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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第六章:隠居賢者の隠しゴト
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偽装工作



 「――王都が見えてきましたよ。お嬢様」

 「はぁ…もう着いてしまいますか…」


 旅路の先に見えたゴール。

 馬車の一団の向かう先には、この国の中心である王都が見えて来る。


 

 ――王都に住まいを移すことになった貴族の娘エルマ。

 彼女からの依頼で再びカイセは、転移護衛としてそのお引越しの旅路に付き添う。

 同じ馬車に乗り、そのお隣で有事の避難に備えるお仕事。


 「あれが王都…門が大きい!」


 その馬車の中に乗り込むのは四人。 

 護衛対象のエルマ、その従者、転移護衛のカイセ。

 そしてもう一人…冒険者であるベル。


 「んんッ!」

 「あ…すいません…」


 初めて訪れる王都に、窓から身を乗りだしてはしゃぐベルに、従者の女性が咳払いで騒ぐなと忠告する。

 結果申し訳なさそうにしながらエルマの対面に座り直す。


 賢者の孫の片割れである妹のベル。

 彼女がこの旅路に付いてきているのは、冒険者としての護衛クエストゆえ。



 『…あの、そのお引越し。私たちも護衛として雇っては貰えませんか?』


 カイセに転移護衛の依頼をする際にその場に居合わせたベル。

 その彼女がエルマに直々に、自分たち兄妹を冒険者として売り込んだ。

 そもそも彼女らがカイセの家に、魔境の森に居座るのはカイセという安全環境(・・・・)の下で試行錯誤が出来るゆえ。

 だが家を離れてしばらく留守にするとなると、あの森に残る理由もなくなる。

 むしろ保護者無しであの危険な森に、いくら結界の内側だろうと居残るほどの度胸はない。


 なのでカイセが居なくなるのなら、自分たちもそろそろ出ようという素早い判断。

 そして便乗で、提案した護衛としての売り込み。

 冒険者界隈ではよくある、目的地に移動するついでに同じ方角に向かう馬車の護衛を引き受けて馬車代を掛けずにむしろ報酬を貰って、働きながら移動するという手法。

 

 『…えぇ構いませんよ。兄に…いえ、当主様に話しておきますね』


 そんな申し出を快く受け入れるエルマ。

 そもそもエルマから見て、兄妹は鑑定の…自身の神眼の効かない未知の存在に見えているはず。

 警戒してしかるべき相手なのだが…しかし初対面から同様一つ見せずに受け入れ好意的に接してくれる。


 『そこはまぁ、カイセさんのお身内ですので』

 

 とのことで、結局ある問題の解決法(・・・・・・・・)も含め、雇い主のはずのエルマにわざわざ手間を掛けさせながらも兄妹の護衛起用が決まった。



 「兄さんにも見えてるかな」


 そして初めて王都に行くという兄妹。

 ちなみに兄はまた別の配置で、この馬車の一団に同行している。


 ――この一団は四台の馬車で構成される。

 内二台は雑多な荷物や人員の運搬用など本命以外の輸送用。

 その二台に囲まれた本命の二台、二番馬車にはエルマとその直近の人員が、三番にはエルマの母親とその直近が載っている。

 そしてそれぞれの馬車には当然護衛として家の"騎士"や、雇いの"冒険者"が守りの為に同行している。


 ある種のコネで参加した兄妹はしかし当然その冒険者枠で、本来は上官である騎士の指揮下で守りを固める立場。

 勿論貴族と同じ馬車に同乗出来るような立場ではない。

 だがベルに関しては護衛対象のエルマと近しい年齢の女性ということもあり、実質的な話し相手も兼ねてこの馬車に特別に乗せられていた。

 対してボイスは歳は近いが普通に男なので、護衛はしつつもむしろエルマからは遠い位置に置かれていた。


 「…ふぁああ…もうついたー?」


 そんな一行の旅路の終点間際。

 カイセの足元(・・)で動く生き物。


 「起きたか。まぁゴールはもうちょっとだな」

 「おはようございます。ジャバさん、フェニさん」

 「クルゥ」「おはよー」


 同じ馬車の中で眠っていたジャバとフェニが目を覚ました。

 龍と不死鳥と言うれっきとした希少存在。


 「ううー!」

 「ビクッ」


 座席の位置関係上、カイセに対面する従者の女性の足元とも言えるジャバとフェニの現在位置。

 そんな彼女はまぁ…当然と言えば当然だが、ジャバが大きな動きをする度に、体の反射でビクリとする。




 『それでカイセさんも受けてくださるということで良いのでしょうか?』

 『いやまあ受けて良いとは思うんだけど…実はちょっとこっちにも不安要素があって』


 そしてカイセは、依頼そのものは受ける意志はあった。

 ただそれにあたり一つ不安な要素があった。

 それは今のフェニの不安定。

 成長…いや回帰過程での段階的変化。

 賢者ゴーストの忠告に沿って、しばらくフェニをすぐに構える環境に置いておきたいと思っていた。

 だが王都に行ってしまうとそれが出来なくなる為、少し返事に迷っていた。

 

 『…連れて行けばいいんじゃないですか?』

 

 そんな事情を口にすると、ベルがそんな提案をする。

 すると案に反応するもう一人。


 『フェニもいくの?じゃあジャバも!』


 フェニが行くならと名乗りを上げたジャバ。 

 相変わらずの仲良しぶり。

 ただフェニもジャバも、連れて行くには悩みどころがある。


 『どう思う?』

 『連れていくことは構わないと思いますが…鑑定と見た目をどうするか次第かと』

 『鑑定…そうか入場の。てかそこは二人も…』

 『え?鑑定ですか?』


 ジャバとフェニは子龍と不死鳥。

 どちらもバレれば周りが騒がしくなる希少存在。

 その姿も、フェニなら珍しい鳥程度で済むが、ジャバはもう見た目が分かりやすすぎる。


 『見た目に関しては、服でも着せてみたらどうですか?』

 『服?』


 すると次はアリシアが提案する。


 『教会に居た時にペット連れで来る方がたまに居たんですよね。そこにはペットに服を着せている人もいて、中にはぱっと見じゃ何の動物だが分からないフォルムになってたりもして…だから龍でも服を着せれば、後は見る人の先入観で誤魔化せるんじゃないですか?』


 その案で手持ちの服をジャバ用に即席で軽く手直し、お試しでジャバに大きめの服を着せてみた。 

 結果確かに服を着たジャバは、何の生き物だかわかりにくくなった。 

 ただ本人はそもそも普段全裸が当たり前の存在なので、試着時にだいぶ窮屈そうにはしていた。

 しかしフェニと一緒に出掛ける為の手だということで納得して受け入れてくれた。


 『とはいえ、入場時の《鑑定》は見た目を誤魔化すだけではどうしようもないので、そこは私の特権(・・)を使いましょうか』


 だがそれは普通の人の眼の誤魔化し方。

 それ以前に王都に入る際には、必ず〔鑑定機〕による鑑定を受ける必要がある。

 ジャバもフェニも鑑定を使われると、その正体が見破られてしまう。

 そして実はこの入場時の鑑定に関しては、兄妹も問題を抱える。


 あの場に配備されている〔鑑定機〕。

 鑑定をする為の魔法道具だが…実はスキルによる鑑定とはまた別物。

 スキルの場合はレベル差の優劣により鑑定そのものを弾く仕様がある。

 つまり高位の鑑定を持つカイセやエルマに対しては、本来の鑑定では情報を得ることが出来ない。

 しかし誰でも使える鑑定機による鑑定は、名前・種族・職業と本当に基礎的情報しか表せないが反面そのレベル差の優劣に関係無く必ず相手の情報を暴くことが出来る。

 だからこそ入場検査に不可欠な代物なのだが…賢者の孫の兄妹。

 彼らの胸の〔賢者の石〕はその鑑定機による鑑定すら弾いてしまう。

 つまり彼らが入場検査を受けると、詳細不明で一悶着起きてしまうのだ。

 

 鑑定されると困る正体を持つジャバとフェニ。

 鑑定されても何も明かせないボイスとベル。

 そんな彼らを帯同させる際の問題を、エルマは権力で強引に突破しようとする。


 『皆さんの事は予め王都に…王様のもとに事情を記した手紙を送ります。もちろん私が身元を保証するものとして、鑑定検査の結果に限らず入場できるように許可を取っておきます』


 今は特級鑑定師としての地位を得たエルマ。

 その特級(・・)は伊達ではなく、そんなゴリ押しも通用するらしい。

 それを用いて、兄妹の特異体質(・・・・)に特別な許可を与えても貰う。 


 『ちなみにジャバさんとフェニさんに関しては、カイセさんのお供だということも記して構いませんよね?私の名前よりも効きそうですので』

 『うんまぁそこは全然』


 加えてそこにカイセの名を記しとけば、ジャバとフェニに関してはカイセ案件(・・・・・)だと王様も理解してくれるだろう。

 カイセ自身王様との面識もあり、エルマとの既知の関係も知られている。

 恐らく神剣に比べればあくまで生き物の子龍や不死鳥など軽いもののはずだ。


 『でも…そんなに面倒抱えてまで俺らを受け入れる必要はないんじゃないかとも思うけど』

 『いえいえ。この程度、面倒の内に入りませんよ。ふふふ』


 ただ…雇う雇われるの交渉だけだった話なのだが、気付けばあれやこれやとエルマ側の負担ばかりが増えている。

 まして得たばかりの権力でわがままを通して貰う羽目にも。 

 そのことに申し訳なくなるカイセだが…エルマは全く気にせずに、満面の笑みを見せていた。


 『じー………』


 なおこの時、笑顔のエルマのこの言葉に〔カイセさんを雇えるなら手間などいくらでも構わない〕という伏せた意図を読み取ったアリシアが、カイセと…後はエルマの事も、ジト目で見つめて視線を刺して来る。

 以前と違い呼び方が〔様〕から〔さん〕に変化していたので、例の憧れ的なものの落ち着きを表していたのかとも思っていたが…この二人の反応で変わってはないなと理解するカイセである。 




 「――さてと、じゃあそろそろだな。ジャバ、ちょっと窮屈だけど少し我慢しててくれ」

 「うんわかったー!」

 「ビクッ」


 王都の検査を目の前にジャバには服を着せる。

 こうして一行はいざ、王都へと足を踏み入れようとする。

 

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