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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第六章:隠居賢者の隠しゴト
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賢者の姿と、二つの助言



 『――ふぅ、少々喋りが過ぎたかの?』

 「えぇまぁ…そこそこに…」


 賢者ゴーストにとっては死後初めての会話。

 興が乗りあれこれと、途中からは完全にただの鬱憤晴らしとして、悩みとか関係ない事柄までも口を滑らせ続けた。

 そしてその相手を続けたカイセは…少々疲労が目に見える。


 『いかんの、歳を取ったせいか、些か口が軽くなっておったかの。とはいえ…言葉を交わせるのがこれほど有意義だとは、この身になるまでは思いもせなんだ』


 誰とも言葉を交わせぬ姿になってから、会話というものの大切さに気づいた賢者ゴースト。

 

 『ゆえに、もう少しだけ老人に付き合ってくれ。語るばかりでなく、其方が聞きたい事があるならば可能な限り答えるぞ』

 「そう言えば…一つ質問いいですか?」

 『うむ、なんじゃ?』

 「その姿(・・・)、老人の姿って言うのは生前の姿のままなんですか?」


 折角なので尋ねたカイセの疑問。

 人間の寿命を越えて、それなりの年齢の姿を維持しながら生き続けた賢者。

 しかし孫を救うためにその不老を手放し…結果再開されたであろう老化。

 なのだが…その数年後、賢者が亡くなるまでの時間を鑑みても、今の老人の姿は少々老けすぎ(・・・・)ている気がした。

 勿論大元の姿が、兄妹の語る祖父の話からイメージしたものなので差異や勘違いがあっても不思議ではないのだが、せっかくなのでその答えを求める。


 『そこか…まぁそこは人の心の妙とでも言うべきか…まず前提として、ワシの死の間際の肉体はこの姿よりまだ若い姿だったのは確かじゃ』


 兄妹の心臓を賢者の石で補填した時点で、残る欠片には命の水、不老を与える力は失われた。

 つまりその時から生前の賢者の肉体は再び老い始めていた。

 だがそれも常識的な範囲。

 一気に老けるような事はなく、賢者の死の時点でも今のあからさまなお爺ちゃん姿ではなかった。


 『だがの、死の間際の魔法として発現したワシはその時点でこの白髪にヨボヨボの姿をしておった。喋りも…何となく姿に引きずられるような感じになっていての。この身は魔法の姿ゆえ、賢者本人が自らの真実の姿を無意識にこうだと(・・・・)捉えていたものがこうして反映されたのじゃろ』


 無意志に発現した魔法であるゆえに、賢者自身が無意識にイメージしていた、真実の自分の姿(・・・・・・・)が今の賢者ゴーストの姿として投影された。

 実際に生きた時を鑑みればこれでもまだ若い姿だろうが…何にせよ賢者は無意識に、自分の本来あるべき姿を…賢者の石で遠ざけていた、老いた自分の未来予想図を心に抱え続けていたのかもしれない。

 カイセの直感として、そこには何かしらの想いがあるように思えたが…流石にそこまでは踏み込めない。


 『…まぁワシの姿に関してはそんなところじゃ。結局推測で真実は不明じゃがな。さて…他に質問はあるかの?』

 「あー…じゃあ、そもそも賢者の石の事、二人に秘密にする必要があったんですか?」

 『そこか。秘密というか…そもそもの話、ワシはちゃんと明かす気はあったのだぞ?ただ時を選び、二人ともが成人になった時に自ら語るつもりではあった。だが…ワシがそこまでは持たなかった』


 秘した事を悩んだ血脈のお話と違い、こちらは元からいずれは明かす意志があった。

 だが相手は当時まだ子供。

 受け止める為の土台が出来るまで待ってからというお話だったようだが…肝心の賢者の方に、想定以上に終わりの時が早く来てしまった。

 再開した老いも等速で、まだ残り時間には余裕があったと…その時を迎えられると思い込んでいた賢者の、長くを生きたゆえの一つの慢心。

 結果自ら語る事が出来ぬまま、今回の一件で兄妹は知る事となった話。



 『それも後悔の一つ。ゆえに今回はいい機会でもあった。一応家にも事実を記した書を残してはいるのだが見つけて貰えずにいての。今回の遠征が結果として、その知る機会になってくれたのは有難い話だった。危険があったのは確かじゃが』

 「そう言えば、あの時の手紙って…」

 『夜に二人で読むところを覗き見させて貰ったが…あの勇者からの手紙のおかげで二人とも確信を持てたようだ』


 明かせずいた胸の賢者の石は一連の騒動で知った。

 そして祖父が賢者だという話の流れでの推測も、例の勇者が残した他愛もない手紙で確信に変わり祖父の正体を確かに知る事が出来た。

 道中の無茶は頂けないが、賢者ゴーストとしては伝えられなかった未練の一部を晴らす良い旅路となった。


 『……と、そろそろ時間かの』

 「え?」


 そんな会話の中で、終わりの告知を行う賢者ゴースト。

 するとゴーストの存在感がちょっとずつ薄まっていく。


 『この身は魔法、ゆえに行動の何事にも魔力を消費する。実体の無い存在となったゆえに自然から魔力を補充する手を使えているが…それも微々たるもの。二人と共にただ静かにあり続けるだけであれば問題もないが、こうして誰かと語るのは些か消費が重い。これ以上は存在維持に支障が出るゆえに、今日のところはここらが潮時じゃな』


 賢者ゴーストの肉体を維持する燃料は有限。

 孫を救うための細工にも、こうして視覚化や会話をするだけでも魔力は消費されていき…行き過ぎればそもそもの存在を維持できなくなる。

 今の姿だからこそ使える手も無制限に魔力を生めるわけではない為に、あらゆる行動には自然と時間制限がかけられる。

 それが終わりの時になったというだけのお話。


 『またこうして私事に使えるまで魔力貯蓄に余裕が生まれるのはいつの事やら…まぁそもそも適する相手が居なければ相手にすらされずに無駄遣いになるだけなのだがな』

 「実際どのくらいの確率なんですかね?その状態の貴方と話が出来る人間って?」

 『さぁどのくらいになるか…確信を持って言えるのは聖女や教皇ぐらいだろうかの。まぁ教会関係者相手では話をする前に滅されるだろうが』


 仮にも形はゴーストなので、聖職者にとってはお仕事(浄化)対象。

 出会った瞬間に終わりな可能性が高いので、むしろその前では身を潜め続けるべき相手。


 『さて…ではお暇となるかの。と言っても孫たちがここに居る限りはワシもお邪魔になり続けるのじゃが』

 「その辺は二人の今後次第かな?二人の用事も済んでるわけだし、もうあまり長くは残らないと思いますけど」

 『であるな…と、老人の長話の相手をしてくれた礼に、最後に二つだけ忠告(・・・・・・)を…いや、助言をしておこうかの』 

 「助言ですか?」


 それは賢者ゴーストからのアドバイス。

 別れ際の二つの言葉。


 『一つは…あの不死鳥。しばらくの間はあやつから離れ過ぎない方がよい』

 「フェニに、何かあるんですか?」

 『成長(・・)、いや回帰(・・)か?どちらにせよ肉体の変化が始まったであろう?あれには個体ごとに何段階か存在するのだが…取り戻す力の最大値の大きい個体程に成長直後が不安定(・・・)になりやすいのじゃ』


 転生した不死鳥が、前世の力を取り戻すまでの何段階かの過程を今後経て行く。

 これはそこに伴う危険へのアドバイス。

 不死鳥の元の力が強ければ強いほど、成長が発生した直後のある程度の期間の間は、その身が少々不安定な状況になりやすいというのだ。

 勿論何も起こらずにケロっとしている場合もある。

 だが…もしもその不安定な状態に陥った時に、カイセが遠出し留守にしていたりすると対応も助力も出来ない。

 ゆえに賢者ゴーストは、しばらくはそれを意識して見守れるようにしておけという助言であった。


 「なるほど…ありがとうございます。しばらくは注意しておきます」 

 『うむ、そしてもう一つは…其方自身への注意じゃ』

 「俺ですか?」

 『其方と、神剣(・・)への忠告でもあるかの』


 人ならざる身ゆえに見えている(・・・・・)らしい、カイセの腰の消えている神剣に視線を向けつつ語る賢者ゴースト。


 『"エルフの守護者"には気を付けよ。荒事にはならんが、出会えば面倒にはなるじゃろう』

 「エルフってあの…」

 『すまぬの、無駄話が長すぎた。それを語る時間はもうない。では…孫たちをよろしくの』

 「あ…」


 そうして最後の忠告を残し、賢者ゴーストの姿が消えた。

 別に成仏も消滅もしたわけではない。

 魔力消費を抑えるために見えない・聞こえない低燃費状態に移行しただけ。


 「……途中の、余計な話よりもそっちの話をちゃんと聞きたかったんだけど?」


 こうして終わる賢者ゴーストとのトークタイム。

 その半分が相手の鬱憤晴らしの時間だったのを考えると、それよりも最後の助言に時間を割いてほしかったカイセであった。

 

  


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