螺旋階段のその先には
「――これって…」
「階段?」
一同の目的地。
初代勇者のあの洞窟の中。
かつて神剣や聖女ゴーレムが眠っていた空間に、カイセ達一同は新たな扉を発見した。
賢者の石を胸に秘めた冒険者兄妹ボイスとベルの来訪によって開かれた道。
だがその先には何かしらのゴールでなく…階段があった。
「地下に続く螺旋階段…しかも狭いな」
扉の向こうにあったのは部屋ではなく小さな場。
木製の螺旋階段が設置された空間、その入り口。
人がすれ違えない一人分の幅程度の狭い階段。
その螺旋階段は下へと続き、灯りがないので道先は暗い。
(暗視付けても…階段そのものが邪魔で先が分からないな)
階段自体が邪魔になり先が見通せない。
だが感覚的に結構深いのは理解できる。
「…さて、このまま降りるか?」
「……降りましょう。何があるのか確かめたいです」
「だな」
兄妹は降りる気満々。
そこに何かがあり、それが祖父に繋がる可能性。
「じゃあまぁ降りるとして…一列じゃないと進めないか。俺が一番前行くか。二人はどっちが先に行く?」
「じゃーんけーんッ――」
「ぽん!」
道幅が狭く一人ずつ順に縦並びで進むしかない階段。
その並び順を決める為、兄妹はじゃんけんを始める。
普通なら戦闘役職毎に役割で前か後ろかを決める所だが、この兄妹は共に魔法使いポジションなのでどっちが前でも後ろでも多分関係ない。
「俺が前、ベルが二番手な」
「うー…兄さんって無駄にジャンケン強いよね…」
そして兄妹のジャンケンも決着が付き、順番は決まりいざ階段へとなるが……
「…ジャバ、フェニ、このままだと上ぶつかるから降りて。高さが足りない」
「はーい」
螺旋階段の高さ的に、ブレーメン状態のジャバとフェニの高さが邪魔になりそうなので二人を降ろす。
しかしそこでも、フェニはジャバの上からは降りずにそのまま。
二人の高さを合わせる分には問題無いので構わないが。
「後は光源浮かせて…ん?フェニ?」
この先の暗闇の道標となる光を生み出そうとしたカイセ。
するとその前にフェニの体が淡く光を放ちだす。
フェニ自身が暗闇を照らす光源となった。
「綺麗な光…」
「もしかして…松明代わりか?」
「ジャバ、一番前行くか?」
「いくー」
ジャバの頭の上のフェニが松明役になった結果、流れでジャバが先頭を歩む話になる。
ジャバ自身も鳥目ならぬ龍目とでも言うべきか、仮にも闇龍の目ゆえに自然な闇はさほど気にならず先頭を歩むにも問題無い。
ならばと前は二人に任せ、代わりにカイセは一番後ろに付くことにする。
目の前の螺旋階段を、ジャバonフェニ、ボイス、ベル、カイセの順で並び進む。
「しゅっぱーつ!」
そうして一同は細く狭い螺旋階段を並んで降りていく。
暗い道を先頭で、ジャバの頭の上のフェニが標になる。
(……長い螺旋階段ってホントに方向感覚狂いそうになるな。感知魔法でそうはならないけど)
しっかりと方角、東西南北を把握しつつも、暗く長く螺旋階段が感覚を狂わせる要素になっているのは確か。
更に淡々と変わらぬ景色は、どれくらい降りて来たのかも邪魔する。
「今どのくらい進んだ?」
「えっと…100段くらい?」
兄妹はとっくに見失っている様子。
ちなみに現在126段
そしてこの階段は…きっかり300段で終わりを迎えた。
「あ、着いたー」
先頭のジャバフェニが階段の終わり、地面に辿り着いた。
小さな広間に、ボイス、ベル、カイセと続いて、一同全員が階段を降り終える。
するとその時――
「あれ?光が…」
全員が降り終えたのとほぼ同時に、電気を付けたかのようにその場に光が灯された。
明るく、ハッキリと見える視界。
そして一同の前には新たな扉が待ち構えていた。
(こっちって…上の空間の真下か?)
ぐるぐる回って降りてきたが、感知通りなら扉は最初の扉の真下。
越えて進めば神剣の眠っていたあの広間の真下に部屋がある事になる。
「カイセさん。この扉開けてもいいですか?」
「…あぁ、構わないよ」
パッと精査し、そこに罠のようなものはないのは理解している。
ただ上の扉と違って…何か重さを感じる扉。
単純な重量もだが、この扉の存在そのものが重要なものであるという直感。
とは言え、ここまで来て退くことはない。
警戒はしつつ一同は先への扉を開く。
「ベル、いくぞ」
「うん、兄さん」
そして兄妹は二人一緒に、その扉をゆっくりと開いた。
開け放たれた二つ目の扉。
その先には…この空間の核心が待ち構えていた。
「……巨大な魔法陣に、真ん中にあるのは…まさか」
『〔賢者の石〕の原石と思われます。マスター』
そこには部屋中に《魔法陣》が刻まれた空間があり、その中心には大きな〔賢者の石〕が安置されていた。