五章エピローグ/秘宝は二人の胸の中
「――ただいま」
「あ!カイセおかえりー」
ポカ女神に聖女への用事を済ませ、自宅へと帰って来たカイセ。
すると子龍のジャバが迎える。
「フェニもただいま」
「グー」
最近日中は殆どカイセ宅に居座っている子龍のジャバ。
そんな彼の頭の上には、ダンジョンに潜って留守にしていた間に一回り大きくなった不死鳥のフェニが乗っかっていた。
動物の頭の上に鳥。
ちょっとブレーメンを思い出す。
「グルッ!」
「おっと…」
喉を鳴らし羽ばたいて、ジャバの頭の上からカイセの頭の上に飛び移った。
フェニは誰に飛びつくにしても、とりあえず頭の上に乗って来る。
「にしても…相変わらず軽いなぁ」
カイセの頭の上に乗るフェニ。
しかしその重さを殆ど感じない。
大きくなったフェニの見た目の大きさと、実際の体重が噛み合わない。
だからこそ誰の頭の上に乗ろうとも負担になることが無く楽なのだが。
「まぁファンタジー生物に常識求めても仕方ないか」
特段フェニに体調のおかしさは感じない。
ゆえにこれがこの世界の不死鳥の生態なのだと認識して放置する。
「で、ジャバは今日も泊まるのか?」
「るー」
「なら風呂入ってこい。そこ汚れてるし。ほれフェニも」
頭の上のフェニを摘まんで、ジャバの頭上にお返しする。
そして二人はそのままの状態で、お風呂場に向けて駆けて行った。
フェニに関しては乗ったままなので一切駆けてはいないのだが。
「さて、俺は飯を作るか」
こうしてダンジョン絡みの事後処理も終え、カイセはまた日常に戻る。
――それから数日後。
「……森がちょっと騒がしいな」
カイセの暮らす魔境の森、
その森がいつもよりざわめいている。
時たま聞こえる爆音もあり、恐らく何処かで戦闘が起きている。
「ちょっと様子を見ておくか。ジャバ!フェニ!ちょっと出かけて来る!」
「はーい!」
カイセはその様子を確認する為に、簡易隠密装備で家を出た。
(……どっかの誰かが厄介なの刺激したな)
その音源を見つけて見つめると、この森の中でも特に大型の魔物が暴れまわっていた。
基本は大人しいその魔物。
恐らく何かがちょっかいを出して怒らせたのだろう。
おかげでどんどんと森の木々がなぎ倒されている。
(森の魔物達でアイツにちょっかい出す馬鹿は居ないと思うし、外から何かが来たか?)
あの魔物は普段は温厚なだけあって害にはならない。
しかし一度怒ると、ああして気が済むまで暴れ続ける。
この森に住まう者ならば、触らぬ神に祟り無しとばかりに余計なちょっかいを出さないはず。
アレを怒らせても得は無く、むしろああして森が荒れ食料も減る。
だからこそ…あれにわざわざちょっかいを掛けるのはよほどの理由があったか、もしくは完全な部外者。
そして経験上、可能性が高いのは後者である。
「となると……居た」
気配探知で周囲を確かめる。
すると、明らかに人間の気配が二つ見つかる。
だがしかし……
「動いてないな。生命反応はあるから生きてるみたいだが…怪我押して逃げて来て力尽きたか。いつものパターンっぽいな」
何せよ、まだ生きてるなら放ってはおけない。
カイセはそのまま気配の下に駆けていく。
幸いにして、怒る魔物の索敵圏内からは自力で逃げ延びた様子。
見失った魔物は明後日の方向へ進んでいるので、追撃に巻き込まれることは無いだろう。
だが勿論他は別。
「ギュルゥウウ」
地面に倒れる二人の人間を発見したカイセ。
しかしその周りには、別の魔物が包囲し獲物として狙っていた。
知らない所で喰う分には生命の営みとして仕方ないだろうが、こうして目の前で人が喰われるのは流石にごめんだ。
なので軽く魔力を当てて、魔物達を追っ払う。
「はぁ…大暴れに森を荒らされたせいで他の魔物まで気が立ってるな。それで…呼吸はあるみたいだな…ってこいつら確か?」
そうして発見した男女の二人。
カイセはその顔に覚えがあった。
二人とも、ダンジョン公開式典の日に会った少年少女。
アキレスの町でスリを捕まえた黒髪の少年と白髪の少女。
カイセの《鑑定》を弾く何かを持っていた二人だ。
「相変わらず鑑定は効かないか。とりあえず《治癒》を…あれ?」
見つけた二人は傷だらけで倒れていた。
ゆえにまずはと《治癒》を施すカイセ。
だが…二人の傷が全く癒えない。
「……発動はしてるか。なら何故」
治癒の効かない二人に困惑するカイセ。
治癒だけでなく回復薬も試すがやはり効かない。
「となると…とりあえずは物理的な応急処置をするしか――あれ?フェニ?」
「グー」
魔法で治療の出来ない二人を前にちょっと困っていると、留守番を放って飛んできたらしい不死鳥のフェニがカイセの頭の上に乗っかった。
そして――
「グー!」
「え、うお!?」
雄たけびのような声を挙げるフェニ。
すると突如、倒れる二人の体が炎で包まれ燃え始める。
「ちょ、フェニ…熱くない?」
だがその炎は熱くもなく、それどころか伸ばした指が燃えることもない。
二人はただ炎に包まれているだけ。
そして…傷つくどころか傷が癒えていく。
《癒しの炎》
不死鳥の放つ、傷を癒すための炎。
気付けば二人の外傷は、傷一つ無く消え去っていた。
すると炎が消えていく
「グー」
「終わったのか。ありがとうフェニ」
「グー!」
そうして役目を終えたとばかりに、フェニは勝手に飛んでいった。
「…とりあえず家に持って帰るか」
残されたカイセは二人を連れて家に帰る。
そこには何食わぬ顔でジャバの頭の上に乗るフェニも居た。
だが今やるべきは二人の世話。
とりあえず客室のベットに寝かせる。
「にしても…なんで治癒が効かなかったかな?」
『原因は二人の心臓にあるようです』
そんな呟きに応えたのは神剣。
どうやら原因を突き止めているようだ。
「心臓?」
『二人の心臓は人工物に置き換わっており、その心臓代わりが治癒や回復薬の効果を阻害したものと思われます』
「心臓が人工物…人工心臓の類か?」
『〔賢者の石〕です』
「……は?」
その答えに思考がハテナになるカイセ。
〔賢者の石〕。
先の聖女専用ゴーレムの動力にも利用された、〔賢者の石(偽)〕のレプリカではない本物の方。
かつて賢者が生み出したと言われる超物質。
『この二人の心臓には、本物の賢者の石が心臓の代替品として埋め込まれています』




