第二十ニ階層+α⑥/見つけた違和感
「――それで、これはどういう事なんだ?」
「単純な話、レベル11っていう仕様外を、ダンジョンの既存のシステムじゃ動かしきれなかったって事みたいね」
未だノイズが混じりつつ、一向に動かない置物と化した敵。
【ブレイブソードキャリバー 脅威レベル11】。
数瞬の稼働で見せた剣技は、初代勇者を模したとされた第二形態であったが、今は微動だにせず完全に停止してしまっていた。
「今までのは、まぁ何だかんだ言いつつもまだ既存のシステムの許容範囲内だったわけよね。グリフォンとか海とかクラーケンとか心象投影とか。だけど脅威レベル設定の上限突破…レベル11のモンスターは、この土台じゃ動かしきれない。根本的な部分をアップグレードしてから実装すべきものだったのを、無理に実装したせいでまともに動かすことが出来ずにこうして停止したって所」
ひとまずの調査を終えたシロが語る。
そしてその解答を聞いたうえで、素朴な疑問を訪ねてみる。
「……フリーズしてるのはこのモンスターだけ?ダンジョンのシステムそのものが落ちたりはしてない?」
「そこは一応大丈夫そうね。影響の範囲については把握するなら本気出してもう少し深く潜る必要があるけど、ざっと見た感じは落ちてるのはここだけね。まぁ少なからず負担は掛かってるだろうけど」
「ならまぁ最悪では無いのか…ちなみに〔次への扉〕はどうなる?」
「今のままなら出ないわね。扉出現の鍵が〔対象モンスターの討伐〕に設定されている以上、そのモンスターがウンともスンとも言わない状態じゃ、討伐クリアはどうしようもない」
本来ならば目の前のモンスターを倒してこそ出現する〔次の階層への扉〕。
しかし今この状況では、戦おうにも戦えない。
「これこのまま一方的に狩って撃破するのは可能?」
「不可能。エラーに対する修復の過程でシステム的な保護が掛かってるから、今のこの彫刻は〔破壊不能オブジェクト〕と同義。つまり傷一つ付かない」
「つまりは、またしても扉は出ないと……はぁ」
ダンジョンの基本骨子は、当然ながら人の手では破壊どころか傷をつける事すら叶わない。
それと同義とされるのなら、目の前の敵は手出しする意味が無い。
だがそのせいで再び、海の階層でも経験した〔扉が出現しない不具合〕に遭遇する事になる。
今回は倒すべきモンスターの停止により次の階層への扉を出現させる為のギミックを発動させる事が出来なくなり、結果またしても扉に困る事になる。
「それで、またアレ?」
「そうね…よいしょ」
見慣れた〔天使の輪っか〕を装備するシロ。
天使としての本気のお仕事。
ハッキングによる扉の精製。
正攻法が潰えた時の奥の手の出番であった。
「今回はちょっと手間掛かりそうだから、今の内に休むなり修理するなりしておくと良いわね。それじゃあ行ってきます」
そうしてシロは自らの仕事に乗り込んだ。
触りだけでない、より深くダンジョンのプログラムに接触する。
その為に出来るカイセ達の手空きの時間。
シロの言う通り、今の内にこちらも準備を済ませておこう。
「――ゴーレムの修復、まぁ出来る事はパーツ交換ってところだな」
破損している双子ゴーレム。
その破損部位を、交換できるものは予備パーツと入れ替えて行く。
(……状況は面倒っちゃ面倒だが、アレと真っ向勝負しなくて済むのはある意味僥倖なのかも知れないな)
ブレイブソードキャリバーという脅威レベル11のモンスター。
その唯一の初撃斬撃で破損したゴーレムの状態を見て、アレとの戦闘を避けられたのは幸運だったのかもとカイセは思う。
(下手すりゃゴーレム二機ともスクラップに、形振り構わなかれば負けはしないだろうけど、俺の強度でも無傷は無理だし消耗も酷そうだし、この先の事も考えるとなぁ)
真っ向勝負で失っただろう戦力云々を考えると、こうしてフリーズにより戦闘そのものを回避出来た事は状況的には有り難かった。
(まぁその分シロの負担とリスクは増える訳だが、そこはそこで天使の御役目として頑張ってくださいっと)
そんな事を考えながら、簡易的な修復作業を終えたカイセ。
『ゴーレム〔ウコン〕、戦闘性能90%。ゴーレムサコン、戦闘性能80%。通常戦闘には支障なし』
簡易修復とパーツ交換。
その結果それぞれの通常戦闘に問題は無いくらいには戻っているが、それでも攻略開始時と比べても明らかに損耗が隠せない。
(こればかりは仕方ないな。これでもレベル10や11が相手で無ければ問題にはならないだろうし――さて二人はと)
視線を周囲に移すカイセ。
そして二人の状況を確認してみると……
「シロは…まだ作業中だな。それでアリシアは……何をやってんだ?」
カイセのその視線の先。
そこにはこの空間のとある部分、何も無い岩壁を見つめるアリシアの姿が入って来た。
「こんなところで何やってんだ?自由にするのは構わないけど、あまり俺らから離れすぎないほうが良いぞ?このダンジョンだと何が起こるか分からないし」
「あ、ごめんなさい。ですが…どうしてもここが気になってしまって」
アリシアが指し示したそこは、やはり何の変哲もない岩壁。
言うような異変も、気になるような違和感も、カイセには何も感じない。
「……罠の気配も全く無し。何が気になるんだ?」
「分かりません。だけど何かが……」
アリシア本人にも、その感覚の正体は掴めずいるようだ。
そのモヤモヤを晴らす為に触れてみるのも手かも知れないが、感知できない罠の類だった場合惨事が引き起こされる可能性がある。
触らぬ神に祟りなし。
スルーするのが一番だと思ったのだが……
『当剣への〔鍵の提示要求〕を受諾。本剣所有の〔コード:***〕を提示。認証中…認証完了。権限受理、偽装解除』
神剣が何かを呟く。
すると目の前の、何の変哲も無かった岩壁に、見覚えのある〔扉〕が現れた。
扉とは言っても階層を跨ぐための物では無い。
それを以前に見たのは〔龍の里〕。
この扉は恐らく……
『マスター、こちらは初代勇者の関連施設の一つであるようです』
21/7/25
話タイトルの誤字を修正しました。
本編に支障はありません。