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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第七章:エルフの国のもう一振りの神剣
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大精霊と不死鳥の関係




 「――それでは、出発します」


 合図とともに走り出した馬車。

 エルフの国に向かう一団は、数日の雨の足止めも止み翌日ようやく滞在していた街を後にして目的地への進行を再開した。

 長雨の影響の大地に緩みもなく、馬車は順調に快走する。


 《しっかりと後片付けはしているようですね》


 そんなぬかるみも無い地面の状態を把握し言葉を漏らしたのは大精霊(・・・)

 精霊による長雨騒動に介入して来た責任者【水の大精霊 ウンディーネ】。

 水の属性を持つ精霊たちのまとめ役、親玉とも言うべき存在が…何故か人間の操る馬車の中にいた。


 「ありがとうございました、大精霊様。おかげ様で順調に進めそうです」

 《そもそもがこちらの、あの子の不始末です。散らかした後片付けを自分で行っているだけなので感謝は必要ありません。そもそも貴方がたは理不尽に迷惑を掛けられた側なのですから》


 数日振り続けた雨。

 その影響は一晩経った後とは言え、そう簡単には消え去らない。

 だがまるで雨などなかったかのように、しっかりとした道を進む馬車。

 これはひとえに精霊の後始末(・・・・・・)の結果。

 自ら降らせた雨の悪影響を、自ら改善して回るという指示を大精霊から下された水の精霊。

 今も何処かで地面を乾かしたり、川を鎮めたりと自分の雨の片付け(・・・)に出向いている。

 ゆえにここにはおらず、だが何故か大精霊が居る。


 (王子、楽しそうだなぁ)


 そんな大精霊と向き合い言葉を交わす王子はニコニコ笑顔。

 目の前にあの大精霊が居る。

 龍に不死鳥に続いて、精霊どころか大精霊との対面。

 今まで知識だけだった記憶に実際の対面経験が伴っていく事が楽しくて嬉しくて仕方ない今回の旅路。


 なお馬車の中は現在、王子の対面に座る大精霊。

 それぞれの隣に、王子側がエルマ、精霊側がカイセが座り向き合う。

 そしてジャバはカイセの膝の上、フェニは大精霊から一番遠い(・・・・)エルマの下でくつろいでいた。


 《不死鳥(その方)には避けられているようですね。わたくしは》


 不死鳥フェニはあえて(・・・)水の大精霊から距離を置く席を選んだのはフェニ自身の意志。

 あの話(・・・)にひっかかる部分があるのだろう。





 『《未だ思い出してはいないようですが、かつてのその方とはそれなりに(・・・・・)親しき仲でした》』


 水の大精霊との出会いの直後、水の精霊にお仕置きしながら語りだしたのはフェニとの慣れ染め。

 正確に言えば前世の、いや不死鳥になる前(・・・・・・・)の思い出。


 『《出会いはそれこそ生まれてすぐ。わたくしが水の精霊としてこの世に現れたばかりの頃、隣で生まれた(・・・・・・)のが火の精霊でした》』


 二人の出会いは誕生と共に。

 この世界にまだ普通の水の精霊として現れたばかりの現・水の大精霊ウンディーネ。

 彼女の隣で同時期に生まれた火の精霊。

 それこそが不死鳥ジャバの原点(・・)


 『《この関係を人の言葉で言うのならば"幼馴染"や"昔馴染み"と言ったところでしょうか?》』


 二人は幼馴染とも呼べそうな関係で、生まれてから数十年を近くで共に過ごした。

 精霊という存在の長い尺度の時。

 その思い出話は割愛されたが、彼女曰く仲の良い間柄だったらしい。

 だがその縁も転機を迎える。


 『《ある日、その方は唐突に去っていきました。理由も告げずにある日突然に…そしてそれ以降一度も再会することなく、今日まで時が過ぎました》』


 理由も何も告げぬまま水の精霊のもとを去っていった火の精霊。 

 結局そのまま今日に至るまで、両者は再会することがなかった。


 『《その方の居ぬ間にわたくしは大精霊へと成長し、今は水の精霊達を統べる立場にいます。その水の精霊たちの中であの子が不自然に魔力を消費し続けていたので様子を確認する為に森を出てみれば…わたくしも良く知るその方の気配を感じて急いで駆け付けたのです。すると姿形は変われど確かに、同じ芯を持つかつての火の精霊が在ったのです。不死鳥という形に姿は変われど、その方がわたくしの知る其の者であるのはすぐに判別できますので》』


 だがこの日、水の精霊の不審な行動を感じ取った大精霊はその確認の際に、あの町に滞在する懐かしい気配を感じ取った。

 既に火の精霊という姿は何処にもなく、不死鳥と化した昔馴染み。

 それも記憶がまだ不確かな、生まれ直した後の姿。


 『《覚えておらずとも、わたくしにとっては生き別れた家族のような存在です。今はまだ昔のようにとはいかないでしょうが、再会を嬉しく思います》』


 こうして念願の再会を果たした水の大精霊は満面の笑みを見せて不死鳥フェニの姿を見つめた。

 だが…そのフェニはといえば――





 (…記憶はまだ思い出してないはずなのに、まさかあんなに怯える(・・・)とは)


 直後のフェニの反応。

 本来ならば思い出深い幼馴染との再会だが、記憶はまだ戻らぬ為歓喜はお預け。

 それはわかるのだが…しかし思い出していないはずなのに、何故か水の大精霊と視線が合ったその瞬間、カイセの体に乗っかる不死鳥フェニの体がガクプルと震えだしたのだった。

 それは何やら思い出してはいけない(・・・・・・・・・・)記憶に触れたような。

 扉を開けた訳ではないのに、ドアノブに触れた瞬間に生存本能が警告を放ちだしたような反応。


 今の馬車の中では落ち着いては居るが、それでも大精霊から最も遠いエルマの側で距離を取る。

 むしろこれ以上近いとまた生存本能が警告を放ちだす。


 (何かあるのか?その昔に、不死鳥になって、生まれ直して、それでも本能が忘れられない、フェニの怯えに繋がるような出来事が?水の大精霊のもとを去った理由とも繋がってたりするのか?)


 水の大精霊はあらすじを綺麗に語りはしたが、二人の生活がどんなものかまでは語らない。

 だがもしかしたらそこに、フェニのトラウマ的な何かが、何も言わず去った理由が存在するのかもしれないと、カイセは密かに大精霊への警戒意識を強めていた。

 とは言えそれが()という認識に繋がるかといえば、今のところはノー。

 あくまでもフェニの怯えは大精霊である彼女が悪であるという話には繋がらない。




 『《ちなみにあの子の長雨ですが、実は少し前に他の火の精霊たちと一騒動ありまして、水の精霊と火の精霊は総ぐるみで喧嘩の真っ最中なのです。今は一時的な休戦状態にありますが》』


 そしてついでに語られたのは、例の水の精霊の雨の妨害工作。

 その要因はやはりフェニ。

 だが彼が悪い訳でなく、その根源にあるのは現在水の精霊と火の精霊の抱える仲違いゆえ。

 かつては火の精霊だったフェニも、今は不死鳥という精霊とは異なる種。

 今回の抗争には全く関係がないのだが、水の精霊からすれば敵対中の火の精霊への援軍(・・)にも思える存在だったようで、近づけさせない為に…今の微妙なバランスを崩させない為に不死鳥の足止めを、長雨を降らせるに至った。

 とは言えそれは当然フェニには理不尽以外の何者でもなく、大精霊も許可していない勝手な行動のお咎めを受ける羽目になった水の精霊だった。



 『《そういう事情もありますので、お詫びも兼ねてここからはわたくしがご案内いたします》』


 そういう事情や、お詫びも兼ねてこの先エルフの国までの案内役を買って出た大精霊。

 彼女が居ることでこの先天候にも一切影響されぬ順調な旅路が約束され、先の水の精霊のように不死鳥の存在を理由にちょっかいをかけてくる者も居なくなる露払い役。




 《――馬車とは初めての経験ですが、こうしてゆっくりと歩むのもいいものですねぇ…》 


 なおそんな案内役は初めての経験となる馬車での旅路にまったり気分で外を眺めていた。

 その姿はまるで人間のように、傍から見れば精霊になど思えない姿。


 《あ、よければお水でも飲みますか?わたくしのお出しするお水ですが》

 「大精霊の水…いただきます!」


 王子はその申し出に一切の警戒なくはしゃぎ出す。

 大精霊の生み出すお水を口にする希少な機会へのはしゃぎ。

 毒見役であるエルマやお外の側付きさんから呆れた反応が聞こえてくる。 


 ――こうして再開されたエルフの国への旅路。

 何故か大精霊というお供も増えつつ、その道行きは順調そのもの。

 ただ…フェニの反応が一抹の不安を残しはするが、今はゴールへと進み続ける。


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