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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第六章:隠居賢者の隠しゴト
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賢者のゴースト




 「――えっと、ちなみにお茶とか要ります?一応聞きますけど」

 『ほっほ。この身はないものゆえ、そのような気遣いは不要じゃ…あ、ないのは〔この身〕であって〔好み〕ではないぞ?』

 「めんどくさい、この幽霊…」

 『ふむ。若者のノリに合わせたつもりだったんじゃが…普通に行こうかの』


 場所を移してカイセの部屋。

 兄妹やジャバフェニは置いたまま、カイセはとある存在(・・・・・)と共に自室へ戻った。

 そして向かい合う両者、カイセと…半透明な浮遊体。


 「それじゃあ…もう率直に本題に入らせて貰いますけど、貴方はボイスとベルの祖父、賢者様の幽霊(・・・・・・)って認識で良いんですか?」


 ボイスとベルの傍に居た存在。

 

 『ほほ、まぁ半分正解、半分間違いと言ったところかの。とはいえこの人格が賢者グレイを基にしたものであるのは確かじゃ』


 二人の祖父、【賢者グレイ】の幽霊。

 目の前に居る存在は確かに、この世界では〔ゴースト〕と呼ばれる存在。


 《グレイ・ゴースト》

 

 賢者の石と違い、《鑑定》が正しく機能しているのに、しかしまともな情報が浮かばない。

 むしろこの簡素な表記は生物というよりは魔法(・・)に対する見え方。


 「半分…ですか?」

 『実際半分というのは比喩でしかないが、一応名乗っておこうかの…ワシの名はグレイ。かつて"賢者"と呼ばれた一人の男の、未練の想いを模した(・・・)だけの存在じゃ』


 人は死後、〔肉体〕と〔魂〕に別たれる。

 現世に残る肉体と、天へと還る魂。

 その内の肉体が、何かしらの要因でアンデット化(・・・・・・・)したものが〔スケルトン〕や〔ゾンビ〕のような魔物。

 生命の肉体由来の怪物。


 そして魂、天へと還るはずの魂が何らかの理由で現世に留まり幽霊のような存在となり…そこから変容した姿が〔ゴースト〕と呼ばれる魔物……というのが、この世界でのアンデット・ゴーストの認識。

 だが、少なくとも目の前の賢者ゴーストは、そんな一般常識とは違った存在。 


 「つまり…どういうことですか?」

 『まぁ、他所のゴーストも全てそうなのかは知らないが、少なくともワシは自身をただの魔法(・・・・・)だと認識しておる。賢者グレイの死に際の想いが、無自覚の魔法として具現化し、俗に言うゴーストのような形になった存在。本物の賢者の魂は既に天へと還り、ここにあるのは只の、賢者の人格と記憶を持つだけの疑似幽霊、《ゴーストっぽい魔法》でしかない。本物のゴーストにはキチンとステータスが見えるはずだが…見えぬのであろう?』

 「えっと、まぁ」


 でしかない…と言うが、随分と大それた存在なのは確か。

 そもそも魔法道具ではない生の魔法はどれだけ理論的に組んで行使しても、必ず使い手の意志や想いの影響を受ける。

 それが強い想いならなおのこと。

 賢者ゴーストの、自身が《魔法》だと言う言葉が事実なら、その存在は想いの魔法の極致とも言える。

 本人が意図せず、死に際の想いだけで一つの魔法を…それも自身の意志の現身とも言える存在を生み出した。

 それが便宜上ゴーストの形を成した。


 「想い…未練?あの兄妹への?」

 『そうとも言えよう。それだけとは言えんが、こうしてワシがあの子らの傍に縛られているのもそれゆえだろう』

 「縛り…離れられないとか?」

 『その通りじゃ』


 ゴースト…というか幽霊のセオリー。

 未練の対象に縛られる。

 賢者ゴーストもあの二人の傍を大きく離れられないという縛りを持つようだ。


 「…てことは、あの地下空間にも付いて来てたんですか?」

 『居たぞ。ただ…あの巨石の間は、今のワシには少々刺激が強くての。部屋の外で待機させて貰った』


 賢者の巨石の安置所。 

 その場所にも同行した賢者ゴーストだが…しかしあの場は魔法存在となった彼には踏み込みずらい場所だった様子。


 『模倣存在とはいえ、製作者の一人が入れないとは些か笑える事柄だったの』

 「製作って…あの場所の?」

 『あの巨石の管理システムは賢者の生み出した魔法陣によるもの。とは言え…提供しただけで稼働した実物を見るのは初めてだったがの』


 賢者の巨石を取り巻く魔法陣。

 そのシステムの提供者は、魔法研究の第一人者である賢者。

 ただ、話によると生前に、その完成品…あの場所に足を踏み入れる事はなかったようだが。


 『あの地図も、勇者から送られて、いずれは一度覗いてみようと残してあったものだが…ボイスとベルがそれを目印にここに来るとは思いもせんかった。しかもその結果死に掛けておるし…』

 「そう言えばあの気配は…」

 『ワシじゃよ。まぁゴーストのちょっとした悪戯程度にはこの姿でも魔力操作が出来ての。この森に人の気配があるのは把握しておったから、運よく見つけてくれればとな』


 行き倒れるボイスとベル。

 本来は、賢者の石のデメリットで気配が感知できないはずの二人を、あっさりとカイセが見つけられた理由。

 それは賢者ゴーストの手による細工。


 『そう言えば礼がまだだったの。二人を救ってくれて本当に助かった、ありがとうカイセ殿』

 

 あの時の礼と、頭を下げてカイセに伝える賢者ゴースト。

 カイセもその礼に頭を下げ返す。


 『本当ならあの不死鳥、フェニ殿にも礼を述べたいのだが、直接言葉を伝えられるほどには、まだそこまでは戻っていないようだな』

 「ん?フェニですか?」

 『あぁ、其方は知らぬだろうが、成体の不死鳥ならワシを見ることの出来る眼も、意思疎通のための言葉も手にする。少なくともワシの知る不死鳥はな』


 勇者パーティーと共に在った不死鳥フェニの前世。

 今よりも大きな不死鳥は、目の前のゴーストを視る為の力も、言葉も手にしていた。

 フェニもいずれはその領域に戻ってくるのだろうが、今のフェニにはまだ先の話。


 「ていうか…二人には見えてないんですよね?」

 『あぁ見えぬ。この身は《ゴーストっぽい魔法》。本来のゴーストが視る者を選ぶ存在なのと同様に…ワシの姿も視える者と視えない者がおり…更には意図的に濃度を調整しておるからな。其方もワシが姿を現すまで視えなかったであろう?』

 「ですね」

 

 元々視える視えないの差があり、その上で視える者に対しても視えぬように対策している賢者ゴースト。

 ゆえにカイセにも先ほどまで気付けなかった存在。

 ただ…肝心の兄妹は、根本的に視えない側。


 「二人には…いいんですか?」

 『まぁ…視えるならばと思うこともあるが、しかし賢者は既に死者。天へと還り、この身はただの模造品。それに…あまり善きことではなかろう。生者が死者と語り合うのは』


 今まさに生者であるカイセと向き合おう死者。

 だがそういう話ではなく、あくまでも家族・身内と…未練の対象と、という話だろう。


 『基本的にワシは人前には姿は現さぬ。今回は特例のようなもの。普段は二人を見守り、本当にもしもの時にちょこっとだけ手を差し伸べる。さながら守護霊のようなポジションを志しておる』

 「うんまぁ…そのぐらいがちょうど良いとは思いますよ」

 『であろう?』

 「でも…それならそれで俺にも顔を出さない方が良かったのでは?いえまぁ違和感に気づいちゃったからなのかもしれませんけど」

 『まぁそうじゃの。だが…実は其方の前に姿を現したのは、二人に対して懸念や疑念を持たせぬ為であると同時に…ワシとしても少々都合が良い(・・・・・)機会だと思ったからなのじゃ』

 「都合ですか?」

 

 賢者ゴースト側の都合。

 こうしてカイセの前に姿を現した理由。

 気配の違和感で孫に不信感を持たれぬ為の事情説明でもあるが、そのついでにカイセにしたい相談(・・)があった。


 『実はの…二人の血筋(・・)について、生前に話せず秘めたままになった情報があるのだが…二人にこれを伝えるべきかどうかを迷っておるのだ』 

 


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