神剣の守護騎士
【神剣エクスカリバー】
この世界の歴史、絵本のおとぎ話にもなっている〔初代勇者〕の物語。
そこに登場する、彼が神様直々に賜り世界を救う力となった〔神様が造った剣〕。
地上に存在する〔聖剣〕〔魔法剣〕の原型となった始まりの一振り。
そんな伝説上の唯一存在が、カイセの目の前に静かに佇んでいた。
「……まさか、ここに眠ってたのか?」
おとぎ話によると、初代勇者は自らの使命を終えた後、この神剣を人の手の届かない場所に隠したと言う。
「神剣は人の手には過ぎた武器」としながらも「災厄の再来」に対抗するための保険として、神様に返還する事はせずに隠した。
そして自らは、神剣を模倣し人の手により生み出された〔聖剣〕に持ち替えた。
「その隠し場所がここか。ならここへ来るための〔光〕……もしかしたら〔迷いの森〕現象も初代勇者の仕業なのか?」
勇者以外の人物がここへとやって来れない様に。
そういう目的があったのではと思いながら、結局部外者であるカイセがやって来てる時点で若干詰めの甘さを感じずにはいられないのだが。
「……それで、肝心の勇者は何処に行った?」
広間を見渡しても、本件の主役となるはずの勇者ロバートの姿は何処にもなかった。
「まぁ道は一つだったから、ここで待ってれば合流でき……あれ?」
カイセが後ろを振り返ると、そこにあったはずの道が消えていた。
周囲を見渡しても、道らしい道や通れそうな場所は一切見当たらない。
「閉じ込められた?」
この場にあるのは、壁に均等に設置された光源の光る石と中央の神剣のみ。
行くべき道を見失った。
「……多分出口は消えれども、俺みたいに入って来る事は出来るよな?」
ひとまずカイセは、勇者ロバートが合流するのを待つことにした。
「――来ないなぁ」
食事もし昼寝もし、待てども待てども誰も来ない。
景色が全く変化しないため、時間を把握する事も出来ない。
だが恐らく四時間以上は経過したであろう。
「しくじったかな?」
そもそもこことは別の場所に飛ばされた可能性。
もしくは既に帰還している可能性。
飛ばされたのはカイセだけである可能性。
最悪は勇者が既に死んでいる可能性。
――などなど、他の可能性が高くなってきた。
「……仕方ない。一人で出口を探すか」
変な罠を作動させても困ると思い、一切手を付けていなかった広間の探索であったが、流石にいつまでもこのままで居る訳には行かない為ようやく探索を開始した。
それから更に一時間後。
「何もねぇ……」
探知系の魔法が使えない空間であるため、自力でひたすら探し回ったが結局何も出てこない。
「そうなると……もうアレ一つしかないよな」
出来れば触れずにいたかった存在。
〔神剣エクスカリバー〕。
あれを調べるしかなくなっていた。
「正直不安しかないけど……いざ!」
カイセは神剣の柄に触れた。
すると案の定反応があった。
『アナタ ハ コノ ツルギ ノ ショユウ ヲ ノゾミ マスカ?』
「ノー!要らない!!」
触れた途端に聞こえて来た機械で合成されたかのような音声。
カイセはその声の問いに、ノータイム即答で拒否を明言した。
「貴方はこの剣の所有を望みますか?」
冗談ではない。
ただでさえ面倒な体であるのに、更に面倒を背負い込みたくはない。
『では 私に 関する 記憶を 消去します』
その言葉と共に、カイセの頭に強い衝撃が加わった。
攻撃を食らったわけではない。
ただ、何かが脳へと干渉しようとしたのを、カイセが常時展開している《精神防御》が弾いたのだ。
『消去 失敗 もう一度 失敗』
二度目の衝撃。
洗脳や魅了を扱う魔物と遭遇した時の為の備えであったが、今回はそれが裏目になった。
『秘密保護に 失敗 非常時行動』
雲行きがだいぶ怪しくなった。
もしかしたら素直に記憶消去を受け入れるべきだったのかもしれない。
『実行 召喚 《クラス:ナイト》』
とっさに神剣から距離を取るカイセ。
神剣の突き刺さっている地面に《召喚陣》が展開されたのだ。
そこから出てきたのは。全身甲冑で正に如何にもな騎士の姿。
【守護騎士】。
神剣を守りし番人であった。
『対象設定 排除せよ』
そして騎士は、カイセへと襲い掛かった。