対応できるらしい。

 更にこの場の面々はあくまでも王子の一行としてこの国を訪れているので、食事も基本的に無料らしい。



 「おぉ…小柄なのによく食うなぁ」

 「さすが、子供と言えども龍だな」

 「ほらどんどん食え」

 「バクバクバクバク」

 「…普通に失敗したなぁ、問題があるわけではないけど」


 そして始まる食事の時間だが…ここでカイセは自身の失敗に気づかされる。

 それは伴うジャバの姿。

 道中はモコモコで龍の姿を隠してきた。

 しかしエルフ相手には偽装も通用せずバレていたので、途中からはモコモコを脱がせて堂々と連れ添っていた。

 だがそれが急な再会のせいで、この場の面々にジャバが子龍であるとバレてしまった。

 勿論それで何が起こるわけでもなく、むしろジャバに餌付けして楽しむおっさんたち。


 「まさか龍を連れていたとはね。王子の馬車に呼ばれるだけある」


 彼らからすれば突然増えた謎の生き物を連れる同行者には、当然不思議に思うところもあった。

 まして途中でトラブルがあったとはいえ、王子たちと同じ馬車に同乗した時点で普通ではない相手なのは理解出来た。

 だが蓋を開ければそれもそのはずと、龍を連れ歩く人物ならば特殊な立場にあるのは当然と、ジャバの正体が明かされた事でカイセに対する疑念も一つ、あくまでも答えを得たわけでもないのだがそれでも晴れたようだ。


 「ほらほら、綺麗な鳥も、あんちゃんもしっかり食いな!これとかうまいぞ!」

 「あ、はい。あむあむ…」 


 こうしてエルフの国の最初の夕食を、賑やかに過ごすカイセ達。

 平穏な食事の時間。

 しかし彼らにはじわじわと、不穏が近づき始めていた。


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