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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第七章:エルフの国のもう一振りの神剣
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漂流物の存在証明



 「――うぅ、カイセさんの鬼!悪魔!堕天使!邪神!せっかくお仕事サボれてたのに…」

 「そこは建前でも休憩で通しておいた方がいいんじゃないか?」


 カイセに文句を言いつつも、ピコピコと端末を操作する女神。

 多忙の中の休息というサボりの時間を打ち切って、また別のお仕事(・・・・・)に邁進せざる得なくなったことに苦情を飛ばす。


 「というか、マジで知らないの?あの神剣」

 「知りませんよ!そもそも神々(私達)が全知全能だと思うことが大間違いです!」

 「まぁそこは初対面時に理解したけどさ」


 ポカの多い目の前の女神を見て、少なくとも下っ端の神様に関しては元々全知全能からほど遠い存在だとは理解していた。

 とは言えアレでも神である以上、人間とは天と地ほどの差があるのは確か。

 しかし…そんな神でさえ、エルフの国の神剣の存在を知らなかったらしい。


 「そもそも〔神剣は世界に一つしか作れない〕というのは根源ルールの一つですので、例え神であろうとも二本目が存在するなんて思いもしません、勿論私達天使もです」


 それぞれの世界にある、神々を含めた絶対のルールには神剣の製造に関するものもある。

 詳細は人間には聞かせられないが、〔神剣は一つの世界に一つだけ〕というのはそこに含まれるもの。

 二本目は絶対に作ることが出来ない鉄則。

 ゆえに神様も天使も、自分たちの管理する世界に〔ニ振り目〕が存在するなど思いつきもしない。


 「ですが、確かにこちらの神剣の記録データにはそれが、少なくとも外装は間違いなく神剣だという証明がなされていました」

 「そうですね。一番大事な部分が抜けてはいるようですが、神剣でしか成しえない構造が存在し、中身は不在でもアレは確かにどこぞの世界で神剣として生み出されたものでしょう。何処かの世界の何処かの神が生み出した神剣なのは確かです」


 しかし、カイセのもとにある神剣の記録を抜き出し精査した結果、ほぼ確実にあれも神様産の神剣であると判定された。

 すると…サボりの最中だったポカ女神もクロも動き出し、今はダンジョンでなく神剣案件で仕事に向き合わねばならなくなった。


 「…やっぱり〔存在証明〕がない。〔漂流物〕でしょうね」

 「漂流物?存在証明?」


 するとポカ女神から聞き慣れない言葉が出て来た。

 

 「存在証明は大雑把に言うなれば身分証明とか鑑定書とでも言うべきか…まぁこの世界に生まれたあらゆるものに自動的に付与される存在の証明書です。出生証明とも言えますかね?」

 「それがあの神剣にはないの?」

 「はい。つまりやはりこの世界で生まれたものではないということです」

 「じゃあ漂流物って言うのは、もしかして他の世界から的な」

 「そうです。何かしらの要因で非公式に世界を跨いでしまってこの世界に流れ着いた物品(・・・・・・・)を漂流物と呼んでいます」


 この世界に生まれたモノであることを証明する〔存在証明〕。

 よその世界から何かしらの理由で流れ着いた〔漂流物〕。

 存在証明の無いあの神剣は、よその世界で生まれて何かしらによって流れ着いてきた代物だと推測された。


 「あ…もしかしてあのバスも」

 「え?あぁそうですね、あれも漂流物でしたね。カイセさんが発見したことでこちらも存在を認識したので、今のように存在証明を発行して貼り付けました。なのであれはもうこの世界の存在です」


 それは以前に龍の里において発見した古びたバス。

 勇者の秘密基地に眠っていた、この世界に存在しないはずの代物。

 あのバスもまた他の世界から流れ着いた存在証明のない"漂流物"であり、カイセがあそこで認識した事で結果として後日女神も認知するに至った。

 

 「漂流物自体はそこまで珍しいものでもないのです。勿論頻繁にあるものでもないですが、人々が考えるよりも世界の壁というものは薄く、そして穴があるのです。そんな穴を何かの拍子にくぐって飛び出し、よその世界に辿り着くものもまぁ…百年に一度ぐらいはあるのですよ。それがもし人だった場合は"迷い人"などとも呼ばれるのですが」


 漂流物そのものは神様からすればそこまで珍しいものではない。

 しかしそれらは異物であり、神様としては頭を悩ませるもの。


 「漂流物にも、当然本来なら元の世界で存在証明が与えられています。ですが世界から不正規に飛び出た際にその証明を失い、辿り着いた先の世界では存在証明を失ったまま気付かれずに放置されることも多いのです」

 「証明がないのは問題あるのか?」

 「一つ二つなら問題ないのですが、証明の無い異物がいくつもとなれば、それはこの世界にシステム的な不具合を起こす(バグ)になりかねないのです。だからこそ発見次第、今私が行っているように調整を施してこの世界の存在証明を与えて対処していくのです。異物ではなくこの世界の正当な一部としてきちんとシステムに登録し直してバグの可能性を減らすんです」


 今女神が行っているのは、そんな異物をこの世界にとって正当な存在とする為のもの。

 本来この世界に存在しない代物を、きちんと世界の運営システムに受け入れさせる為の作業。

 これを行わず漂流物を放置し続けると、積み重なった不明な存在がシステムのバグに繋がることもあるらしい。


 「いやまぁ、他愛のないものならともかく、神剣を認めちゃっていいの?」

 「普通は根源ルールの問題でダメですが、見たところアレは神剣として一番大事な部分を無くしているので〔神剣に似た剣〕として扱えます。神剣の神髄はアレが失った部分にあるので、そこが無ければ手はあるのです」


 普通は二振り目の神剣の存在を認めることに問題があるらしいが、エルフの国に眠っていた神剣は一番大事な部分を失い、神剣であって神剣ではないと言い訳が出来るらしい。

 ゆえに通常の漂流物と同じ作業を急ピッチで行うポカ女神。


 「ちなみに…あっちは本読んで何してるの?」


 対して部下の天使クロは、気づけば別の場所で積み重ねられた本を読んでいた。


 「あちらにはあの神剣の出自を調べて貰っています。普通の漂流物ならともかく、あれは世界に一振りの神剣のなれの果てです。大事な神剣を流出させている元の世界について確認しておかねばなりませんので、その出所を調べて貰ってます」


 クロの役目は神剣の出自の調査。

 バスのような他愛もない漂流物なら必要はないが、仮にも世界の大事な神剣。

 あれが生まれた元の世界にとっても流出は大問題。

 ゆえに必要な確認作業。


 「…何か凄い勢いで読むなぁ…それにあの本、消えてはまた新たに出てくるけど、一体何処から持って来てるんだ?」

 「ご存じ《星の図書館》ですよ。神剣関連なのでカイセさんが立ち入れない禁書庫領域に納められた本ですが」


 凄い勢いで何冊も読んでいき、気づけば何処かに消えて何処から出現する本たち。

 その出所はどうやら例の《星の図書館》。

 アクセス権限レベル10のカイセでも踏み込めない禁書庫に納められたデータを閲覧しているらしい。


 (…積み重なってるなー…書類)


 そんな新たな作業に挑む二人を尻目に、視線を余所に向けてみると書類の山がじわじわ増えていく景色が見える。

 今、頑張って神剣に対応している二人は、それが終われば更に積み重なった仕事に向き合わねばならない。


 (マジでブラックだなぁ…まぁ仕事持ち込んだ側だけど俺)


 ちょっと申し訳なく思うカイセだが、とは言え存在証明は世界のバグになりかねないお話らしいのでむしろ発見して報告したカイセは世界にとっては良いことをしている。

 だが…実際に働く女神と天使の苦労が見えるとあまり誇れない。

 

 「…というか、仕事増えたなら、シロを起こさなくていいの?」

 「彼女、無理に起こしても逆効果にしかならないので」


 そうして働く二人を尻目に、今なお眠り休む白天使シロ。

 彼女を起こせば人手が増えるのだが、それをあえてしない二人。


 「シロはやる時は優秀なのですが、モチベーションや精神面の影響がクオリティに直結するタイプなので無理に働かせても無駄なのです。短時間でレベル10を集中的に発揮するか、長時間でレベル1をとりあえず働かせ続けるかとなれば前者ですね。なので休む時はきちんと休ませ、起きた時に最大のお仕事効果をという運用をした方が効率が良いんです」

 「お二人はそういう意味でも正反対ですよね」


 クロ自ら語る自分たちの違い。

 短時間だが誰よりも力を発揮するシロ。

 長時間で持続的に安定した力を発揮するクロ。

 その違いによる運用方法の差。

 今もぐっすりと眠るシロが許されているのはそこにあるそうだ。


 「違いはあれどお二人とも優秀な天使です。ですがそもそも数が足りてないので…はぁ…いっそカイセさんを天使にできれば人手が増えるのですが…いっそ本当に天使に」

 「仕組みは知らんが絶対にならない」


 すると人手欲しさにカイセを天使化する目論見を口にするポカ女神。

 ステータス的にはちょっと怪しい現状だが、それでも本当に人間をやめる気は毛頭ない。


 「…さて、そうこうしている間に、こちらは参照が終わりました」

 「あら?どうでしたか?一体どこの神剣で」

 「ありません(・・・・・)でした」

 「ん?」


 そしてまず先に調査を終えたクロが結果を口にする。

 だが…その言葉に答えはあらず。


 「現在登録されている神剣一覧の中には存在しない(・・・・・)神剣です。つまり文字通り出自不明。結局正体は分からずじまいでした」

 

 

 

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