不遇な王子と協力の報酬
ダンジョン公開式典から数日後。
カイセはダンジョン騒動以来に、ポカ女神のもとを訪れていた。
「――つまり、あの魔法自体は俺が設置してたやつで間違いないんだな?」
その来訪の理由はやはりダンジョン絡みの事後確認。
直後に来なかったのは忙しいだろうという配慮と、流石にカイセも少し疲れていたから。
だがそんなに日も空けずに、色々な用事を済ませる為にやって来た。
そしてまず真っ先に尋ねた問題。
第三王子を阻んだ壁について。
――ダンジョン公開式典のクライマックス。
第三王子が率いる部隊が、喧騒の中いざダンジョンへと突入しようとしたその時。
先頭を進む第三王子が、ダンジョン入り口の見えない壁に弾かれて吹っ飛んだ。
『おうじぃいいいい!!?』
吹っ飛んだ王子は、幸いにして"三従士"の彼が着地を受け止め大事にはならなかった。
だが式典会場はその謎の現象に静まり返る。
しかし…その後に確認してみると、王子を阻んだ壁は既に無く、テストとして激突覚悟で踏み込んだ部隊員が王子に先んじて第一歩を踏み込むという締まらないスタートで、一行はダンジョンへと消えて行った。
その何とも言えない始まりに騒いでいた一般客達も落ち着きを取り戻し、なんだかちょっと同情の声も聞こえて来た。
『……帰るか』
『そうですね』
結局式典もメインを終えてその後に終了。
なんだか微妙な空気の中で、参列客たちは解散していく。
その後には招待客を集めたパーティーもあったようなのだが、カイセとアリシアはそこまでは参加せず、日が暮れる前に転移してそれぞれの自宅へと帰ってきた。
そして…件の〔見えない壁〕。
カイセはこれに覚えがあった。
「俺がダンジョン踏み込むときに設置した《魔法罠》だった訳だけど…なんであれがまだ機能してたの?」
それはカイセがダンジョンへ踏み込んだその際の事。
侵入者対策にダンジョン入り口に設置した《魔法罠》。
仮にカイセ達の後に誰かが侵入しようとすれば、魔法が発動しあのように警備に見つかるほどの大騒ぎを誘発できるようにしていた。
とりあえず騒ぎさえ起こせば、後は警備兵のお仕事。
ゆえに簡易的な、一度限りの魔法を設置した。
ただ…本来ならばその維持期限も式典前には切れていたはずだった。
にも関わらず、あの式典の場で消えたはずの魔法が発動した。
その説明をカイセは求めた。
「あー…実はですね。そこはダンジョン健常化の際の対応の副産物と言いますか……」
「簡潔に」
「ダンジョン全体に魔力を行き渡らせた結果、あの魔法にも魔力が注がれ期限が伸びました」
元々、設置した魔法に与えた分の魔力だけでは長くは維持出来ず、式典の前には維持用の魔力が尽きて自然と消えるようになっていた。
だがダンジョンを健常化させた際に、ダンジョンの一部として誤認されたあの魔法にも魔力が注がれ期限が延びた。
その結果、本来なら消えていたはずの式典のタイミングで魔法が健在。
見事に第三王子が地雷を踏んで恥をかくことになったという。
勿論これはいつものような、ポカ女神の確認ミスである。
ただ…今回に関しては、その一端をカイセも担ってしまっている。
(もっと厳密に組んでおけば良かったか。時間設定で解除や消滅する仕組みを組み込んで…簡略化し過ぎたなぁ、すまん王子。基本はこのポカ女神だけど、俺も若干責任ありそう)
もし何か機会があれば詫びようかと思うカイセ。
いずれにせよ、そうして王子赤っ恥事件の原因が判明した。
なお当事者たちに伝えられる事も無いので、王子の出立後に調査隊が色々調べたが迷宮入りすることになった。
「――じゃあ次、これ返す」
そうしてカイセの次の用事。
手にしたのは天使シロの財布。
内包するお金は、アリシアが屋台で散財しても大して減る事もなく殆ど残っている。
それを女神に直接返す。
「要らないんですけど、使い道無いですし」
「仮にもお供えものなんだから邪険に扱うなよ」
「いえまぁ気持ちはちゃんと受け取ってますけど、教会への寄付と違って、私のところに届いちゃうと本当に使い道無くて困るんですよね。地上で流通する通貨の枚数減るのも困るでしょうし。という訳で……カイセさん。これ今回の報酬としてあげます」
するとダンジョン騒動の解決に協力した報酬としてポンと戻される。
「人の報酬を在庫処分に使うなよ」
「と言っても、実際お礼を渡すにしても何をあげれば良いの?って話になるんですよね。いくら功績が功績とはいえ神様ポジションの私が渡せるものって限られてしまうますし」
「平穏くれ」
「無理です」
「じゃあ女神のポカを直して」
「無理です」
「無理じゃねえよそこは直せよなんでもって言ってただろ」
「今だから言いますが、現実的になんでもは無理です」
「詐欺じゃん。というかポカも現実的に無理な範疇なのか?」
協力の報酬。
正直言えばカイセとしても一体何を求めれば良いのかわからない。
現状の生活で足りないものは山ほどあるが不自由している訳でもないし、わざわざ女神に頼んでまで手に入れたいものもない。
しいて言えば地球のあれこれで欲しいモノもあるが、世界を越えての物資搬入は尋ねるまでもなくアウト。
(そう考えれば現金って一番無難だったりするのか?)
そういうアレコレを考えると、使い道の広い現金は無難なのは確かだろう。
お金とは少し距離を置いた生活をしているものの、それはそれとしてお金は腐らない。
ついでに手持ちが乏しくなっているのもの確か。
まぁそこは適当に素材を換金するなりの手段が残っているので、ここまで馬鹿げた大金は必要ないのだが。
「――なんなら報酬は私にしてみる?」
「冗談要らんから仕事戻れ駄天使」
「その言い方はちょっと酷くない?!その〔だ〕の部分は天使として不吉だからやめて!?」
いつのまにやら背後に立っていた天使シロ。
仕事中だと聞いていたのにそんな戯言を述べて来る為に、ついキツめに言葉を返す。
「はぁ…とりあえず今すぐ払おうとしなくていい。報酬は神様への貸しって事にして、今後必要になったら何かを取り立てるから」
「先送りですね。分かりましたそうしましょう。では利子代わりにせめて半分を差し上げて――」
「どんだけ押し付けたいんだよ!?」
結局そのまま財布の中身の半分を押し付けられたカイセ。
いっそ教会に寄付でもしてしまおうかと思ったが、もしもに備えてしばらくは大半を死蔵する事にしたのだった。




