第二十ニ階層+α EX/ブラックボックス
『同期により読み込んだ情報によれば、こちらは初代勇者が拠点として使用していた施設の一つであるようです』
何故だか神剣が解錠出来たこの場所。
偽装の先にあった扉の向こう側。
そこにはこれまた何処かで感じた雰囲気を持つ部屋が存在していた。
〔龍の里〕にあったあの場所に似た場所。
つまりは勇者に絡んだ施設。
「(同期情報って、お前自身にはここの記録はないのか?)」
『当剣にはこの場に関する情報は記録されていません。しかし鍵の一つは記録された〔コード〕が使われていた為、解錠に至る事が出来ました』
「(……ん?鍵の一つって事は、そのコード以外にも鍵はあったのか?)」
『この場所への入室、必要な鍵、解除条件は二つあり、一つは当剣の持つ〔コード〕、そして二つ目は《聖女適性》の所有者の存在にありました』
「(聖女適性…あぁアリシアか)」
たまに忘れそうになるのだが、アリシアはかつて次代聖女の候補者であった。
先程の空洞、厳密には魔境の森にあるオリジナルの場に安置されていた神剣。
そんな場所に更に隠されていたこの部屋。
神剣と聖女適性者。
二つが揃わねば立ち入れぬ場所。
「(……ここは、あくまで複製なんだよな?つまり現実のあの場所にも、これのオリジナルが存在してたて事なのか?俺らがあの場で見逃してただけで)」
『だと思われます。当剣の記録に無く、必要な鍵が足りなかった状況では、あの場で見つけられないのも必然かと思われます』
神剣の資格は勇者絡みの案件。
そして勇者と聖女は同じ人物が兼ねることはない。
つまり必ず二人が共に、あの場に辿り着く事が前提のギミック。
一人では決して開かない。
「(……初代勇者は、何でこんな仕組みにしたんだ?)」
『不明です。当剣にその情報は記録されていません』
神剣にも詳細は不明。
となればこの部屋の意味は、自ら見つけ出せなばならない。
「あ、カイセさん!ここ何かあります!」
するとその直後、アリシアがその意味の一部を見つけ出す。
この場所に残されていたモノ。
箱の中に納められていた、聖女の為らしき代物。
「これは…《ゴーレム》か。しかもまた上等な……」
見つけたのは《白黒色のゴーレム》。
明らかに破損しているようだが、カイセの《鑑定》がその性能を暴く。
個体名:白銀黒鉄
種族:人造ゴーレム
年齢:―
職業:守護騎士/未登録ゴーレム
称号:"聖・守護騎士"
耐久 650(-600)
魔力 400(-400)
身体 650(-600)
魔法 400(-400)
魔法(全) Lv.5
特殊項目:
剣魔模倣 (ケンジ)
賢者の石(偽) 【停止】
・自動修復 Lv.4 【停止】
・魔力回復 Lv.4 【停止】
マスター登録制限/必須事項
・《聖女適性》Lv.5以上
・《鑑定》
・《星の図書館アクセス権限》
起動コード〔未入力〕 ※コードリスト〔SIJ-01〕参照
正直、これは一体どこから突っ込んでみるべきかに迷う内容。
ただすぐに分かったのは、言ってしまえばこのゴーレムは聖女専用の機体である事。
とは言えこの機体、劣化に破損、核の停止で価値あるガラクタ同然の状態だが…恐らくこの場のセキュリティは、この機体を確実に聖女に渡すために組まれたものなのだろう。
……厳密には聖女適性持ちが対象のギミックなので、現役の聖女でなくとも大丈夫という若干の穴が見えるのだが。
「(これ、この場で修復って可能?)」
『現時点、この場での完全修復は無理です。完全修復に必要な準備が足りません。しかし現状の双子ゴーレムと同程度に最低稼働までの機能回復ならば、応急処置的に可能です』
「(つまり、動かすだけなら何とか出来ると)」
『肯定します』
劣化版としてならば、手持ちの素材などでも形には戻せる。
それでもあくまで機能低下中の双子ゴーレム程度の性能まで。
この機体の本領には遠い。
だがだとしても聖女専用機・アリシアの護衛として、無いよりマシの戦力増強にはなるだろう。
「あー、二人ともこんなところにいたのね」
そんな発見をしている二人のもとに、一仕事終えたシロが合流した。
「そっちは終わったのか?」
「準備は出来たわ。にしても、またおかしな発見をしたものねぇ……」
呆れも半分込めつつも、興味深そうに周囲を見渡すシロ。
彼女の視線は分かりやすいゴーレムに向くのではなく、ひたすらにこの空間を眺めている。
「もしかして…ここまだ何かがあるのか?」
「あるというか無いというか……ここ、私も見つけられなかったのよね」
「それは神剣と聖女がカギになってたんだし、いくら天使とは言え干渉制限付きなら仕方ないんじゃないのか?」
「いえね、確かにさっきまでならその通りではあるんだけど、今の私がここを知らないのはちょっとした大問題になるのよね」
カイセにはシロの言いたい事が把握できない。
なので率直に尋ねる。
「それは、どういう事?」
「ダンジョンシステムにハッキングして、この階層の地図もついでに読み込んだ今の私が、この森と洞窟の階層の何処に何があるかを全て把握した私が、二人が開けっ放しにしたあの扉を視界に納めるまで、ここの存在に全く気付けなかった。――この場所ね、システム側の〔ダンジョンマップ〕に記載されてない場所なのよ。この中は運営側も把握していない場所、現世での言葉の意味合いとは少し異なるかもだけど、ある種の〔見えない場所〕になってるのよね」
この場所はある種の治外法権。
確かにダンジョンの一部でありながら、その存在を運営側ですら把握していない特殊な場所。
それに気付いたシロは、ふと不敵な笑みをこぼした。
「ふふふ…これはちょうど良いかも知れないわね。折角だから有効活用させて貰いましょうかね。いい加減に後手であり続けるのも飽き飽きしている頃合いだもの」
21/7/25
話タイトルの誤字を修正しました。
本編に支障はありません。