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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第七章:エルフの国のもう一振りの神剣
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水の大精霊


 「――雲一つないな」


 見上げる空は晴天そのもの。

 先ほどまであった雲は何処へやら。

 青空が広がり、ぬかるんだ地面を太陽の光が照らす。


 「まぶしー」

 「グル」


 そんな陽のもとに晒されるジャバとフェニ。

 お留守番していた二人も今回はカイセの頭と肩の上に乗っかりお供する。


 「お二人も、本当に連れて行っていいんでしょうか?特に…」


 するとそんな二人の姿に心配を口にするエルマ。

 雨雲は晴れフェニも外に出て問題ない天気になった。

 しかしこれからカイセとエルマが再び向かうのは精霊のもと。

 火の化身を目の敵にしていた存在のもとに、その標的かもしれないフェニを連れていく事に不安を覚えるのは当然の反応。


 「まぁ…不安はあるけど疑わしき本人連れてくのが一番ではあるのも確かだし、いざとなったら強引にでも王都に引き返す」


 カイセ自身若干不安はあるフェニのお供。

 水の精霊がフェニと対面した時の反応が予想できない。

 もしかしたら怒り狂って大雨どころじゃない騒ぎになるかもしれない。

 身の回りはカイセの力でどうなろうと、雨のような広範囲への影響は一人では止めきれない可能性だって充分にあるのだから、要らぬ火種を持っていくのもどうかとは思うが、それらを踏まえたうえでフェニ自身が同行を名乗り出た。

 

 『かつての、まだ戻らない記憶の中の何かが引っ掛かってるのかもしれない』

 

 フェニ自身、なぜ同行したいのかは上手く認識出来ていない。

 しかしそれでも本能的にその方がいいと判断したようで、王子はそのフェニの行動をまだ戻らぬ前世の記憶が影響しているのではないかと推察した。

 結果カイセはフェニも連れて、例の水の精霊が居た場所に向かっていた。


 「カイセさん…この気配って」

 「うん、めっちゃ大きいの(・・・・)が居るな」


 そうして歩む一行だが、その気配はすぐに気づけた。

 何せ水の精霊の独特な存在気配を拡大拡張(・・・・)したかのように大きく圧倒的な存在感。

 隠すことも一切せずに『ここにいる』と言い触らすように、自ら強調するかの如きあからさまな気配は嫌でも気付く。

 そしてすぐに視界にも…


 《――きゃーあああ!!?ごーめーんーなーさーいー!!!》

 「…何してんだあれ?」


 見つけたのは謎の光景。

 それとついでに叫びと謝罪の声。

 聞き覚えのある、あの水の精霊の声のようであるが…先の言葉にあった圧と威厳が全くなく、まるで悪さをして怒られる子供のような高い声が響いてくる。


 《とーめーてー!!?》


 《鑑定》にもしっかりとその声の主が、あそこに居るのが水の精霊だという答えが映る。

 その水の精霊が…何故か渦に飲まれて(・・・・・)いた。

 それはまるで稼働中の洗濯機の中で渦巻く洗濯物のように、宙に浮く水の渦の中でぐるぐるぎゅんぎゅんされるがまま回されているのが水の精霊だった。


 《めーがーまーわーるー!!》

 「カイセさん…精霊って、目を回すものなのでしょうか?」

 「知らない」


 精霊の体は非実体。

 人に近しい姿形はしているが、その眼が本当に見る為のものなのかは怪しい所であるし、何より若干透けた水の体の中には脳みそらしきものも全くない。

 そんな人とは全く違う水色の生命体が、高速回転で目を回すのか怪しいところであるのは言うまでもない。


 「それに…あの渦の前に居るのは…」

 「まぁ、視た(・・)通りなんだろうさ。人と見分けは付かないけど」


 なおこの場に置いての一番の問題点は、実は謎の境遇の水の精霊にあらず。

 カイセらが警戒の意志を示すのは、その渦を目の前で見守る人物(・・・・・)

 水の精霊は人の形をしているとはいえその体は人からは遠く全身水色で分かりやすい人外の見た目。

 しかし水の精霊の渦を見守るのは、水色髪の普通の人間(・・・・・)に見える存在。

 肌の色も人のそれで、その佇まいも、そして水の精霊が実質全裸なのに対してしっかりとドレスを纏う、それはそれで場違いな格好の女性らしき存在。

 だが二人の鑑定の眼は、その存在の答えを示していた。


 【水の大精霊 ウンディーネ】


 これもまた水の精霊同様に簡素な情報。

 だが示されたのはより大きな存在の証明。

 水の精霊の中の最上存在。

 一行の目の前に現れたのは"水の大精霊"その人らしい。

 

 《…そんなところで立ち止まらずに、どうぞこちらにお越しくださいな》

 「え」

 「今のもしかして…」

 《わたくしです。あなた方が見つめていたウンディーネ》


 するとその精霊自身の声が…いや、水の精霊の時もそうだが、人間とはまた異なる発声手段で距離や向きに関わらずやたらとハッキリと伝わるその意志で一行を招き寄せる。

 ずっと後ろを見たまま一度もこちらに目をやっていないのだが、こちらが察知できている時点で向こうもこちらの存在を捉えていたのだろう。

 いやもしかしたら、町に居る時点で捕捉されていた可能性もあるが。


 「…行こう」

 「はい、カイセさん」


 そうして促されるまま大精霊に近づいていく二人。

 なおこの間もしっかりと、水の精霊は洗濯渦でぐるぐるされて叫び続けていた。


 《騒がしくて申し訳ないわ。ちょっとお仕置き(・・・・)の最中なの》

 「お仕置き、ですか?」


 そして背を向けたままの大精霊の近くで足を止めると、すぐに言葉を投げかけられた。


 《ええお仕置き。この子、随分と雨を降らせて困らせたでしょう?》

 「えっと…まぁはい」


 ここは正直に答えるエルマ。

 何せ数日の雨は旅の足止めだけでなく、町とその周辺の土地にも影響を及ぼした。

 川は増水で危険に、畑はどこも水浸しで作物が危うい。

 馬車の行き来も止まり物流にも支障が出る。

 これで困ってないとは流石に言えない。

 

 《申し訳ないわ。あとでその辺りもきちんとしましょう。可能な限りこの子に、責任を持って直させるわ》

 「あ、ありがとうございます。それで…貴方様は、水の大精霊様なのですよね?」

 《ええ、その眼に視えて…あぁ、いけないわ。人相手にはきちんと名乗らないといけないのよね。眼があるからと知った気にならず、きちんと自分の言葉で挨拶を交わすのが人の礼儀でしたね。では改めて》


 すると背中を見せていた大精霊が振り向きこちらに顔を見せる。

 やはりその顔も人間の女性のようで、それも美人の容姿だった。

 見た目はそのまま人間のようだが、しかしやはり独特の気配は精霊のそれである奇妙な存在。


 《はじめまして人間の皆さん。わたくしは"水の大精霊"と呼ばれる存在、与えられた名はウンディーネでございます。以後、お見知りおきを》

 「あ、ご丁寧に…私は鑑定師のエルマ・アーロンと申します」 

 「カイセと申します」

 《エルマとカイセ。そしてそちらが…》

 「え、あ、こちらは子龍のジャバと、不死鳥のフェニです」

 「はじめましてー」

 「グルゥ」


 そして改めて名乗り合う一同。

 この場に人間・精霊・龍・不死鳥が集うなんともおかしな状況に、世の学者が知れば即倒しそうな光景だろう。


 《…なるほど。やはり貴方はあの方(・・・)なのですね》

 「グル?」


 するとウンディーネは、フェニを見つめてそう呟いた。

 まるでフェニと知り合いのような言葉。


 「その…フェニと面識があるのですか?」

 

 カイセはその疑問を、今回の精霊の雨の根幹に至りそうな問いを投げかけた。

 そしてウンディーネから返って来たのは…


 《ええ、存じております。とは言え今のこの方ではなく、わたくしが知るのは転生前の御方であります》



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