朝の時間とお出かけメンバー
「すぅ…もぐ……すぅ…もぐ……」
「――なぁ、この子これ大丈夫なのか?寝ながら食ってるように見えるけど?」
「ばぐもぐんぐ…ん?あぁはい大丈夫大丈夫。あむ…んぐ、ベルはいっつも朝はこんな感じなんで。食い終わる頃にはちゃんと起きるし」
朝の時間。
兄妹冒険者を保護して一夜が過ぎたカイセ宅。
その朝の時間にカイセと兄妹ボイス&ベルは、カイセの用意した朝食の並ぶテーブルを囲んでいた。
三人は食事をしていたのだが……
「すぅ…もぐ…すぅ…もぐ…」
普通に食事をする兄ボイスと違い、妹のベルは…なんだか眠りながらパンをかじっている。
ボイス曰く、彼女は朝の寝起きがとても弱いらしく、一応は起きるのだがこうして七割ほど眠りながら朝の行動を行う。
あくまでもこれは日常の風景らしい。
「――お恥ずかしい所をお見せしました…」
「そう思ってるならしっかり起きれば…痛い痛い」
その後しっかりと目を覚まし、そしてだらしない姿を見せてしまった事を恥じるベル。
ツッコミを入れたボイスはそんな妹に横腹をガシガシされていた。
ちなみに寝ながらでもしっかりと用意した一人前を食べきっていた不思議。
「まぁ…起きたのなら準備してくれ」
「はい。それじゃあ失礼します…」
ベルは早足で逃げるように去って行く。
それをゆっくりとボイスが追い、貸している客室へと向かう。
――今日の三人の予定。
例の地図の地点。
二人の祖父の記した場所へと向かう事になっている。
「さて、準備は出来た?」
「はい。バッチリと」
そして今は家の庭。
三人それぞれがしっかりとした自らの装備を身に纏い立つ。
兄妹の目的。
魔境の森のとある場所へ、祖父の面影を探してやって来た。
今日はこれからその目的地を目指し出発する。
カイセはそれに案内役兼守護者として同行する。
ちなみに彼女らは金銭でカイセを雇うという話もしていたが、それは断った。
目的地と思われる迷いの森の霧の発生地点。
その先にある初代勇者の謎空間。
神剣が眠り、聖女ゴーレムが残されたあの場所。
賢者の石を胸に秘めた兄妹があの場所の印のついた希少な地図を携えて現れた事で、そこにはまだ何かが隠されているのだと確信した。
なのであくまでも個人的な興味で、カイセもその場へと同行する。
(本当はあの場所にはあんまり関わらない方が平和な気がするけど…もう既に一歩二歩と踏み込んで持ち帰ってるものもあるし、ここまで来たら乗りかかった船だな。この二人だけで行かせるのもちょっと怖いし)
こうしてカイセは雇われるというよりも、新たな同胞、協力者のような立ち位置で同行する。
だがそこには…カイセ以外の姿もあった。
「……で、何でお前さんらは俺の上に乗ってるんだ?」
「ジャバもいくー」
「グッ」
いつものお出かけ装備で出発準備万全のカイセ。
だがその頭の上には、子龍ジャバと不死鳥フェニの姿があった。
カイセにジャバが乗り、そのジャバにフェニが乗る。
フェニは実質体重ゼロのような軽さゆえに、掛かる負担はジャバの重さぐらい。
しかし問題なのは、この外見の異様さだ。
「これ、本当に龍なのか?子供?だいぶ小さいけど」
「龍くんも鳥ちゃんも可愛い」
カイセの頭の上に視線を向ける兄妹。
一応これから危険な森を歩くはずなのに…ジャバとフェニを愛でる二人は何か緊張感に欠ける。
「…というか、ジャバもフェニも付いてくるの?」
「いくー」
「グル」
何故か付いてくる気満々の二人。
自ら二人を癒したフェニはまぁ分からなくもない。
「でもなんでジャバも?」
「カイセもフェニも行くなら一緒に行くー」
どうやら一人だけ置いていかれるのが嫌なだけのようだ。
カイセだけが出かけるのはいつものことだが、そこにフェニが付いてくるのは初めて。
二人が行くのにジャバだけお留守番というのが寂しかったのかもしれない。
特にフェニとは最近ずっと一緒だったのもある。
(…まぁ森の中だしいいか。霧の向こうに行けるかは別だけど)
王都なりダンジョンならまだしも、向かうのはこの森の中にある場所。
家の周りを歩くぐらいのもの。
連れて行っても多分問題は無いだろう。
むしろジャバの強さは守り役として十全。
そして…治癒魔法の効かない兄妹には、フェニの備えもあるに越したことはない。
何せ向かうのは既知なのに何が待っているかも分からないあの場所だ。
面子は揃っていて損は無い
ただし、霧の向こう側に誰が辿り着けるか…そもそも霧が本当に出るのかもやってみないと分からないところだが。
「…という訳らしいけど、二人の方はいい?」
「あ、はい。お任せします」
「龍と鳥がパーティーに入る。なんだか不思議な面子になったな」
魔法使いの兄妹に、危険な森に住む変わり者に、子供の龍に癒しを使う鳥。
そんな認識の二人視点。
むしろ不思議程度で済む話なのだろうか?
「――ではカイセさん。案内お願いします」
なんにせよこうして準備も整い、一同は地図に示された場所へと向かいだす。
「次あっち?それともこっち?」
「あっち…というか、キョロキョロするのは構わないけど一緒に人の頭ぐいぐいするのはやめてくれジャバ」
その道行きでちょいちょいジャバが進行方向へ向けて、カイセの頭と首をぐいぐい操縦桿のように動かそうとして来たせいで、都度都度首がちょっと痛かった。