秘密のお部屋の奥の扉
「つまり…あの時俺らが助かったのは、じいちゃんの石…賢者の石?が心臓の代わりになってたからなのか…」
「賢者の石。それが私たちの心臓に…」
賢者の巨石の安置された部屋から出た一同。
そこで話を、根本的な部分であるボイスとベルの心臓代わりとなっている賢者の石の存在について確認した。
やはり二人はその事実を知らずに、今この時に賢者の石が胸にある事を知り困惑する。
「その『あの時』って言うのは?」
「俺ら昔、故郷で魔物に襲われて死にかけたことがあって、じいちゃんが何とかしてくれたおかげで生きたし、大怪我も一月程で完治したんだけど…」
「確かに、心臓がって言う話なら、その時の治療以外に心当たりはないよね」
昔に大怪我を負った兄妹。
その際に恐らく損壊したのであろう二人の心臓。
そのままでは死が待つのみの二人を救うために、二人の祖父が用いたのが賢者の石の欠片。
手持ちの欠片を更に割り、二人の壊れた心臓と同化。
結果心臓=賢者の石となり、危機的状況の二人の存命の柱となったという事のようだ。
「つまりあの大きな石も賢者の石で、じいちゃんの形見の欠片も賢者の石で、元が同じ一つの石だから元に戻ろうと惹きあってくっついた?」
「っていう話っぽいな」
「じゃあ…私たちの心臓の欠片も…」
「あの巨石に接近し続けたらどうなるか分からないな」
どうやら封印が効いているおかげか、部屋の外は影響が及ばない。
だが部屋の中に留まり続けるのは、二人にとってリスクが大きい。
「と言う訳で、申し訳ないけど二人はここでお留守番だな。中の探索は俺がしてくる。奥にまだ一つ扉もあったしな」
賢者の巨石に目を奪われて二人は気付かなかったようだが、部屋の奥には一つだけまだ扉があった。
ここまで来た以上、そこの確認をしない手もない。
ただし先の一件もあるので、兄妹を部屋の中には連れて行けない。
「まぁ…仕方ないですよね」
「ジャバとフェニは二人の守りを頼む。多分大丈夫だと思うけど、何があるか分からないし」
「わかったー」
多分この部屋の外、螺旋階段の場であれば危険も何も無いだろうが万が一もある。
ジャバとフェニが居れば兄妹も安全。
二人を任せて、カイセは目当ての扉をと思っていた。
「グゥ」
「…ん?フェニはこっち来るのか?」
だが了承したジャバと違い、フェニは何故かカイセの頭の上に乗っかって来た。
兄妹にとって唯一の他者ヒーラーのフェニ。
できれば二人の方に居て欲しいとも思うのだが…フェニ自身は探索に付いて来たいようだ。
「…ジャバ、一人で構わないか」
「いいよー」
「じゃあちょっと行ってくるか。二人は絶対入って来るなよ?」
「勿論」
「ジャバ、二人を任せた」
「任せてー!」
こうして一同は二手に分かれる。
この場に残り待つのはボイス、ベル、ジャバ。
部屋の中の扉を確認するのはカイセとフェニ。
そしてカイセは再び、賢者の巨石の部屋へと踏み込んだ。
「――何度見てもデカイな」
再び目にする巨石の賢者の石。
ただでさえ伝説上の物質であるにも関わらず、欠片として分割しても相応の力を有するという、分け与える事が出来る秘宝。
その性能・性質は把握し切れていないが、欠片程度で心臓替わりにもなるならばこれだけの巨石を表の世に出せば戦争の一つや二つ容易に起こりかねない爆弾。
「まぁ持ち出すつもりこれっぽっちもないけど。流石にこれは」
『これほどの賢者の石を動力源とすれば、超巨大ゴーレムも動かせます。作ってみますか?』
「いや要らんから、そんなスーパーロボット的なの」
偽の…というよりは模造品の賢者の石を動力源とする《聖女ゴーレム》。
その性能から拡大していくと、本物の賢者の石…しかもこれほどの巨石であれば確かに余裕で巨大ロボットなゴーレムも作れそうだ。
勿論作る気はさらさらなく、ここにずっと眠っていてもらうつもりだが。
「で…この扉だな」
『特別な仕掛けは見受けられません』
そしてカイセがやって来た、賢者の石の秘密のお部屋の奥の扉。
ぱっと見で怪しい所も特別なところも確認できない普通の扉の前に立つ。
「じゃあ開けるぞ」
そのまま迷いなく扉に手を掛け、カイセに神剣にフェニは、その扉の奥へと踏み込んだ。
するとそこには…見た目は普通の部屋が待っていた。
「――普通の部屋だな」
『室内にも特別な仕掛けはありません』
テーブルがあり椅子があり、本棚がありベットがある。
小さな個室か、簡易的な作業室か、ただの休憩室か。
小棚や本棚の中身も空っぽでもぬけの殻。
だがテーブルの上にはいくつかの忘れ物…もとい、意図的に残しただろう物品が置かれていた。
「封筒に…写真?しかもカラーの」
置かれた一通の封筒。
そして木枠に納められ立てられていたのは〔ポラロイドのカラー写真〕。
「(バイクにポラロイド写真。やっぱり初代勇者はあっちの出身…というかこれに写ってるのが…)」
『中央の人物は以前のマスター、初代勇者と呼ばれた人物です』
そして残された写真に映る人々。
笑顔を見せる集合写真。
その中には黒髪で、明らかな日本人顔で、更には見知った神剣を腰に携えた青年がど真ん中に写っている。
この人物こそが初代勇者の当時の青年姿。
『周囲の人物は当時交流のあった方々、一部は勇者パーティーとして共に戦った者たちでもあります』
更にその初代勇者と一緒に写る者たちは、その当時の友人知人、そして勇者パーティーとしての戦友たちであるようだ。
「それじゃあ…この鳥は?」
『パーティーメンバーの"従魔使い"の使い魔であった不死鳥です』
「グゥ…」
勇者の集合写真に写る一羽の鳥。
姿、色合い、そしてある人物の頭の上に乗るその立ち姿。
カイセの頭の上のフェニが、そのまま大きく成長したような似姿。
「もしかして…フェニの前世とか前前世とかの姿か?」
「グルゥ」
死しても蘇る不死鳥。
その種族が持つ《転生輪廻(真) 》も、レベル10となれば記憶はほぼ全て引き継がれる。
とは言えそれを思い出すには、生まれ変わってからそれなりの成長が必要なようなので、再誕してまだ日の浅い今のフェニがこの過去を何処まで思い出せているかは分からない。
だが…これが過去のフェニの姿である事は本能が理解しているようだ。
初代勇者パーティーの従魔使いの使い魔が不死鳥フェニの過去の姿。
つまり今頭の上に居るフェニは、生前の初代勇者と面識のある鳥であったようだ。
「…ちなみに"賢者"はどの人だ?」