騒ぎの後のお迎え
「――再会、早かったですね。カイセ殿」
「ですね。お騒がせしてすいません…」
今、カイセは王都のとある施設に居る。
四方を殺風景な壁に囲まれ窓もない部屋。
あるのは椅子に机などの備品に、壁一面分に埋め込まれた大きな鏡と、唯一の出入り口である扉のみ。
(マジックミラー的なものか。向こうで誰からが監視をと…)
一種の〔取調室〕。
容疑者を囲う監視部屋。
「カイセー、お腹空いた」
「さっきあれだけ食ってたのに…とりあえずこのフルーツでも食っててくれ」
「わかったー。あむ」
その部屋の中でカイセは、ジャバとフェニと共に軟禁されていた。
ただその中では比較的自由。
《アイテムボックス》から食料を取り出してもお咎めは無し。
そして…その部屋を訪れた人間。
検問所でもお世話になった"三従士"の男。
しばらくは会わないだろうと思いきや。たった数時間での再会となった両者。
彼は本当にカイセ担当のようになっている気がする。
「カイセ様、王城までお越し頂けますか?」
「あ、やっぱりそうなる?」
彼が迎えに来た時点で、大体予想できた展開。
そのまま彼に連れられてその部屋を、建物も後にする一行。
王様の命でカイセを案内したこの場は…またの来場となる〔王城〕。
「ただ…いいの?一応外聞的には騒ぎの容疑者なんだけど俺ら?それを王城に招いて大丈夫?」
「事情は把握しましたし、正当防衛として解放手続きはちゃんと取りましたので問題はありませんよ」
しかし、今のカイセらが王城へと招かれるのにちょっとばかし問題があった。
何せあの場に押し込められたのは騒動における〔加害者疑いの容疑者〕だったから。
「言わぬのか?ならば吐かせて――!!」
「ちょッ!?」
事の発端は定番種族との邂逅。
王都の町中を観光中に、たまたま遭遇した"エルフ"達。
フードを被り、その身の特徴的な頭部を隠していた二人組。
その内の一人が、カイセに向けてナイフを抜いた。
だが次の瞬間…
「ブワァッ!」
「な――あっつ!?」
ナイフを構えるエルフに対して、最初に行動を起こしたのはジャバ。
小さめの炎を吐き飛ばし、ナイフを握るエルフの手元を軽めに燃やした。
ナイフを落とし、手の甲を少しばかり火傷したエルフの彼。
「て…ジャバ!服!」
「んー?わあ!?」
そんなジャバがある種の正当防衛として放った炎。
使用者自体は自分の炎で燃えることはない。
だが当然自分の装備や衣服は別なので、それらに影響がないように放つのが基本。
しかし今回…ジャバは普段は全く縁のない衣服、それも頭部まで覆う形のモコモコ羊毛服を纏っていた。
ゆえに単純に、いつもの感覚で放った炎なり熱が配慮しなかったモコモコに引火したようだ。
〔ダークシープ〕の羊毛は、本体に生え本人の魔力の通った黒い羊毛状態の間は魔法に対してかなりの耐性を持つ防御装備のように力を発揮する。
しかし切り離し白い羊毛になってしまうと、ただ最高級で上質な羊毛。
そこに魔法耐性などなく、ジャバの軽めの炎に燃えてしまった。
「クゥ」
「あれ…え、食べた!?フェニ?」
そんなジャバに即座に水を掛けようとしたカイセだったが、次の瞬間にはその火元が消え去っていた。
というのも、フェニが嘴でその火元をモコモコごと摘まみちぎり、そのまま飲み込んでしまったのだ。
炎に生まれ、炎に死に、そしてまた炎に生まれる不死鳥。
その存在を鑑みれば、〔炎を食べる〕ぐらいは解らなくはない。
ただ…少し余分に持って行ったモコモコ部分は食べてしまって大丈夫だったのか?という本題からズレた懸念がカイセに過っていた。
「大丈夫なのか?フェニ」
「クゥルー」
どうやら問題無い様子。
流石に綿菓子のように美味しくとは行かないみたいだが、しかしお腹を壊すようなものではなさそうで一安心。
「じゃあ後は…こっちどうするかな?」
そして身内の安全を確かめたカイセが、向き合うことになるのは現実。
手を負傷したエルフは少し距離を取り、しかし先ほどよりも強い警戒心をあらわにしていた。
一応問答無用は無くなったが、事の重さ的にはむしろ増した状況。
更に周囲には物見遊山の野次馬が円を作るように、両者を囲ってしまっている。
人目も増えて完全に大事になりつつある。
(いや逃げろよ。炎にナイフに、それが自分たちに飛んでくる可能性あるんだから一目散に逃げろよ野次馬)
何処の世界でも、危機意識よりも好奇心が勝るのが人間の性の模様。
そんな人々に完全に場を見られ、おかげで最早有耶無耶にするわけには行かなくなってしまった。
「――何事だぁ!!!」
その直後、当然の如く騒ぎを聞きつけた兵士が駆け付け、正当防衛を主張するために大人しく連行されるカイセであった。
「――いっそ、転移で逃げてしまえばよかったのでは?」
「大勢に顔見られてるし、一応特別扱いで王都に入れて貰ってる状態の身だし、逃げてこじれると色々迷惑掛けるでしょ?流石に」
「まぁ…大人しく兵士に付いてきてくださったおかげでだいぶ楽にはなったと思いますね。事情の把握も容易でしたし」
「ちなみに、あの二人組は?」
「…そちらに関しても、到着してからご説明があるかと思います」
二人組のエルフの正体や事情。
それらについても着いてからと、今は大人しく歩き続けるカイセ。
そうして辿り着くのは王様の執務室。
「――久しいな…と言って良いのか、正直分からない頻度であるな」
「そうですね。でも、お久しぶりです」
「うむ」
そして対面するのはこの国の王様。
ダンジョン騒動以来の【ジルフリード・サーマル】国王との対面。
勿論側近の大臣も一緒。
「…そちらが噂に聞く子龍か。モコモコしておるが」
「あ、脱がせた方が良いですか?」
「いや構わない。我が息子のように、突然乱入してくる輩がおらんとも限らんからな。分からぬ姿の方が備えになる」
今回に限らず今まで色々報告を受け、子龍についても把握していた王様。
しかし実際に対面するのは初めて。
ゆえに興味はある様子だが…その姿はモコモコのまま。
龍の威厳もありはしない。
「更に…不死鳥か。絶滅したという噂もあったが」
「綺麗な鳥ですな」
「うむ。まさにやはり聞くと見るでは天地の差であるな」
次いで視線は不死鳥のフェニに。
希少すぎて目撃例もなく、ひっそりと滅びたという噂もあるような存在が目の前に。
そんな存在を目の当たりにして…なんとなく子供心に火が着いたような、王様たちの気持ちが盛り上がっているような感じに思える。
「……と、話が逸れてしまったな。早速本題に入るが…」
「騒ぎの話ですか?」
「いや、先の一件は両者共に其方らの正当防衛を認めている。ゆえに其方へのお咎めはない」
「相手も…ですか?」
「そのことについても話をするが…その前にまず、其方らの対峙した者たちがエルフ族であるのは把握しておるな?」
「はい」
「エルフについてはどの程度の知識がある?」
「えっと…」
以前に《星の図書館》で、この世界に住まう種族について基本的な部分は調べてある。
それによると"エルフ族"は、人族とは友好関係にある国の民。
この国の隣国として存在する〔エルフの国〕。
その主体となる種族。
そして種族特徴として〔不老長寿〕を持つ人々。
個々人のスキルではなく、全てのエルフが肉体の性質として持つ命と時間の違い。
一定の年齢にまで成長すると、容姿そのものに成長も老化もないまま、人族の倍の命以上の時間を生きる。
その上で彼らは魔法適性が他の種族よりも高い傾向にある。
「――て感じでしょうか?」
とりあえず自分の持つエルフ知識を吐き出してみるカイセ。
本当に基礎の部分だけだと思うが。
「まぁ基本的なところは把握しているようだな。ならば率直に用件を言わせて貰おう…カイセ殿。其方にはその〔エルフの国〕に出向いて貰いたい」




