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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第六章:隠居賢者の隠しゴト
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賢者の仕込みと探知の違和感





 「――あの石の耐用年数(・・・・)の心配をしているのなら、そこはまぁ問題ないと言えると思いますよ」


 女神に尋ねた『兄妹の心臓の石がどのくらい保つものなのか?』という質問。

 賢者の石が割られたり、力を失ったり…もっと根本的には、宙から飛来する際に燃え尽きたり。

 創世物質の端材と言えども壊れる、破損消失する物質であると証明されている以上はどうしても気になった、ある日あの兄妹が賢者の石の停止により突然死する可能性。

 だが女神の答えでは、さほど深刻になる必要がないというもの。


 「仮にも創世物質の端材ですから。心臓の代用品程度に二十四時間休まず稼働させたところで数百年は余裕で持ちますよ。なので心配は何らかの拍子の暴走、過剰稼働での限界ですが…その辺りの制御も完璧ですね。これは」


 通常状態で不安は無し。

 しかしイエティの石のように、何かの拍子に暴走すればやはりリスクは残るもの。

 だが賢者の仕込んだ術式は、その暴走の心配を拭う。


 「《賢者の石を心臓として稼働させるための魔法》。これが無ければそもそも石を心臓になど出来ません。なので賢者も当然これを組み上げ二人の体に埋め込んでいますが……ですが…これは凄いですよ。一切の綻びもズレもなく完璧です。人間にこれだけ出来るとは…数百年どころか千年劣化の心配なく、更に術式が無事であるなら何かの拍子の暴走の可能性も絶対のゼロの完全制御下ですね」


 

 埋め込んだ賢者の石を、損傷した心臓と一体化させ代役として稼働させるための魔法、その為の《心臓術式》。

 石を心臓として動かすための魔法の術式が、賢者の手により二人の体の内側(・・・・・・・)に刻まれている。


 そして感嘆しつつ女神は、その式の一端を公開してくれたが…ハッキリいって尋常ではない。

 カイセはそのステータス上、全ての魔法を習得できる土台(・・)は備わっている。

 だがそれでも、一生のうちに賢者の領域にまでたどり着ける気がしない。 

 土台があっても、ずば抜けたセンスと思考力が無ければ同格になど並べるはずもないと、その筋の本物(・・)の存在に、なまじ人並み以上の魔法を扱えるカイセだからこそ正しく驚かされる。


 「更にこれとは別ですが、賢者はきちんともしもの備え(・・・・・・)も用意している様子ですね」


 








 「――その、私達の胸の石は、他の賢者の石を消費(・・)することで修復(・・)出来ると?」

 「みたいだな。石の寿命は長いし、少なくともイエティの石のような暴走も二人には起こりえない。だけどやっぱり、それが石である以上は普通の心臓同様に物理的破損は起こりえる。だけど仮に賢者の石が傷ついても、その後付けの修復機能のおかげで、予備の石(・・・・)さえあれば修復、直せる」


 そして目が覚めた兄妹に三つの小石と共に渡し伝えたその事実。


 賢者が仕込んだ特殊な機能(もしもの備え)

 それは石の《修復術式》。

 頑丈であれどモノである以上は物理的に破損するリスクは当然ある。

 だからこそ賢者は、破損した石を治せる手を用意した。


 二人の胸の石は他の賢者の石を使って修復することが出来る。

 勿論、石が破損し機能停止中は心停止状態なので猶予は短い。 

 だがその間に、用意された術式が例の〔石同士の共鳴現象〕を応用した機能により二人の所持する別の石を自動消費して勝手に破損を修復してくれる。

 つまり石の予備があればあるだけ、二人の命の安全に繋がる。

 だからこそ拾ってきた賢者の小石を、不意の共鳴で回収されてしまった形見の欠片の代わりとする為に二人に渡すカイセ。


 「あの欠片、俺らの心臓の修復用でもあったのか…」


 二人には、祖父の賢者の石の欠片を常に離さずどちらかが持ち続けろと言う言葉が残されていた。

 その意味が理解出来た様子のボイス。

 だがベルは別の疑問に行き着く。

 

 「…ちなみに、その術式って言うのは、石そのもの(・・・・・)に組み込まれているんでしょうか?それに術式自体が破損したら…」

 「その辺もちゃんと対策されてるのが怖すぎるよ、賢者は」


 ベルの疑問の答え。

 まず術式は石そのものではなく二人の体に刻まれている。


 そもそも賢者の石自体は、欠片の欠片とて他の魔法干渉を弾くデメリットを備えている。

 二つの術式(心臓と修復)の効果そのものはその干渉阻害をすり抜ける仕組みが組み込まれているので問題なく稼働する。

 そのすり抜けが可能なこと自体が、また賢者のヤバさを証明するものなのだが今はとりあえず置いておく。

 大事なのはそんな賢者をもってしても、術式を賢者の石そのものに刻むことは無理だった。

 ゆえにその二つは石ではなく兄妹の体に刻まれ、心臓の石を制御管理している。

 地下空間で、賢者の巨石を取り囲む魔法陣のように。


 「心臓術式は胸の内側。二人に賢者の石が埋め込まれた時に体の内側に仕込んだみたいだな。だから眼では見れない」

 「体の中…では修復の方は?」

 「そっちは後付けだから体の外側。ボイスは左わき腹、ベルはお尻の上の尾てい骨あたりに小さな痣みたいなものがあるだろ?それが修復の為の後付け術式」

 「あー、あの痣か!」


 心当たりがあったようで納得するボイスは、服の中を覗いて確認しようとする。

 二人の体のどこかにある、賢者が後付けで付与した魔法術式の痕。

 目立たぬようにと最大まで小型化された、痣と見分けがつかない最小の《魔法陣》。

 内容に対してサイズがおかしい、その技術も賢者ゆえの頂点のもの。


 「ちなみに術式が破損したらって質問は、二人が側にいれば問題ない」

 「ん?どういうこと?」

 「その二つ、心臓術式も、修復術式も、破損しても兄妹が揃っていれば自動で修復してくれるようになってるんだよ。相手の術式が干渉してな」

 「まじかー……」


 仮にボイスの体の術式が破損し機能を停止しても、ベルが傍に居ればベル側の術式がボイスに干渉し、破損した術式を修復する。

 それは逆のパターンでも同様で、要するに二人に仕込まれた術式は、同時に破損しない限りは直す手段が存在する。

 そしてどうやらこの相互干渉の道筋こそが、賢者の石のデメリットで他者の魔法干渉を弾いてしまう難儀な兄妹においての限りある手段、互いの《治癒》は受けることが可能という例外を生む要因になっているようだ。


 「…あの、カイセさん?」

 「ん?どうした?」

 「その…もしかして…見ましたか?私のお尻…」


 なおその事実に驚くボイスとは、全く違う反応を見せるベル。

 彼女は顔を赤くして、両手をお尻に当てて隠すようにしながらワナワナしている。

 というのも、ベルの紋の位置はお尻のちょい上。

 その存在を知っているということは…つまりはお尻を見た(・・・・・)可能性。

 そこに行き着き動揺し、恥じらいつつ負のオーラ(・・・・・)を纏い始める女の子。


 「なんだよ、尻ぐらい別に――」

 「キッ!」

 「…何でもないです」

 「あー…見た訳じゃなくて、探知みたいなのでそこにあるって認識しただけなのであるのは分かったけど実物がどんなものかは知らないです。見てないので」

 「そう…ですか…ならいいです…なら」


 一応理解するが、なんとなく納得しきれていない様子のベル。

 そもそもこれは嘘であり、情報源はネタバレ女神。

 お礼の一環の情報開示でこういう情報まで明かしてくれたのは、手間が省けて楽だが明かし過ぎでは?とも思う。


 (……ん?探知が通る?)


 そんな普通のやり取りの中で、カイセは一つの疑問に行き着く。

 賢者の石を胸に秘めた兄妹に、他者からの《鑑定》と《治癒》は弾かれる。

 だが…今の紋の探知は言い訳の嘘だが、実際に最初…森で倒れる兄妹を《気配探知》で捉え発見した。

 つまりはその時点では《気配探知》は有効だった。

 

 ならば探知は阻害を受けない分類のものなのか?と思いきや……しかし暴走イエティの襲撃時、カイセが直前までその存在を認識出来なかったのは地上に帰還直後なだけでなく、その直後に放った《気配探知》に直接存在が引っ掛からなかったのが理由。

 ただ周りの様子からの違和感で、向かって来る何かに物理的に気づき反応したに過ぎない。

 あの場に迫っているのがイエティだとは認識出来なかった。

 

 (稼働中の賢者の石の阻害効果で気配探知は邪魔され、しかしその分違和感は残る。それが普通だとしたら…何故最初の出会いで、俺は二人の存在を違和感もなく見つけられたんだ…?)


 試しに今目の前で《気配探知》を使用してみる。

 それによりジャバにフェニの反応、家の周囲の虫や魔物などの存在も探知し把握するカイセ。

 だが…そこに目の前に居るはずの兄妹の反応はない。

 石に阻害され存在を探知できない上に、そこだけ微かに視界が歪むような違和感だけが残る。

 近くだからこそ見え、遠くだと周囲に紛れる程度の僅かな歪み。

 逆にそれが何者かの存在証明にはなるだろうが…初対面の発見時の確かな認識はそこにない。




 『――なるほどのう。流石は神剣に憑かれし者。隠し続けるほうが疑心を生むかのう…』

 「え…誰?」


 するとそこで聞こえてきた誰かの声。

 ただし…その声はボイスとベルには聞こえない。


 「あの…カイセ兄ちゃん?」

 「どうかしましたか?」


 不思議そうにこちらを見る兄妹。

 その背後…二人の後ろに、唐突に靄が出現する。


 『この子らには見えんし聞こえんよ。死人(・・)が現れても困惑するだけじゃからなぁ』


 その靄は段々と形を成して…そして老人の姿に変わる。


 『我が孫たち(・・・・・)の恩人よ、少しばかり二人きりで話せぬかのう?』




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