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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第二章:聖剣依存の凡人勇者
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民泊〔マヨイガ〕


 「こんにちはー、ご希望の量を持ってきましたよー」


 例の取引のためにカイセの家へとやって来たアリシア。 

 だが取引用の米俵は、普段よりも数が多かった。


 「お疲れさま。悪いな、結構な量なのに来てもらって」

 「いえ、結局《転移陣》の上に置いておけば後は一瞬ですし、陣まではみんなで運んだので問題はありませんでした」


 アリシアの後ろには、普段の数倍の量の米俵が積み上げられている。


 「……むしろ引き取る量を増やして大丈夫だったのか?備えとか」

 「備えは備えとしてちゃんと残し、いつもカイセさんに渡している分を差し引いて、それでも余ってる分を持ってきてるので問題はないです」

 「というか何でそんなに余ってるの?」

 「……取引業者が一組、新参の米農家に鞍替えしまして。違約金は支払ってもらいましたが、引き取られなかったお米がそこそこ……なので持って行ってくれるのなら大歓迎です!むしろこの量で定期契約しませんか?」

 「流石に毎回この量は必要ないわ。今回は特例だ」


 遠い目をした後に、どうですか?と期待の視線を向けてくるアリシア。

 だが今回は想定外の出来事で米の消費量が跳ね上がったので取引量を増やしてもらったが、いつもこの量は必要ない。


 「それで、何でこんなに必要になったんですか?」

 「あー、ちょっと成り行きで臨時の〔民泊〕を開く事になってな」

 「ミンパク?」


 数日前にカイセの家へとやって来た勇者一行。

 勇者に三人の側付き兵士、そして隠密八人。

 彼らはこの数日、カイセの家に泊まっているのだ。

 家の作りがログハウスなので、コテージやロッジな気もしなくはないが。


 「まぁなんだ。ちょっと変な事になって、合計十二人程この家に泊まっているんだ。有料で」


 カイセの家は、勇者一行の修行&探索拠点になっていた。

 個人的には帰って欲しかったのだが、前回のように強制帰還させてもまた戻ってきそうなので、満足行くまで自由にさせることにした。

 多分勇者に探索許可を出したこの国の王様も、今のカイセと同じような諦めがあったのだと思う。

 最初は拒否していたのを、一行四人で根気良く説得したらしいので多分疲れたんだろう。

 その代わりに秘密裏に付けていた隠密部隊だったが、流石に勇者一行を残して帰れないので同じく泊まっている。

 そして既に隠れる気は無いようだ。

 森に出向くときも十二人でパーティーを組んで探索している。

 その過保護陣形の中で、勇者ロバートがちゃんと成長できるのかどうかは知らないが。


 「有料で……つまりは〔宿屋〕を始めたってことですか?」

 「まぁ期間限定ではあるけど、そういう事だな」


 異世界と言えば宿屋の存在は欠かせないものだが、まさか自分が店側の立場になるとは思いもしなかった。

 とは言っても、やってるカイセ本人は完全な素人なので、休める場所の提供と食事の提供のみの個人宅で行う民泊だ。

 宿屋何て立派なものではない。


 「ちなみにその内容は?」

 「えっと、〔朝夜二食付きで風呂トイレ共同〕な二人一組の部屋が二室で四人、それと同条件で外のテント用の敷地提供で八人。計十二人で一泊が……合計このくらい」


 適当な紙にさっさと計算を書き、それをアリシアに見せる。


 「……高くないですか?町の宿屋ってこれの何分の一だと思ってるんですか?」

 「ここは町じゃないからな。割と妥当だと思ってる」


 日本円計算で、個室組が一人一泊二万で四人分。

 庭のテント組はテント持ち込みなので一人辺り八千円で八人分。

 十二人合計で一泊十四万四千円である。

 正直日本なら、民泊レベルでこの値段は誰も見向きもしない設定であろう。

 だがここは異世界、そして〔魔境の森〕の奥地である。


 「よく考えてみろ。ここがどこだか分かっているか?こんな危険な森の中で、毎日安心して眠る事の出来る環境……そして朝夜と温かい食事をお腹いっぱい食える。それだけでも価値があるとは思わないか?」 


 こんな危険な場所に家や宿泊施設を建てる馬鹿は居ない。

 当然この辺りで休むとすれば、野宿やテントしかない。

 そしてそれも、誰かしらが交代しながら見張りを行わなければならない。

 眠る側も有事に備えなければならないため、あまり深くは眠れない事も多いだろう。

 しかもこの辺りの魔物の危険度を考えれば、それこそ休む事すら決死の思いだ。

 そんなリスクや不安が、カイセの宿(臨時)なら解消される。


 「この辺りに住む魔物には、この一年で〔相互理解〕を済ませてあるから、好き好んでこの場所を襲ってくる馬鹿(やつ)は殆どいないし、更には魔物避けと防壁を兼ねた《結界》も張ってあり、緊急時には俺も出向く。なので安全面はバッチリ。それに最初に少し〔デモンストレーション〕もしたからみんなそれで理解してくれて、二日目からは安心してぐっすり寝てたぞ。この環境でこの値段……みんな納得どころか喜んで泊まってくれてるぞ」

 「……色々と突っ込み所があった気もしますが、とりあえず〔でもんすとれーしょん〕とやらで何をしたのか詳しく説明してください」 

 「企業秘密です」


 家の周りに張った《結界》に向けてカイセや当人たちが攻撃を加えて頑丈さをアピール。

 更には食用肉として捕まえて来た魔物に、「この結界を破ったら逃がしてやる」とおど……チャンスを与えて全力で攻めて貰い、それでも破れない結界を見せて安全性を証明しただけだ。

 ちなみにその魔物は無事に夕食のメインディッシュを飾る事になった。

 言語理解(全)のおかげで魔物ともそう言った意志疎通が出来るのは便利ではあるのだが、加工(わかれ)の時に少し悲しくなるのがたまにキズである。


 「と言う訳で、良い感じのかねづ……お客さんになりそうだったので、一時的にではあるが宿泊施設の真似事を始めました」

 「いま金蔓って言いそうになりませんでしたか?」

 「気のせいじゃないかな?」


 従業員はカイセ一人。

 魔法の手助けもあり、十三人分の食事の手間もさほど大きくない。

 掃除も魔法で楽々丁寧に隅々まで出来る。

 他に従業員を雇う必要もないため、実質日給十四万円の労働環境だ。

 経費として一番お金が掛かるとすれば食事代ぐらいだが、それも大体自家栽培や自前で採って来たものなので、お米以外は何も仕入れていない。


 「と言う訳で、今なら物々交換じゃなく現金取引でも対応可能だぞ?」

 「結局その現金で流通品の、質が普通のジャムやハチミツを買う事になりそうなので物々交換で良いです。どうしても現金が必要になった時はご相談しますが」

 「そうか、じゃあ……ほいっと」


 そしてカイセは〔アイテムボックス〕から取り出した袋を、アリシアに渡す。


 「こっちがいつもの分。それでこっちが増やして貰った分の物々交換品。中身確認して『これ要らない』とか『これじゃ足りない』とかあったら指摘してくれ」

 「それじゃあ拝見させて……ちょ…ちょっと!?カイセさん、これって!?」

 「ん?あぁ〔ゴールデンアップル〕な。たまたま見つけたんで二個ほど加えてみたんだが」

 

 アリシアの注目を集めたのは、文字通り金色の林檎である〔ゴールデンアップル〕だった。


 「通常のリンゴの三十倍の値が付く高級品……正直他の物と合わせて一個あれば十分なんですけど、本当に二個貰っていいんですか!?一個分オーバーしますよ!?」

 「あぁ、まぁ期日前に急がせたし迷惑料とか、商売繁盛のおすそ分けみたいな感じで持って行ってくれていいよ」 

 「――!!貴方は神ですか?」

 「その言葉、何度目だろうな」


 元聖女候補さんの神認定ハードルがとても低い位置で固定されてしまっている。


 「(カイセー)」

 「おっとそんな時間か。お米はとりあえず仕舞って……アリシアもちょっとそこ開けて」


 《転移陣》を空けて、カイセはジャバを呼び寄せる。


 「《転移》」

 「カイセーきたよー!」


 その《転移陣》から、新たにジャバがやってきた。

 適当な場所に《転移》させるより、設置済みの魔法陣を使った方が簡単なのだ。


 「おう。すぐにおやつを出すからいつもの部屋で待っててくれ。アリシアも食っていくか?」

 「ぜひ!!」

 「力強い事で……ジャバと一緒に待っとけ」

 「行こう、ジャバちゃん」

 「いくー」


 二人揃って移動していくアリシアとジャバ。

 初対面ではあんなに怖がっていたアリシアも、慣れたというか、随分と仲良くなったものだ。

 

 「さて、とっとと持っていくか」


 民泊を初めて残念な事があるとすれば、ジャバと会う時間や場所が制限される事だろうか。

 流石にジャバをあの面々に会せるわけには行かないので、こうして彼らが探索している最中に《転移》で引き込む。

 偶然鉢合わせてジャバが襲撃される心配もない。

 

 (まぁ最長一月の約束だし、それまでは労働に励みますか)


 今はひとまずおやつタイムと洒落込もう。

  

 

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