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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第二章:聖剣依存の凡人勇者
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魔境の森の迷い家


 「モグモグモグ」

 「モグモグ」

 「モグモグモグモグ」

 「モグ…モグ…」

 (……大人四人がただひたすら無言かつ真顔で握り飯を食い続けてる図が若干怖いな)


 とりあえず拾ってきた四人が目を覚ましたので食事を用意した。

 どのぐらい食うか分からなかったので余る前提で山盛りに握り飯を積んでみたのだが、この勢いだと全て食べ尽くしそうだ。


 「ちょっと出てくるんで、そのまま食っててくれ」

 「「「「モグッ!」」」」

 

 呑み込んでから返事をして欲しい。

 お前ら実は全員モーグリか何かじゃないのか?

 ……あれの語尾はクポだったか。  

 ひとまずどうでも良い事は横において、カイセは家の外へと出ていった。


 「――この辺で良いか。よいしょっと」


 家の外の庭へと出て来たカイセ。

 その中心に、使い切りの《転移》ポイントを設置した。

 

 「えっと……八人(・・)か。邪魔になりそうなものは……無いな」


 家の中から感じ取っていた気配は六人分だったので、二名ほど相当に熟練者が含まれていたようだ。

 だがそんな者達でも、近づいてくるアレ(・・)には気付けていない。

 最近は完全に慣れたとはいえ、最初の頃はカンストしているカイセですらギリギリ回避していたので、恐らくアレは初見であろう彼らが不意打ちされてしまうのは仕方がないと言えば仕方がないのだが。

 そして十分な安全確認をした上で、カイセは魔法を起動した。


 「《強制転移》」

 「何だコレッ!?」


 起動と同時に、森の中から男女大小八つの声が上がった。

 そして転移の光が収まると、設置したポイントには八人の人間が転がっていた。


 「な…これは……」

 

 当然ながらいきなりの事態に戸惑う八人。

 そしてこれも当然ながら、カイセに対して敵意を向け、短刀を構え襲い掛かってくる者もいた。


 「そいっと!」


 カイセはその人物を軽くいなし、地面に転がす。

 日本では武術素人だったカイセも、カンスト999の肉体での手加減を覚える過程で、自然と体の使い方が上達した。

 どうすれば力を抑えられるか、どうすれば相手を傷つけずに制圧出来るか。

 あくまでも魔物相手の経験故に人相手には心配もあったが、とりあえず上手く出来たようだ。

 

 「はいちょっと聞いてください!胡散臭いのは承知してますが、こちらに敵意はありません!本当は説明が先だったんでしょうけど、時間が無かったので問答無用で皆さんを《転移》させました。苦情は後で聞きますので、まずはあちらを見てください」


 そう言ってカイセが指をさしたのは、彼ら八人が先程まで隠れていた森の木々。

 カイセの言葉に四人がその方向を見て、四人はカイセを注視したままだった。

 素性の知れぬ相手から目をそらす方が問題なので、反応としては後者四人のほうが正しいとは思うのだが、ここは素直に見て欲しかった。


 「た…隊長!あれは……」


 部下に促され、ようやくそちらの方向に視線を向けた隊長と呼ばれた人物。

 その表情は驚きに染まる。


 「まさか…〔キングスライム〕か!?」

  

 その言葉に、残った三人の視線も動く。

 視線の先、先程まで彼らが隠れていた場所を、〔巨大スライム〕が音も無く通り過ぎていく。


 「アイツは気配もかなり薄いし音も無いから、あんたらも気が付かない内に呑み込まれていたかも知れないな」


 森の掃除屋とも呼ばれる巨大スライム〔キングスライム〕。

 キングの名は伊達では無く、ハッキリってデカイ。

 カイセも初見の時には、「大きさだけなら邪龍にも負けないとかどんなスライムだよ」と思わずツッコミを入れてしまった。


 「ひぇ!?」

 「あー、あの蛇…ご愁傷さま」


 そこそこデカイ蛇がその接近に気付かず逃げ遅れ、移動するキングスライムにそのまま取り込まれてしまった。

 そして即座に消化。

 あれが〔森の掃除屋〕の異名。

 まるでただの水の塊かのように、進行ルート上の全てを抵抗なく体内に呑み込み、その上で自然には一切傷を付けず、生き物や有害物質だけを溶かして吸収する。

 キングスライムの通った後には、綺麗になった植物が並ぶのみ。

 ゆえに森の掃除屋。


 「本当は先にアレが来ることを説明したかったんだけど、こっちも気付くのが少し遅れちゃって、話し合いで揉めてる暇が無かったから強制的に避難して貰った。流石に家の前で人間がああなるのは、ちょっと俺の精神衛生的に良くなかったんでな」

 「……助かりました。まさかあんな大きな存在に気付けなかったとは」


 彼らは国に仕えるプロの〔隠密〕。

 それが魔物の接近に気付けず、手助けが無ければ確実に何人か死んでいたとなればプライドに傷が付いただろう。

 だからと言って恩人に八つ当たりするような馬鹿は居なそうなので、そこはカイセも揉め事が起きずに一安心だった。


 「とりあえず状況は理解したね?それじゃあ俺はちょっと出かけて来るんで、落ち着くまでここで休むなり、すぐにさっきの場所にまで戻って仕事(・・)を再開するなり好きにするといいよ。あ、仕事(・・)を放棄する事になるだろうけど、家の中に入ってても良いよ。余計な事をしたら防犯設備が反応して痛い目見るから気を付けてね」

 「えっと……どちらに?」

 「ちょっとお花を摘みに」


 適当な事を言いながら、カイセはそのまま森の中へと消えていった。



 「――あぁ、やっぱりまた(・・)出来てるな」


 カイセの辿り着いた場所には、〔空間の歪み〕が生じていた。

 

 「というかあの勇者、毎回ピンポイントでコレを引き当てやがるなぁ。〔強運補正〕の影響か?」


 前回も今回も、勇者はこの歪みを通って森の奥地までやって来た。

 そもそも魔境の森は、一日で奥地までたどり着けるほど狭くはない。

 人類の知る限り、世界最大規模の大森林。

 そんな場所の奥地に、例え相手が一流であろうともそう易々と辿り着ける訳がないのだ。

 ただし《転移》があれば別だ。

 目の前の〔空間の歪み〕は、さしずめランダム発生する〔転移罠〕とでも言うべきだろうか。

 これを通る事で難易度的にはまだマシな森の入り口付近から、泣く子も黙ってまた泣きだす奥地まで《転移》させられる。

 勇者はこれを、現状で言えば百発百中で引き当て森の奥地へ、そしてジャバと対峙し、カイセに保護されるという道筋を辿っていた。

 修行の為により強い相手との戦いを求めている勇者ロバートにとってはとても手っ取り早い現象だろう。


 「タチが悪いのは、単純に経験や魔力感度が高くないと気付けない点だよなぁ」


 簡単に言ってしまうと、未熟者ほど引っ掛かりやすい罠と言う事だ。

 そもそも罠と言うのはそう言うものではあるのだが。

 勇者は強運ゆえに毎回遭遇し、未熟ゆえに引っ掛かると言ったところか。

 今回はそれに気付かぬうちに巻き込まれた十一人が不憫でならないが。


 「まぁいいや……それッ!」


 カイセは右手に魔力を込めて、そのまま振るい〔転移罠〕をかき消す。

 この罠は自然現象として生じるものであるため、その都度対処するしかなく根本的な解決がほぼ不可能である。

 なので普段は放置しているのだが、こうも連続して人間が迷い込むのは困るので今後は暇を見て潰していくのがよさそうだ。


 「何か自分ん家が〔迷い家〕になった気分だなぁ」

 

 とりあえず食事・握り飯の山は、勇者一行にもたらされた〔迷い家のもたらす富〕としてカウントされるのだろうか?


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