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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第六章:隠居賢者の隠しゴト
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冒険者の兄妹


 「――俺の名前はボイス。十六で…魔法使いの中級冒険者だ」

 「私はベル。十五歳、魔法使いで中級の冒険者です。ちなみにこれは兄さんです」

 「これとか言うなよ」


 フェニが癒してカイセが保護した一組の男女。

 客室のベットで目覚めた兄妹。

 黒髪の少年が兄の【ボイス】。

 白髪の少女が妹の【ベル】。

 共に魔法使いで中級冒険者。

 ……それを聞いて、カイセは一つツッコミを入れる。


 「中級で二人でって…この森の立ち入り許可出るっけ?」


 ギクリという音が聞こえそうなあからさまな動揺を見せる兄妹。

 共に明後日の方角に視線を逸らす。

 魔境の森ラグドワは危険な領域。

 国の管理によって正面の、通称で正門と呼ばれる場からの出入りは国により制限されている。

 正攻法で通るには相応の実力を前提にした特別な許可が必要になって来る。

 そしてそれは…冒険者等級が中級の二人組程度の戦力では決して下りない許可でもある。


 「……裏口使いました」


 目を背けながら答えるボイス。

 正門、それは言ってしまえば一番安全が確保されている入り口である。

 中はともかくとして、その入り口周辺は人間によって均され確保された支配域。

 だが自然の森、しかも魔境と呼ばれるほどの危険で広い森の外周を、いくら国とは言え完全に管理し切れる訳もない。

 その為この森には人間の管理する正門の領域以外にも、非管理下の〔裏口〕と呼んで然るべき危険な(・・・)侵入ルートが存在する。

 正門の許可が取れない人々が、時たま危険な裏口を使って入り込んでくる。

 今回の、ボイスとベル兄妹もその裏口組であった。」


 「それであんなおかしな場所に…しかも面倒なやつ暴れさせる羽目になったのか」

 「まさか早々にあんなヤバイのに当たるとは…」

 「いやアレも確かに相当ヤバイ暴れ者だけど、この森大概どいつもヤバイからな?」


 彼らが起こしたあの魔物。

 どうやら突然変異の唯一種(ユニーク)らしく《星の図書館》にも名無しで記載されている為、カイセの中で見た目から勝手に〔イエティ〕と呼んでいる普段は大人しく怒るとヤバイ魔物。

 確かにこの魔境の森の中でも特に面倒な住人の一つではあるが、何もあれが最強や最悪と言う訳ではない。

 

 巨体と密度ゆえに移動するだけでただただ蹂躙出来る〔キングスライム〕。

 気配も姿もなく近づき、人間くらいは容易く丸呑みに出来る〔インビジブルスネーク〕。

 普段ハチミツを分けて貰っている蜜蜂ですら、森の中では戦闘能力が低い部類だがその針に寄る刺突は鉄程度の重装防具は余裕で貫く。


 これらはほんの一例。

 〔ヤバイヤツ〕という意味では、この森の魔物は全部ヤバイヤツなのだ。

 その認識が欠けている彼らは、まぁ倒れて然るべき展開であったのだろう。


 「ちなみに…ここ何処ですか?」

 「正門の宿…ではないですよね?」

 

 すると兄妹は当然の疑問に行き着く。

 二人は魔境の森の中で倒れた。

 だが起きてみれば建築物の中。

 色々疑問が浮かぶのは当然だ。


 「ここはまだ魔境の森の中だよ。忘れてたけど…俺の名前はカイセ。ちょっと色々あって魔境の森の中に住んでる人間。ここも森の中に建てた俺の家の中だな」

 「「え?」」


 その言葉に勿論驚きの反応を示す兄妹。

 何せここは魔境の森。

 正門の管理者や宿の人間ならまだしも、森の中(・・・)、明確な危険地帯に居を構えて暮らす馬鹿が居るとは思いもしないのが普通である。

 なので二人の驚きは正しい。


 「えっと…ここは安全なんですか?」

 「年単位で住んでるけど家そのものに何かあったことはないな。結界張ってあるし」


 実はその結界が二度ほど割られかけた経験があったりするのだが、その前に元凶を排除したので実質ノーダメージである。


 「……そういえば、あの、傷はどうやって治したんですか?」

 「え――あ!?」


 今度は妹ベルの疑問。

 その言葉で自身の傷が癒えている事に気が付いたボイス。

 普通に考えれば魔法による治癒なりポーションの成果であると思うだろう。

 だが…彼らは普通ではない(・・・・・・)為に傷が癒えている事自体に驚く。


 「それはウチに居る…お、相変わらずタイミングよく来るなぁ」

 「グー」


 するとその時、本当にタイミングよく姿を現したのはフェニ。

 彼らの傷を癒した張本人である不死鳥が、空気を察して飛んできてカイセの頭の上に乗っかる。


 「俺の魔法が効かなかったんで、このフェニが君らを癒したんだ」

 「鳥?使い魔ですか?」

 「んーそういう契約は結んでないんだけど、まぁ居候?同居鳥?とにかく傷を癒したのはこの子だよ」

 「グー」


 二人は珍しい鳥を、興味深そうにジロジロと眺める。

 その直後、フェニは顔合わせは終わったとばかりに再び飛んで部屋から去って行った。

 少しの合間とは言え顔を出す律儀な鳥である。


 「鳥の治癒…でも、それでも…」


 だがそれでも根本の疑問は晴れない様子のベル。

 そんな彼女に、カイセ側から質問をする。


 「ちなみに…こっちからも聞きたいんだけど、君らに魔法が効かないのは何故?」

 「え?あぁ…えっと…後遺症(・・・)です」

 「後遺症?」


 ベル曰く、この体質(・・)は昔に負った傷の後遺症に寄るものなのだという。

 兄妹揃って瀕死の重傷を負ったとある出来事。

 その重傷から何とか生き延びた二人だが…その代償に他者の魔力や魔法を受け付けない体質になっていた。

 呪いや弱体化などの悪い効果は勿論、回復や癒しにいわゆる強化魔法などの良い効果の魔法ですら、他者からであると彼らの体は受け付けない。

 しかし唯一、自分自身と兄妹お互いの施す魔法に関しては受け入れる。


 「二人揃って魔法使いなのはそのせい?」

 「はい、お互い以外に任せられる相手が居ないので…」


 コンビで冒険者として活動するなら、どちらかが魔法でどちらかが物理など何かしらの役割分担をするのが定石だとは思う。

 だが二人は、二人以外の仲間を頼りにくい体質を抱えている。

 ゆえに互いが互いをしっかりと癒せるように、二人ともに相応に魔法を習得する必要があったのだろう。

 その結果がダブル魔法使いの変則コンビ。

 

 (まぁ、その後遺症って多分賢者の石の影響なんだろうけど…この二人は石の事知ってるのか?ちょっと判別しにくいな)


 その付与系魔法の拒絶体質となった原因は、神剣の言葉通りなら心臓として働く〔賢者の石〕なのだろう。

 神剣により、二人の心臓は賢者の石である事は把握済み。

 だが…それを彼ら自身が認識しているのかがちょっと分からない。


 (下手に話題に出して実は知らなかったってなると面倒だし、まだ出さずにいておくか)


 気になる謎ではあるがまだ扱いが定まらないので、このまましまっておくことにしよう。

 それよりも今は……


 「というか…何でそもそも魔境の森に来たんだ?」


 

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