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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第七章:エルフの国のもう一振りの神剣
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水の精霊と雨の原因




 「――本当に変わらず降り続けますね。これが精霊の降らす雨…」


 雨に降られながら空を見上げて、不自然な雨に関心を向けるエルマ。

 神眼少女はレインコートを羽織り、雨の降る塗れた大地を歩く。

 その横には並んで歩く、同じくレインコート姿のカイセ。


 ――ジャバとフェニは王子の下に預け、カイセはこの雨の原因であるという"精霊"の下へエルマと共に歩んでいく。

 いつもならジャバフェニも付いて来そうなところだが、相手が水の精霊、ジャバがあまり好かない雨を降らす相手なのもあり今回はお留守番。

 代わり…という訳ではないがカイセに同行するエルマ。

 彼女こそが精霊案件調査隊のリーダーを任された暫定上司。 


 王子直々に調査依頼をされたカイセ。 

 だがそのお役目はあくまでも二人で(・・・)

 いくらカイセが常識外れでも、公的には表立った地位も役職も実績もない謎の人物ただ一人に、後々報告書を作成して国に提出しなければならない重要な調査を任せられるわけがない。

 ゆえに王子からの依頼は、エルマを伴っての二人調査隊への参加。

 精霊調査は勿論、戦闘力に欠けるエルマの護衛としての役割。

 



 「――カイセさんと二人きりでお出かけ、とっても楽しいです」

 「お仕事だし歩いてるだけだし雨も降ってるけどな」

 「楽しいです」

 「そうですか…」


 なお、お隣を歩くエルマは屋敷を出たあたりから満面の笑顔を絶やさず歩く。

 雨にも負けず風にも負けず、カイセと二人きりで出歩く今の状況を楽しんでいる。

 そもそも本人としてはむしろ調査そのものよりも今のこの道中こそが本命と捉えてている気がする。


 (一応何が起こるか分からない現場に向かう訳なんだけど…まぁ警戒はきちんとしてるみたいだけど)


 ただそんなお気楽ムードのエルマだが、しかし気を抜いている訳でもない。

 恐らくは鑑定師としての研修期間に学んだのだろう眼の扱い(・・・・)と魔力の扱い。

 《千里眼》や《鷹の目》など眼のスキルを、一目には分からぬぐらいに自然体で常用しながら歩み、同時に《気配探知》の魔法も併用し周辺警戒を怠らない。。

 彼女自身の戦闘能力はかつてとあまり変わらず、純粋な身体ステータスは微増した程度。

 しかしこの様子ならば危機を回避する為の技能や、恐らくは逃げる為の技能も以前より格段に伸びているだろう。

 王子と共に出向くものが、最低限の自衛手段を持たないわけがない。


 「あ…これは…」

 「あぁ、なるほど、この前の変な気配はこれだったのか」


 そんな二人が歩み町を出て、いざ精霊の発見された地へと向かって行くその中で感じた違和感。

 カイセにとっては先日のあの川での一件で感じ取った気配の違和感。

 独特な感覚ゆえに未だ核心は得られていないが、目的地周辺に近づくことで再び感じたそれが今回の一件に絡んだものであるのだと理解した。


 「何かが引っ掛かってますけど…人でも生き物でもない?なんだか変な感覚です」

 「これが精霊の気配なのか?」


 一番推測しやすい答えは、この気配こそが精霊の気配であるという事。

 だがそれは今まで感じた生き物のどの気配とも毛色が違う。

 あやふやな輪郭でふわふわとした…同じ非実体でも魔法製のゴーストモドキともまた違った掴み所のない存在感。


 「やっぱり、これが精霊の気配なのか」

 「みたい…ですね」


 そしてその気配を感じ取りながらどんどんと気配の下に近づき…そして二人は確信する。 

 視界に見えたその存在と、気配の座標の一致。

 これこそが件の精霊の気配なのだと。


 「…鑑定が…出来ない?レベルが足りない?」


 すると早速その存在を《鑑定》スキルで視た(・・)エルマ。

 浮遊しつつ確かに、人のように手足に模した輪郭を持つ存在。

 だが見た目がなまじ人の輪郭をしているせいか、その鑑定の結果に常識を当てはめエルマは困惑する。


 「いや、視えてるこれが全部みたいだな。精霊にはステータスが無い(・・・・・・・・)か」


 しかしカイセはその結果は正しいものなのだと理解する。

 鑑定スキルのレベル差による天然の鑑定妨害を気にしたエルマだが、カイセの眼はレベル10であり事実上妨害アイテム無しでは見えないステータスは無い完全鑑定の眼。

 その眼が恐らくエルマと同じ情報を読み取った以上、妨害のない状態で今見えているものこそが精霊の持つ正常な情報なのだろう。



 【水の精霊】


 

 視えたものはただそれだけ(・・・・)

 精霊の情報として開示されたステータスは、あれが本当に精霊であるという証明だけ。

 ステータスの数値も、称号も、スキルも、種族も年齢も何もない。

 ただただアレが水の精霊であるということだけが判明する。

 

 

 「精霊って…生きものなんですよね?でもこれって…」


 その見え方は道具と同じ。

 散々色んな生き物を見たカイセからしても、ここまで淡白な情報しか持たない生物を視るのは初めて。


 「まぁ視て分からないなら接触するしかないな」

 「…ですね」


 元々視ただけでこの雨を降らす原因が分かるとも思ってはいない。

 だがそれにしても収穫が無さ過ぎて鑑定師としてガックリするも仕方ない話。

 しかし今は気持ちを切り替えて、本来の目的である直接接触を刊行する。

 二人は再び歩き出し、精霊のもとに近づいていく。


 「あ…エルマは後ろに!!」

 「はい!」


 だがある一線を踏み越えた時、二人の前に大津波(・・・)が立ちはだかる。

 騎士が押し流された大量の水。

 カイセは自ら盾になり、その大水を払い掻き分け歩く。


 「このまま側に居たまま付いて来て」

 「はい…あ、後ろから抱き着いた方が良いですか?」

 「いやゼロ距離になる必要はないから。今ぐらいの距離から離れないでいてくれれば」

 「はい…残念です」


 割と危機的状況なのに何となく図太さを感じるエルマの反応。

 そのままカイセが魔力の盾を貼り大波を掻き分け割りながら進み…そしてどんどんと精霊に近づく。

 すると二人の耳に届く意志。


 《――邪魔しないで》

 「え…波が…」

 「前には出ないで」

 

 するとその直後、あれだけの大波大水が一瞬で消え去り、代わりに周囲のあちらこちらから間欠泉のように噴き出す複数の水柱。

 それらが全て蛇のようにとぐろを巻きだし…《水の大蛇》となってこちらを睨みつける。

 数十の水蛇がカイセらの全周を囲む。

 

 《邪魔しないで》

 「あ、あの!戦うつもりはありません!私達は精霊さんとお話をしに来たんです!なんで雨を降らせ続けるんですか!?」


 すると自ら相手の意志を確かめる為に大きな声を上げたエルマ。

 二人調査隊の本来の目的。

 精霊のその事情を、水蛇に威嚇されながらも確かめようとする。


 《私は火の化身を拒む。火の化身が去るまで、この雨は止まない》

 「火の…化身?」


 すると水蛇で睨みを利かせながらも、こちらの質問にはしっかりと答えが返ってくる。

 それによるとこの雨は〔火の化身〕とやらを拒む為のもの。


 「火の化身…火の精霊じゃなくて?」

 「火の化身…まって、何処かで…」

 「カイセさん?」


 エルマには検討のつかない言葉。

 だがカイセには…何処かで覚えのある単語。

 何かの本で読んだ言葉、しかもカイセにとって身近な…


 「確か…不死鳥(・・・)の」


 それは確か《星の図書館》の〔不死鳥の本〕。

 生まれ直した不死鳥の成長…回帰について調べ直した最近の記憶。

 賢者ゴーストの言葉を改めて確証を持ったものとして知るために読んだ本に記された単語。


 〔不死の鳥〕のフェニックスが持つもう一つの異名。

 それこそが〔火の化身〕。

 

 「水の精霊が拒むのは…雨を降らせ続ける原因はフェニなのか?」


 

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