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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第六章:隠居賢者の隠しゴト
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お詫びの品



 「――ふぅ。思いのほか疲れるな、幽霊との会話って」


 賢者ゴーストとの対話を終えたカイセ。

 その会話に加え、時折目の前で陽炎のように少し揺らぐ(・・・)相手の姿や存在感に、微妙に五感に負荷を掛けられ疲労が増す。

 相手をしっかりと捉えていようとすればするほどに疲れる幽霊との対話である。


 「さてと…戻るか」


 そんなカイセは会談場所であった自室を後にし、共用スペースへと戻っていく。


 


 (――あぁそっか、二人は外って言ってたか)


 リビングに戻り周囲を見渡すと、兄妹もジャバフェニの姿もない。

 確か兄妹の方は鍛錬の為に外へ…正確には結界の内側、家の庭と呼べるスペースに出て行っているはず。

 スタイルが魔法使いとはいえども基礎鍛錬での体力作りは大事だし、魔法そのものの練習だって必要だ。

 用事で休む時はあれど、出来る時にはしっかりと鍛えておくのが大事。


 (ジャバとフェニも…ついてったのかな?じゃあ俺は昼食でも作るか)

 

 気付けば既にお昼前。

 居ない面々は置いておいて、まずは昼食の準備をと動き出すカイセ。

 すると…そこに見知った顔が舞い戻る。


 「――カイセ~」

 「ん?ジャバか」


 まずは材料を揃えていると、家の中に戻って来た子龍のジャバ。

 するとすぐにカイセのもとへと駆け寄って来る。


 「カイセ、きてー」

 「どうかしたのか?」

 「お客さん(・・・・)きた」

 「お客さん?」


 ジャバに告げられた来客のお知らせ。

 ただ…まぁ当然ながらこの森にわざわざ訪ねに来るお客さんなど早々居ない。

 定期的に姿を現す取引相手でもあるアリシアは、来る時は内側、《転移》から来る。

 なのでわざわざ危険な森の中、家の結界の外から尋ねに来る誰かはほぼいない。


 (気配は…結界の外か。しかも境目の前でキッチリと…とりあえず行こう)


 そうしてジャバに引率されて、カイセは家の外へ、来客とやらを確認しに外へ出る。




 「――イエティじゃん」


 そして外へ出て状況を確認したカイセ。

 まず視界に入ったのはボイスとベル。

 二人寄り添い同じ方角に視線を向けている。

 ただ…その姿には警戒の色が見える。


 その視線の先を見ると…おそらくはジャバの言うお客さんの存在。

 結界に触れぬように境の二歩手間で、足を止めて立つ唯一種(ユニーク)の魔物イエティ。

 雪男のような見た目の巨体が、ただただ真っ直ぐに立ち止まりこちら側を見続ける。

 なおそのイエティは何かを抱えている。


 (敵意の類は全く無し。いつもの平常のイエティか)


 先の騒動のイエティ。

 兄妹のちょっかいでキレたイエティに、賢者の石の影響で暴走したイエティ。

 そのどちらもが冷静さを欠いた状態。

 だが…今回は大人しく、冷静で真っ当な静かなイエティの様子。


 「…フェニ?」


 するとそんなイエティの前に舞い降りるのは不死鳥フェニ。

 一回り大きくなったものの、その体はまだまだ相手の巨体との差は大きい。

 そんなフェニが一人イエティの前に立ち、家を守るほぼ透明な結界を間に挟んで対峙する。

 互いに向き合いつつ…しかし互いに境界線を越えずに見合う。


 「…とりあえず俺も合流――あれ?」


 そんな向き合う両者の下へ歩みだすカイセだが…次の瞬間、イエティは抱えていた荷物をその場にゆっくりと降ろして、全てを地面の上に置いた。

 

 「………」


 そしてフェニを、次いでカイセを、更には兄妹へ軽く視線を向け…その場で反転。

 無言のまま背中を見せて、歩き出し去っていくイエティ。

 歩みはゆっくりだが歩幅は広いので、気付けばあっという間に姿が森の木々の合間に消えて行った。


 「…フェニ」

 「グゥ」


 そんなイエティの後ろ姿を訳も分からぬまま見送ったカイセは、その足でフェニのもとへと合流する。


 「結局なんだったんだ?」

 「クグゥ」

 「…え?何?お詫び?」


 来訪の理由も分からぬまま、荷物だけその場に置いて去って行ったイエティ。

 すると唯一直接目の前で対面したフェニは一言、その来訪の理由を『お詫び』だとカイセに告げた。


 「お詫びって…暴走の?」

 「グゥ」


 フェニの肯定。

 それは昨日の暴走イエティの一件。

 例の空間からの帰還直後に、賢者の石の影響で暴走したイエティが襲撃をしてきた。

 幸いにしてこちら側に怪我人は無く、イエティ自身も元凶である石を取り除き、そして怪我も治され帰された、結果として誰もが大事にはならなかった騒動。

 イエティの今回の来訪はその〔お詫び〕の為。


 「…え、これお詫びの品ってこと?」

 「グゥ」


 そのお詫びの為にやって来たイエティが結界の外に置いて行った荷物は、要するに〔お詫びの品〕というやつであるらしい。

 カイセに兄妹、そしてジャバフェニへの謝罪の気持ちを表す物品。

 

 


 

 「――これまた、全く無駄にならない良ラインナップが…」


 その後、イエティからのお詫びの品を回収した上で、家の中へと戻った一同。

 テーブルの上に並べられた品物たち。


 「使い道に困らない薬草類に、どれもこのままでも普通に食べられる果実や木の実やら。後は…賢者の小石まで。詫び石?わざわざ拾ってきたのか、元々持ってたのか…」


 イエティのお詫びはとても実用的なモノばかり。 

 薬草類は回復薬(ポーション)の素材になる為、使って良し、売って良しな困らない代物。

 しかも治癒魔法や回復薬の恩恵に預かれないデメリット持ちのボイスとベルにも、いくつかの薬草は〔止血薬〕や〔自然治癒力を向上させる薬〕など、即時完治とはならないものの石のデメリットを受けずに二人にも使える形の治療薬に加工する手も存在するモノなので、お詫びとしてきちんと、カイセだけでなく兄妹にとっても利になる薬草たち。


 果実類は順当にそのままでも食せるものを選りすぐり。

 勿論調理しても良し。

 更にこれも売り物にすれば、どれも質が良いので特に値が付けられるだろう。


 そして…元々持っていたのかお詫びの為に拾って来たのかは不明だが、例の〔賢者の小石〕が二つ。

 これに関しては言わずもがな、兄妹の心臓の修復素材となる石であるために念のためを考えればいくらあっても困らない在庫。

 それを知ってか知らずか譲ってくれたイエティの詫び石によって、兄妹のもしもの備えが更に増えることになった。


 「こう、しっかりと『相手の邪魔や無駄になりにくい代物』を選りすぐってきている感じの気遣いがすごいな」

 「カイセー。これ食べて良い?」

 「もうちょっとでお昼だからそれまで待って」

 「はーい」

 「…そもそも、一番最初にちょっかい掛けて相手に迷惑掛けたのこっちだったはずなんだけど」

 「それはそれでもう返り討ちにあって相手のお怒りモードも鎮まってるし、これはこれって話じゃない?」

 「その…これって…本当に貰っていいんですか?魔物からの謝罪の品物って初めてで、その…受けていいものなんでしょうか…?」

 「いやまぁそこは普通に受けて良いと思うけど。にしても…お詫びの品を持って来るとか、流石に予想外過ぎるな」


 初めての経験に困惑する兄妹の反応も当然といえば当然。

 言葉を介せずとも知恵のある魔物は、特にこの森にはそれなりに存在する。

 当然イエティも相応に高い知能を持っているのは普段の行動からも理解していた。

 していたが…しかし流石にイエティが、自分自身の望まぬ行動により起きた迷惑に対しての〔謝罪とお詫び〕を実行するのはカイセも完全に予想外。


 「カイセー、お昼まだー?」

 「……とりあえず純粋な食い物系は、全部こっちで貰っていいか?折角だからいくつか昼食に使う。残りは全部そっちで持って行っていいから」

 「あ、はいどうぞ」

 

 そのお詫びの中から食料系だけを、カイセはジャバフェニの取り分としても纏めて一緒に受け取る。

 残る薬草に小石は兄妹に譲る。

 等分、という意味では偏った分け方だとは思うが、必要な物を一番必要な者のところへと言う意味では適正だろう。

 

 「魔物からのお詫びの品かぁ…世界って広いなぁ…」

 「だね…」


 こうしてまた一つ、自分たちの中の常識や価値観を揺るがされた兄妹の人生経験値が増えた様子だった。



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