招待状の出番
「――へぇ、あれがダンジョンなんですね」
屋台巡りを一段落させたカイセらは、とある場所へとやって来た。
昨日まで内側に居たダンジョン。
その全容を外の、高台から眺めるカイセとアリシア。
他にも同じようにダンジョンを見ようと観光客が集まり眺めている。
外観を上から一望できるこの場所は、観光スポットとして優秀な場所になるだろう。
「思ったより小さいんですね」
「まぁ地上に見えてる部分って玄関みたいなものだからな」
カイセらが踏みこんだダンジョンは地下構造。
地上の一階から地下へと降りていく。
そこには空間湾曲や拡張などの要素はあるものの、本体が地下に埋まっているのは変わりなく、外から人の目で見える部分など本当に一部にしか過ぎない。
それでも貴族屋敷の数件分の土地面積はあるのだが。
「それで、あっちが式典会場なんですね」
アリシアが指差すのは言葉の通りのイベント会場。
ダンジョン公開式典の為にダンジョンの側の平地に設営された会場。
運営、参加者、見学者など、多くの人が集い行き交っている。
「昨日の内に抽選券を貰っておけば可能性あったんですけどね」
「可能性って何の?」
「式典の参加権利ですよ。宿の掲示板に案内が貼ってありました。この式典には招待客の枠とは別に、当日抽選での参加枠があるんですけど、その抽選券の配布は前日までなんですよ」
どうやら式典式で用意された座にも二種類あるようだ。
招待状を持ってる者だけが通される招待・関係者席。
誰でも可能性はあるが抽選の運頼みな一般自由席。
その一般席の抽選発表が、いま目に映る光景の、黒い人だかりの一つで行われているようだ。
視覚を強化して望遠鏡のように見てみると、確かに数字の書かれた紙を持ってる人が多い。
「アリシアは、参加してみたかったのか?」
「んーまぁ当たってたなら行ってみたかったぐらいではありますね。式典とかの行事は教会のお仕事で何度も見てきましたけど、それ全部運営側の立場だったんで、純粋にお客さんとしての視点に興味があったりしますから」
「そうか。なら行ってみるか」
「へ?」
そして二人は移動する。
先程まで眺めていたダンジョンの側の式典会場へ。
抽選結果の確認のための人だかりを通り過ぎて、完全武装の兵士が構える別の受付へと辿り着く。
すると受付担当の文官が尋ねて来る。
「こちらは招待状をお持ちの方の入場口になります。招待状はお持ちですか?」
「はい、これでいいですか?」
カイセが取り出したのは一通の手紙。
その中の手紙と共に同封されたチケット。
以前王都王城に〔水の聖剣〕絡みで王様と再会した時に渡された、公開式典の招待状である。
「……確かに。お連れ様はお一人ですか?」
「はい、この子です」
「はいッ!」
ちょっと緊張気味に名乗りを上げるアリシア。
その姿を見て…文官はにこりと笑みを返す。
「ではどうぞお入りください」
差し出された二枚の紙をアリシアが代表して受け取る。
そして兵士が道を開け、二人は歩き出し無事に会場へと踏み込んだのであった。
「……ドレスコードとかないんだな。本当に今更だけど」
「招待客と言っても多種多様な人々が集まりますからね。まぁ目立つのは確定しそうですけど」
ほぼ普段着の二人。
アリシアなど着の身着のまま、普段着の中でも作業着に近い服装のままだ。
ドレスコードがあったなら、普通に弾かれてしまっただろう。
「にしても…招待状持ってたんですね」
「まぁちょっとな」
「けど、カイセさん多分参加する気なかったですよね?良かったんですか来ちゃって?」
「んーまぁ参加しない理由もめんどくさい程度のものだったし、それなら「出てみたい」って人が居るのにわざわざチケット無駄にする理由にはならないなと。あと…今は俺自身見てみたいって気も湧いて来たし。思えば寝落ちして最後のフィナーレ見逃した身だから、せめてその成果くらいには立ち会いたいと」
「そこ引きずるものでしたか……」
何にせよやって来た式典会場。
受け取った紙を頼りに、アリシアの導きで進むのだが――
「あれ?ここ?」
「ここですよ」
「あっちの立ち見じゃなくて?」
「あれ一般枠のやつですよ」
辿り着いたその場所は割としっかりとした座席。
招待状の手紙にはカイセの事情に配慮して「一番下の席」を用意すると書かれていた。
なのでカイセは自身の前世での経験認識から勝手に〔一番下=立見席〕と認識していたのだが、どうやらそうではなかったようだ。
全体でなくあくまでも招待席の中での、一番遠い席という意味だったようだ。
「そもそも招待したお客さんを立たせっぱなしはないでしょう」
「ごもっともで」
まさにその通りで、自分が変な思い込みをしていたことに気付かされる。
何にせよ、ここがお目当ての二人の座席のようなので、二人は並んで席に座る。
「あそこに座ってるのってアーロン様じゃないですか?」
「……あー、確かに」
するとアリシアは会場の前方に、エルマ達の兄である〔ダルマ・アーロン〕の姿を見つけた。
貴族家の長男で、A級冒険者で、別のダンジョンの攻略経験者。
招待されるだけの理由は充分な人材だろう。
「声掛けたほうがいいですかね?」
「んー、向こうは気付いてないみたいだし、こっちからはいいんじゃないかな?忙しそうだし」
見ればダルマはあれこれと近寄って来る人々と挨拶を交わし続けていた。
ダンジョン攻略者として広まった知名度は、やはり絶大であるようだ。
「思えば、カイセさんも……ですよね?」
人前ゆえにあえて主語は伏せるが、アリシアの言いたい事は分かる。
事実だけで見れば、カイセもダンジョン攻略者である。
「アレ特例だし内容も内容だし実績には数えちゃ駄目だろ」
事実、カイセの称号に"ダンジョン攻略者"の文字は現れていない。
あくまでも正規のダンジョンを攻略したもののみに与えられるようで、その辺はキッチリしていて安心した。
「――と、そろそろ始まるか」
そうして話をしていると、気付けば式典開始の時間となっていた。