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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第六章:隠居賢者の隠しゴト
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祖父の正体



 「――あ、これじいちゃんだ」

 「すっごい若いけど、確かにそうだね」


 賢者の巨石の眠る部屋の奥。

 小さな部屋にあった写真を持って、カイセはボイスとベルのもとへと戻った。

 そしてその写真を二人に見せると…二人揃ってそこに写る人物の一人を、自分たちの祖父だと口にした。

 当然若い頃の姿だが、面影に身体的特徴が二人に確信を持たせる。


 「(ちなみに…この人が賢者で間違いないのか?)」

 『その通りです。二人が祖父と呼んでいる写真の者こそ、当時賢者と呼ばれていた人物です』


 写真そのものの記録は無いが、当時の時代の記憶は持つ神剣。

 そこには勿論当時の主であった初代勇者の友人・仲間に関する基礎知識も残っている。

 そしてその記憶は写真に写る人物を、二人の祖父こそが当時の"賢者"であると断言する。


 (…まぁ賢者の石を持つ人物って時点でそれっぽいなと思ってたから言う程には驚きはないけれど)


 ただ、カイセからすればこの展開は割と予想通り。

 二人が賢者の石を胸に秘め、二人の祖父が賢者の石の持ち主らしいという話な時点でその正体の第一候補が"賢者"になるのも流れとして普通だろう。

 ただしこの場合の問題点は、年月のズレ(・・・・・)にあるだろうか。


 (初代勇者の時代…その当時の人物って話になると人間種族の寿命は軽く超えてるんだよなぁ…)


 当時の人間が今の時代に生きているのは、自然の摂理としてはあり得ない。

 それぐらいの時の流れが存在する中で、となれば次の答えに行きつくのも自然の流れ。


 (賢者の石には確か不老もあったか…)


 それは賢者の石の持つ力の一つ。

 老化を抑え実質的な不老をもたらす命の水。

 人類の願望の果てとも言えそうな不老不死を、半分叶える特別な妙薬。

 二人の祖父がじいちゃんと呼べるほどには老けていることを鑑みれば、そもそも理想程の力が無いのか、もしくは欠片ゆえの劣化なのか、いずれにしろ完璧な不老ではなかったのだろう。

 だがそれでも二人の祖父が当時の賢者なら、この時間の差を埋める程度には長命をもたらす力があるのだろう。


 (でも…その力は手放したのか)


 老いを遅らせ今の時代まで生き延びた賢者は、しかし孫である兄妹を救うために大事な不老の力を手放した。

 賢者の石の欠片を更に割り、命の水を生み出せない程にまで賢者の石は小さくなった。

 その結果が…不老の時が終わり寿命を迎え、静かに眠りについた二人の祖父。

 長い時を終わらせる覚悟をしてでも、大事な孫を救った賢者。


 (良いおじいさんだったな。できれば、生きているうちにこの手紙(・・・・)を渡してあげたかったが…)


 写真と共に、あの小さな部屋に残され持ち出して来た封筒。

 それは二人の祖父であり"賢者"であった彼に、初代勇者が残した手紙。

 なりゆきで中身を拝見してしまったカイセだが、内容は本当に個人的なもの。

 世界を揺るがすような真実などは何もなく、ただただいずれここへとやって来るかもしれない友人に宛てて残した普通の手紙だった。


 「この人達が、じいちゃんの友人?」

 「みたいだな。そして…これはおじいさん宛ての手紙だ」


 カイセは一緒に持ち出したその封筒を二人の前に差し出す。

 これが賢者への手紙である以上、あの場に残すよりも孫である二人に渡すべきだろうと持って来た。

 

 「悪いが中身は確認させてもらった。だけど…これはおじいさんに宛てた個人的な手紙だったから、写真も含めて二人が持っておくべきだろうさ」

 「分かりました…ありがとうございます、カイセさん」


 妹のベルがその二つを受け取る。

 その手紙はここでは読まず、そのまま写真と共に一度仕舞う。

 二人がそのまま持つのか、祖父のお墓に捧げるか、または別の…とにかくその扱いは二人の気持ちに託される。

 ちなみに今の時点で、兄妹が祖父は賢者だと気づいているかは分からない。

 だが手紙にはハッキリと賢者の文言が含まれているので、読めば必然理解するだろう事柄なのでカイセからはあえて口にしない。

 

 「ちなみに…この部屋の、あの大きな石は…どうするんですか?」

 「え、現状維持で放置?あんなのどうこうしようがないし、どうこうしたいとも思わないし」


 今回の成果は二つ。

 奥の部屋の発見、そこにあった封筒と写真。

 それは兄妹の手に渡った。


 そしてもう一つ…根本的にヤバイブツな、賢者の巨石の発見。

 ある種で世紀の大発見で、これが表に出ればそれこそ世界に大きな衝撃を与える。

 なので……カイセとしては完全放置で、このままこの場に残して去りたい。

 

 (せっかく勇者の施した実質的な封印もある訳だし、わざわざ解いて持ち出す理由ないよなぁ)


 手持ちの欠片を強制回収された兄妹がどう言うかは分からないが、あんなものは外には持ち出したくないカイセ。

 聖女ゴーレムや神剣と違い、この巨石は流石に成り行きで持ち出すには色々な意味で重すぎる。

 

 「ちなみに、二人はあれどうする?持ってた欠片とかも取られちゃったわけだが」

 「えっと…どうしようか?」

 「ぶっちゃけあんなのどうするかって聞かれても困るだけなんだよなぁ…」


 ただ一応、カイセ以上に賢者の石に資格を持つ二人にも尋ねてみる。

 しかし二人もあの巨石の扱いは困る様子。


 「まぁあの欠片は取られたけど、じいちゃんの形見の石はまだ俺らの心臓にも残ってるみたいだし」

 「このまま放置しようか?手紙とか写真とかで成果は十分だよね?」

 「だな」


 彼らにとって大事なものは既に手中に。

 欠片を一つ失いはしたが、胸には常に形見がある事を二人は理解している以上、さほどその一つに固執する必要もない。


 という事で正式に兄妹も、巨石は放置の判断をする。

 祖父の"何か"を求めてやって来た二人には、今手にあるそれらで成果は十分。


 「じゃあ上もう戻るか?」

 「そうですね。戻りましょうか」

 「そうだな」

 「かえるー?」

 「帰る」

 「わかったー!」

 「グルゥ」


 こうしてせっせと満場一致で帰宅の道を選んだ一同。

 彼らは見つけた賢者の巨石はそのままに、螺旋階段を登ってゆくのであった。

 


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