記憶の夢
『――おじいちゃん。その石ってなんなの?』
黒髪の子供はとある物に興味を示す。
それは親代わりである祖父が、時折眺めていた何かの石。
手にした石をただ見つめる祖父に、この日は聞いてみることにした。
『ん?あぁボイスか。これはな、じいちゃんの大事な宝物…その欠片だな』
すると白髪交じりの祖父は、特に躊躇もなく答えた。
祖父の大事な宝物。
『宝物なのに欠片なの?』
『あぁ、元はそこそこ大きな石だったんだが、昔に割ってしまってな』
『割る…大事な物なのに壊れちゃったの?』
『あぁいや壊れては、割りはしたがこれはこれでまだそこそこに役立つものではあるんだよ。元の力にこそ及ばないが、それでもそれなりに凄い力を秘めているんだ』
『そんな石が?』
『あぁ、こんな石でも、ちょっと凄い石なんじゃよ。じいちゃんの数少ない自慢の一つだな』
そう語る祖父は楽しそうに、しかしちょっと寂しそうにな表情を見せる。
『まぁこの石も、いずれは二人にくれてやるものだがな』
『え、それくれるの?頂戴頂戴!』
『いや今はまだやらんよ。まだ先の話だ』
『えー。どうせくれるなら早い方がいいじゃん』
『大事なものだからな。飽きて捨てられても困る。二人がもう少し大きくなってからだ』
『うー…まぁいいや。じゃあそれまで大事にしててね?』
『ふふ、言われずともだ』
『――ボイス!ベル!!何処だ!!』
場面が変わり、祖父の叫ぶ声が聞こえる。
二人の孫の名を叫び、走って来る祖父の姿も見えて来る。
そして見つけたのは……
『じい…ちゃん?』
『ボイス!ベル!!』
瀕死の重傷を負った二人の子供の姿だった。
『――じいちゃん…』
『起きたか?ボイス』
『じいちゃん、ベルは?』
『隣のベットで寝てる。お前さんよりも先に一度目を覚ました』
『無事、なんだよね?』
『勿論じゃ。お前さんも、二人ともちゃんと無事だ』
『そっか…良かった…』
その言葉を聞いて、黒髪の少年は再び眠りについた。
『――じいちゃん?』
傷を負ったあの日から十日ほどが経過した。
ちょっと体力は落ちているが、傷は既に癒え自由に動けるようになった黒髪の少年は、祖父を訪ねてその部屋の扉を開けた。
いつもならその時点で声を返してくれる祖父。
だが今日は机に向かい何かをしていた。
『……やはりここまでとなるともう無理か。水の精製はもはや無理と…しかし――』
真面目で、そして険しい表情で拡大鏡で何かを見る祖父。
そこに置かれていたのは祖父の大事なあの石。
しかし…その大きさは以前よりも遥かに小さい。
『じいちゃん?』
『…ん?あぁボイスか。どうした?』
二度目の声でようやく気付いた様子の祖父。
その表情はいつもの柔らかい顔に戻っていた。
『その石、どうしたの?』
『ん?あぁこれか?別にどうしたという事もないが、またちょっと割ってしまってな』
手にして見せてくれたのは、以前よりも更に小さくなった石。
失くした部分の方が圧倒的に多い。
……そして祖父はその頃から着実に老けて行った。
まるで止まっていた時が動き出したかのように衰えていく。
「――あれ?ここは…」
「お、目が覚めたか?」
長い夢を見ていたボイス。
目覚めるとそこは見知らぬ天井に、見知らぬ男の姿。
いや…何処かで見覚えがあるような気もする。
「兄さん、起きた?」
「ベル?」
すると次いで見知った妹の姿が視界に入る。
ボイスは起き上がる。
「……ここは?」
「魔境の森の中の家。俺は家主のカイセだ」
「カイセ…さん?」
「とりあえず、体に異常が無いかを確認して…問題無ければこれからの話をしようか」




