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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第六章:隠居賢者の隠しゴト
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イエティの襲撃



 ――仮称〔イエティ〕。

 雪男のようなその容姿と巨体から、カイセが勝手にそう呼んでいる唯一種(ユニーク)の魔物。

 この世界にただ一体の希少な存在。

 

 その魔物については、この魔境の森で暮らし始めた当初の段階でカイセは《星の図書館》の情報から知識を得た。

 《星の図書館》はこの世界のほぼ全ての情報を本として所蔵する万能の知識倉庫である。

 だが…万能と便利はまた別問題。

 カイセが目にしたのは魔境の森に住まう魔物たちの図鑑のようなもの。

 そこには確かにイエティの情報も記されていたが、しかし全てがその一冊に収まっていた訳ではなく…特にイエティがどういう過程を経て唯一種として生まれたのかと言った個別の歴史は別本扱いで、その時点での必要情報を読み終えていたカイセはそのまま次に進む事は無かった。


 (あの時、全部探して読んでればコレも載ってたのかな…)


 自室でそんな思案をするカイセの手には、例の〔賢者の石〕が握られていた。





 

  

 

 ――霧の向こう側から帰還したカイセ。

 賢者の巨石の眠る部屋から螺旋階段を登り、つい先ほど洞窟も後にし地上の森に復帰した一同。

 後はひとまずカイセ宅への帰路が待つのみだった。

 だが…そこに唐突な襲撃が掛かる。


 「おー、ほんとに一瞬で森に――」

 「ボイス!ベル!下がれ!!」

 「へ…きゃあ!?」


 帰還した直後、待ち望んでいたように襲撃してきた存在。

 守りを起動し兄妹の前に立ち、自ら盾となったカイセに馬鹿力で殴りかかって来た敵。

 

 「コイツって…あの時の!?」


 冒険者の兄妹が、森に不法侵入してきた際にちょっかいを掛けて殺されかけた魔物イエティ。

 巨体の雪男モドキが、その強い力でカイセの展開する見えない防御壁を叩き続ける。


 「凄い力…カイセさん!?」

 「大丈夫」


 パワーは凄いが、ステータスで勝るカイセの魔法防御は突破できずに叩くのみ。

 とは言え食らい続ければその分だけ魔力はガリガリ削れていく。

 だが次の瞬間、防御へと叩き付けていたイエティの両腕が左右同時に斬り飛ばされた。

 

 「グゴオオオオオオ!!!?」


 イエティの叫び声が響く森。

 その暴音に耳を塞ぐ兄妹を見て、常設の音波対策を兄妹まで広げて保護する。

 そして腕に次いでその巨体も、防御壁から吹き飛ばされたイエティの前に…二機のゴーレムが剣を構え立つ。


 「ゴーレム!?」

 「あんな簡単に、アイツの腕を…」


 その二機はカイセの騎士ゴーレムの《ウコン/サコン》。

 聖女にぶん投げた守護聖騎士ゴーレムには核が劣るが、それでも上位クラスとなるゴーレム。

 守りと共に起動した二機が、突然の襲撃者の切断する。

 だがしかし……


 「…グゴ…グゴガアアアア!!!」


 先ほどからカイセの聞き覚えの無い、本来と異なる叫び声を上げ続けるイエティ。

 両腕を切断されたはずなのだが…気付けば傷など初めから無かったように、失った両腕が一瞬で再生する。


 「瞬間回復?コイツそんなスキルは…あれ?」


 以前に目視し、そして調べたイエティの技能にはなかった回復能力。

 それを目の当たりにしてカイセはすぐさま《鑑定》で認識の更新を行おうとする。

 だが…何も見えない。

 それはまるで、賢者の石(・・・・)の影響を受け、他者の付与系魔法を受け付けないボイスとベルの鑑定阻害と同じような……


 『マスター。仮称イエティから賢者の石の波長を検知しています』


 姿を消したままの腰の神剣から、その答えが飛んでくる。

 後方に守る兄妹と同じような(・・・・・)ではなく、イエティもそれと同じ(・・)反応。

 賢者の石の影響を受ける者。


 『対象の心臓下付近に、賢者の石の存在を確認。件の兄妹よりも大きく強い力を発しています』


 その根源はイエティの体内。

 兄妹同様に、その身に賢者の石を内包する存在。

 ただし、兄妹とは事情が異なる。


 「なにあれ…」

 「斬っても斬っても再生する?俺らとぶつかった時はそんなことなかったのに」


 目の前のイエティの異常さに驚く兄妹。

 二人はイエティにのされて死に掛けた者たちだが、完封と言う訳でもなかった。

 さしたるダメージでもないだろうが、それでも少しばかりの傷をイエティに負わせていた。

 だからこそイエティを怒らせたとも言えるが。


 そしてその時にはこんな回復能力は見せなかった。

 ゆえに今の、騎士ゴーレムの剣に幾度も切り裂かれながらかすり傷どころか重傷すらも、その全てが瞬間的に回復する魔物の姿に分かりやすく異常さを感じる。


 『観測による推測ですが、対象の内包する賢者の石は無加工(・・・)のもの。兄妹のように然るべき処置や調整の施されていない予期せぬ内包物である可能性が高いです』

 「(つまり、制御できない暴走状態的な?)」

 『そうだと思われます』


 兄妹の心臓と同化する賢者の石は、かつての賢者が孫を生かすために授けた石。

 とは言え人間の体に石など異物。

 心臓との同化できちんと機能させる為に賢者は何かしらの処置を施したはずだ。

 だからこそ兄妹は今の今まで何事もなく生きて来られた。

 しかし…目の前のイエティの内包す賢者の石は、それらの適合処置がなされていない。


 『情報が少ないのでほぼ憶測ですが、対象が賢者の石を内包したのは不測の事態であり、しかし何かしらの理由により不活性状態、要するに機能が停止したただの石同然の状態で今まで残り続けていたのでしょう。ですが何かをキッカケに石が活性化。しかし相応の処置が施されていない以上は魔物の身で制御は難しく暴走。身の内から溢れる力に理性を失い、今の恐慌・暴走に陥っているのだと推測されます』


 賢者の石により引き起こされた暴走と恐慌。

 これもまた推測でしかないが、直近で怒りを向けた相手、そして同じく賢者の石を内包した兄妹を本能的に感知して暴走の矛先を向けている様子。

 その為か、直接立ちはだかる騎士ゴーレムやカイセではなく、その後ろの兄妹にばかり敵意を向けて襲い掛かって来る。

 ゆえにまぁ斬り伏せやすくはあるのだが、しかしその度に即座に回復してくるため、結局足止めにしかなっていない。

 

 「…良し、とりあえず逃げるか」


 対処手段いくつもあるが、この辺りは他の魔物の活動圏内でもあるのでやり過ぎると後が面倒になってきてしまう。

 なのでカイセが実効支配中の自宅周辺の方が、何をするにもやりやすい。


 「ジャバ、家まで先導してくれ」

 「わかったー」

 「二人とも、まずは家に戻るぞ!」

 「はい」「おう!」


 そして一同は、カイセの家に向け全力で駆け出す。

 

 


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