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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第七章:エルフの国のもう一振りの神剣
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不死鳥の生い立ち




 「――なるほど、火の化身という言葉は確かに、不死鳥を示す言葉の一つだ」


 水の精霊との短い邂逅。

 そこで得た情報、雨を降らせ続ける精霊の理由を知って持ち帰ったカイセ達。

 得られた情報は『火の化身の妨害工作』。

 その為の雨降らしが続く中、それ以上の言葉は引き出せずにカイセとエルマは町に引き返した。


 (倒そうと思えば倒せる…けど)


 直接対面した水の精霊。

 もし本気の戦いになったのなら、カイセが倒すことが出来るのは把握した。

 これだけの雨を降らせ続けて、同時に水の蛇も行使するその力は大きなものだが、それでも勝てない相手ではなかったのはステータスが無くとも理解出来た。

 しかし…そもそも精霊を倒していいのか?という疑問。

 精霊と言う存在の神秘性、更にこれから向かうエルフの国との関わりを鑑みれば真っ向からの敵対は躊躇する。

 倒した結果が、人族とエルフ族の関係悪化の外交問題になる可能性など一庶民なカイセは考えたくもない。

 なのでそれこそ責任者に、しっかりと判断を仰ぐために町に戻って王子に報告。

 すると…やはりと言うべきか、〔火の化身〕という単語の答え合わせも出来た。


 「火の化身、それは確かに不死鳥を示す言葉の一つだ。エルマは、不死鳥がどうやって生まれる(・・・・・・・・・)か知ってる?」

 「いえ」

 「不死鳥とは〔火の精霊〕が受肉(・・)して生まれる存在、種族なんだ」

 

 それはこの世界での不死鳥の生い立ちの話。

 死を迎える度に自ら転生を繰り返す不死鳥。

 その始まり(・・・)となる誕生は、まさしく火の精霊に由来する。

 水の精霊が水の体を持つように、火の精霊も火の体を持って生まれてくるのだが、本来そこに()体は存在しない。

 火そのものに意志が宿るような形の為、人が触れようとしても掴むことは出来ずに手が燃えるだけ。

 そこには肉体を持つ生命体には当たり前である生命機能を内包した肉や臓器などはまるでなく、言うなれば〔純魔力生命体〕が精霊と言う存在。

 だが…その精霊が、何かの拍子に肉体を得る(受肉する)

 通常の生命体同様の肉体を、生命機能を元火の精霊(・・・・・)が手にした結果、生まれた存在が〔不死鳥〕。

 つまり不死鳥とは、そもそもが火の精霊が進化…と言っていいのかは分からないが、火の精霊を元として生まれた存在であるのは確か。

 ゆえに"火の化身"の呼び名も妥当。


 「ですが、その…鑑定では、そういった称号は…」


 しかしそこでエルマの疑問になるのは、自らの見た《鑑定》の結果。

 不死鳥フェニの称号に、"火の化身"の文字が記されていないこと。

 それだけしっかりとした認識があるのなら、不死鳥の称号に火の化身が含まれてもいいのではないかと。


 「正直、《鑑定》の仕様についてはまだ謎が多い。どういう基準で称号が付与されるのかなどは特に。だから推測でしかないが、鑑定が不死鳥に火の化身という称号に似つかわしくないと判断しているのか、称号を付与する基準を満たしていないか、もしくは神様が側が不死鳥を火の化身として認めていないか、あるいは…他に"火の化身"の称号にふさわしい存在が居るのか。いずれにせよ"火の化身"という名が称号になっていない以上、不死鳥=火の化身というのは生き物の中だけの非公式な呼び名なのだろう」


 スキルやステータスには未解明な部分がまだまだ多く、それゆえに断定はできないが、フェニにその称号がないのは確か。

 ゆえにもしかしたら水の精霊の示した"火の化身"が実は不死鳥以外を示した可能性だってある。

 だが少なくともこちら側に、心当たりのあるのは不死鳥だけなのも確か。 


 「という訳でフェニ。何か心当たりはあるか?」

 「グル?」


 なので情報を集める為にフェニ本人に尋ねてみる。

 しかし返答は芳しくなく。


 「この不死鳥、フェニはまだ生まれ直して間もないのだろう?」

 「そうですね。それに孵ってからずっとウチに居るので、今世で精霊と因縁があった可能性は低いです」

 「ならばまだ思い出せていない過去、前世に因縁があるか…もしくは別の不死鳥のいんね――ん?いま何といった?」

 「え?今世は可能性が低いと」

 「その前、孵った(・・・)と言ってなかったか?」

 「あ、はい。最初は卵の状態(・・・・)だったのが孵って生まれたのがフェニなので」

 「卵!?不死鳥は…火の中で死に、火の中から生まれ直すのではないか?」

 「あ…‥えっと、俺もそう思ってましたから卵からフェニが出てきた時はびっくりしました」


 世間の不死鳥の認識の中では、不死鳥が卵形態(・・・)を経由する記述は何処にもない。

 一般的に不死鳥は死の間際に火に飛び込み自らを燃やし、そして火の中から新たに生まれる。

 そこに卵の姿はないはずなのだが、現実にフェニは卵から生まれた。

 

 (図書館由来の人類未発見知識みたいだし、口は滑らせたけど詳細は流石に黙っておこう)


 《星の図書館》で知った情報によれば、不死鳥は死の間際の状況によって生まれ方が変わる。

 不死鳥として正当な、健全な転生が行えた場合は一般知識のように火の中から直接生まれる。

 不死鳥としてはそちらの生まれ方が正道。

 しかし…何かしらの理由で正道な手続きを辿れなかった際には、稀に〔卵の姿〕で再誕するらしい。

 単純に言ってしまえば卵形態は不完全な転生(・・・・・・)を補う時間稼ぎの殻。

 きちんとした肉体の形成に時間が掛かるなど、何かしら誕生工程に不具合が起きた際に未成熟で未誕な自身を守る盾として纏う姿。

 要するに卵だったフェニは、死に際や生まれ時に何か問題があったからこそ、仕方なく卵の姿を取らざる得なかったのだ。

 とは言えそれは世間的には希少例であり、知識を蓄えた王子も知らぬ情報だったようだが…カイセが口を滑らせた。


 (まぁ、正直卵から生まれたのはアリシアも知ってることだから今更だけど。でも次からは気を付けよう)


 そう教訓にするカイセを尻目に、本題からそれ始める王子。


 「不死鳥が卵から…まさかそんなことも…これは帰ったらもう一度その手の書籍を…」


 結果として王子の知識欲を刺激したらしい。

 ただ、今はその時ではない。


 「あの、それで、この件はどうしましょうか?正直こちらの、フェニが妨害工作の要因になっているのなら、私達だけでも引き返すのも手だとは思うんですが」


 そんな王子を無理矢理本題に引き戻すカイセ。

 今決めるべきは精霊への対応。 

 足止め妨害へのこちら側の判断。

 水の精霊との対話を望むのか、戦って妨害を排除するのかなどに加えて…これが不死鳥由来の問題であるのならば、水の精霊の意図に従ってフェニを有するカイセらだけでもこの地から引き返す手もある。 

 そうすれば少なくとも王子一行は前に進むことが出来る可能性が高く、二つの案件が共倒れになることもない。

 

 「いやそれはダメだ!せっかく龍と不死鳥が……コホン、いや、カイセ殿もやるべきことがあって向かうのだから――」

 「本音というか私念漏れてますよ」


 だがその提案を拒む王子。

 最後は取り繕っていたが、本音としてはジャバフェニとの別れを惜しむような、せっかくの希少存在との邂逅を、このような形で失いなくないのが本音のようだ。

 

 「いやまぁ、こちらとしては正直、エルフの国には仕方なく向かってるだけなので行かなくて良いならそれに越したことはないんですけどね」


 ただ、実を言えばカイセはエルフの国に行きたくて行ってる訳でもない。

 それも当然と言うべきか、カイセはそもそもエルフに巻き込まれた側。

 あの騒動が無ければそのまま王都観光を終えて帰っていたのに、エルフとの遭遇が予期せぬ気づかなくてよかったはずの懸念を浮かび上がらせて、こうして遠くまで出向く羽目になった。

 事態が事態なので仕方なく了承はしているが、行かなくていいのならとは思っている。

 

 「エルフの国の象徴の一つである精霊に拒まれたなら仕方ないですし」

 

 という言い訳を通して、いっそフェニを連れ帰る名目で引き返せるのではと思うところのカイセ。

 だがその目論見はすぐに崩れる。


 「――あの、雨がやみました」

 

 これからどうするかの話し合いの最中に、唐突に解決する問題。

 皆が窓の外に視線を向けると、あれだけハッキリと降っていた雨が止んでいた。


 「…問愛解決したみたいだね」

 「何故?」


 精霊の事情を知った者、皆が何故?と首を傾げる。 

 何せジャバはまだここに居る。

 ゆえに水の精霊が雨をやます理由がない。


 「実はフェニの事じゃなかった?」

 「勿論その可能性はあるだろうが…」


 しかし何となく腑に落ちない。

 なので王子は改めて命じる。


 「…カイセ、エルマ。二人にはもう一度、水の精霊のもとに出向いて欲しい」


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