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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第七章:エルフの国のもう一振りの神剣
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二振りの神剣



 ――【神剣】とは、人類の…そして世界の危機に立ち向かう為に管理者である神様が直々に生み出し授けた神造の剣。

 それは本来世界に一振りの、唯一無二のオンリーワン。

 この世に一つだけであるはずなのだが……



 【神剣 無名】


 《能力作成能力》

 ・〔剣武補助〕

 ・〔領域浄化〕



 だがエルフの国で、世界樹のもとの箱庭に安置されていたその剣は確かに神剣(・・)であると刻まれていた。

 名もなく能力(中身)もカイセの知る神剣とは異なるが、それが神剣であることは確かな事実。

 カイセ視点で見れば、自身の腰元に寄生(・・)した見えない神剣こそが唯一の神剣であり、目の前の剣が偽物だと疑う。

 ミコ視点で見れば、長年安置されて来た神剣こそが本物であり、カイセの携える一振りこそが偽物だと疑って然るべき。

 しかし今は互いに、その偽物疑惑のあった神剣もまさしく本物だと理解しあった。



 (まぁ…こうなるとあのはた迷惑なエルフの行動も一応は理解出来ちゃうよなぁ…問答無用でってのはいただけないが、故郷に安置されているはずの大事な神剣と同じような気配を出先の余所の国で感じたなら、盗まれたのかもとか思うのもまぁ…)


 そもそもの根本の騒動。

 王都でエルフの男に襲われたカイセ。

 その男の襲撃理由が、まさにこの神剣にまつわること。



 『エルフの国にあるはずの秘宝を…いや、そなたに隠しても意味は無いか。かのエルフは『エルフの国にあるはずの神剣を、あの男が持ち出した可能性がある』と証言しているのだ』


 王城での、王様からの説明を思い出すカイセ。

 捕まった例のエルフの事情聴取で得られた言い分はカイセにも伝えられた。

 彼は見えこそしていないが、故郷にあるはずの神剣の存在気配をカイセから感じ取り、盗人疑惑で対峙して来たのだ。


 『彼は国許では"樹官"の任を…教会で言うところの神官、〔世界()に仕える()吏〕の役目を持つのだが、それによる世界樹の加護の力で、君の元にある神剣の気配を感じ取ったらしいのだ』


 巫女に比べてれば格下にはなるが"樹官"として地位相応程度の世界樹の加護を与えられている。

 その力がカイセの元にある神剣への疑念のキッカケになった。

 『神剣の気配がする』『神剣は国にあるはず』『では何故?』

 その先に僅かでも〔神剣が盗まれた〕可能性に行き当たり、尋問(・・)の為にちょっかいをかけて来た。

 王都での騒動はそれが真相。


 『まさか我も、エルフの国が神剣を称する何かを秘匿していたとは知りもしなかった。だが…知っての通り我らの知る神剣は其方のもとにある。唯一の神剣が何故か二振り。この謎を解くために、神剣の守護者である其方に一度エルフの国に赴いて、真偽を確かめて欲しいのだ』


 そうしてカイセはエルフの国にやって来た。

 だがそこで待ってたのは深まる謎。

 二振りの神剣、互いの神剣が共に真だと判明したことで〔神剣は唯一〕の前提が壊れた。




 「――とりあえず軽く斬り合って(・・・・・)見ましょうか?本物の神剣の座を賭けて雌雄を決してみますか?」

 「いや結構です」


 そんな現状で巫女のミコは、何故か神剣同士の斬り合いを提案して来た。

 勝った方が本物の神剣を名乗るという賭け試合。

 

 「そうですか。まぁ冗談なのですが」

 「まぁでしょうけど…そもそも神剣って、資格者以外には持てないんじゃないですか?」

 「えい!この通りです。」


 するとミコは安置された神剣を簡単に引き抜いて見せた。

 神剣が認めた者以外には、触れることは出来ても引き抜くことは出来ないはずの神剣の台座からあっさりと。


 「ミコも神剣の使い手?」

 「いえ。確かに伝承では選ばれし者にしか担えないとされているのですが、この通りこの神剣はどういうわけか誰でも(・・・)扱えてしまうのです。当然安置場所がここである以上は、この場所に立ち入れる者のみで試した限りのお話ですが、この剣がここに安置されているのもそういった理由が無きにしもあらずなのです」


 本来の認証が機能していない神剣。

 もしくは誰にでも扱える神剣。

 そのリスクを鑑みれば、人の立ち入りが限られる場所にしまい込むのも当然の対応だろう。 


 『マスター、当剣とあちらの剣の斬り合いを希望します』

 「え?」


 するとカイセ側の神剣から、ミコの冗談を受けたいと打診される。


 『確かめたいことがあります。殺し合いである必要はありませんが、幾度か剣を交えては頂けませんでしょうか?』


 神剣はありえないはずのもう一つの神剣の何かを確かめたい様子。

 その為の手段、データ取りの為にミコの冗談だった斬り合いを実際に行って欲しいという。


 『重ねますが本気である必要はありません。舞踏のような、遊びのチャンバラのような、とにかく形だけ剣をぶつけ合ってくだされば問題ありません』


 とは言えそれはあくまでもゴッコの範疇。

 実際に相手を切り伏せる必要はなく、ただ剣を軽くぶつけ合うだけ。

 

 「――ということなんだけど」

 「私は構いませんよ。剣は素人なので本当に振ってぶつけるだけになりますが」

 「こっちもほぼ素人だから」


 そしてカイセとミコは神剣の要望に応えて武闘を…正確にはチャンバラゴッコを始める。


 「では行きます…やぁあ!えい!」

 

 ガンと、鈍い音を立てながらぶつかる二振りの神剣。

 斬る意志のない鈍器のように刃は立てずに棍棒を振るようにぶつけ合う。

 気合の割に大した力も込めずに、子供の遊びのような武闘。

 幾合かの斬り合いモドキで神剣同士を競わせる二人。


 「…本当に、剣は素人なんですね」

 「私が巫女として学んだのは世界樹様を守るために必要になる魔法だけです。武具の類はエルフとして弓を嗜む程度で、剣など全くです」


 数百年の時を全く感じさせないへっぴり腰のミコの剣。

 専門外であるのなら当然と言えば当然だが。


 (…せめて、時々目を瞑って振るのだけはやめて欲しいなぁ…怖い)


 ただそれにしても、たまに剣を振る時に目を瞑って振るのだけはやめて欲しい。

 仮にも神剣、仮にも999。

 勿論大丈夫だろうとは思っても、もしもがちょっと怖い相手。

 やるならちゃんと安全に茶番をしたい。


 『――確認しました。確かにこの神剣は当剣と同程度の性能を備えています。ですが、管理システムが存在しないようです』


 そしてそんな茶番チャンバラを終えた後に来る神剣からの報告。

 剣を交えて把握した相手の剣の情報。

 それによれば確かに神剣相当の性能を持つのは間違いないが、しかしそこにあるべき機能が無くなっているそうだ。


 「(管理システムって、疑似人格みたいなやつか?今俺が会話してるお前みたいなの?)」

 『その通りです。より精度高く役割を全うする為に、使い手の意志を細かく読み取る為に備わる、確かに疑似人格と言っても過言ではない補助機能です。これがあるからこそ《能力作成能力》や、それらに生み出された能力の適切な運用が可能なのです。言ってしまえば神剣という存在の要とも言える機能なのです。ですが、この神剣は同じ雛型を持つ、言うなれば〔兄弟〕のような剣であるにも関わらず、肝心の補助機能が抜け落ちている為に今の状況では使い手を選べず機能も不全の状態にあります。この神剣はただの剣と化しています』


 調査の結果、本来神剣に備わるべき補助機能・人工知能のようなものが綺麗に空っぽになっていた。

 これは同じ雛型の神剣が共通して持つ《能力作成能力》の運用に不可欠なものであり、この謎の神剣は秘められた力を発揮できない状況にあった。

 つまり今のこの剣はただ剣として最高品質なだけとなっている。


 「(壊れてるわけじゃないのか?)」

 『破損はありません。状態に問題は無く、ただその部分だけが欠けているだけなのです』

 

 決して壊れている訳ではないが、剣以外の使い道が出来ないのは変わりない。



 「――なるほど、あるべきものが欠けていると。ゆえに神剣でありながら、神剣としての本来の力を発揮出来ない状態だと」


 そしてその事実は簡略的ではあるもののミコにも伝えられた。


 「つまり私がこの神剣を振るえたのは、その識別機能も消失しているからということなのでしょうか?」

 『その通りだと思われます』

 「あってるそうです」


 肝心の機能が無いために、認証選別が機能していない。

 ゆえにこの神剣は、剣として誰にでも振るえる。


 「…さて、正直考えるべきことは山ほどありそうですが、運動もしたのでひとまずは休憩も兼ねて約束通りお茶の時間にし、そこで少し語りましょう」

 

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