第二十二階層+α②/ジャバジャバ
本来のジャバの寝床には目的の宝箱どころか、何かが暮らしている痕跡すらなかった。
だからこの記憶の森には、ジャバに類する存在は再現されていないのではと考えていた。
……だがその予測は斜め上に外される事になった。
「キュッ」
次なる宛てに向かい、森を進むカイセ一行。
その道中にモンスターと遭遇した。
「ジャバちゃんにそっくりですね、あの子たち」
そこで出会ったモンスター。
その姿はアリシアの言葉通り、確かに【子龍ジャバ】と瓜二つの姿であった。
カイセとアリシアは共に《鑑定》を持っている為にその本質を見間違う事はなかったが、もしも鑑定が無く、ここがダンジョンである事すら知らなければ、まず間違いなくジャバだと勘違いする程にそのままの見た目。
そんなジャバ型のモンスターが三体、一行の目の前に現れた。
「まぁ見た目は瓜二つだが……あの名前はなんだよ」
鑑定持ちの二人は勿論、天使であるシロにもその名は見えている。
本来はそこには〔スライム〕や〔グリフォン〕のような種族名が見えて然るべきのダンジョン内での鑑定結果。
目の前のアレが本当にジャバを参考にしたのであれば、そこには〔龍種〕に類する名が刻まれるのが順当なはずだ。
だがそこに記されたのは【ジャバジャバ 脅威レベル6】という謎な種族名。
目の前の三体全てに、これと同じ情報が見えている。
「いやジャバジャバってなんだよ」
「一応は龍種みたいね」
「なら普通にドラゴンとかでいいじゃんか。〔種族:ジャバジャバ〕って何それ?」
「あ、また増えましたよ」
カイセ達が困惑していると、そこに新たな個体が現れる。
三体のジャバジャバよりも一回り程小さな個体が今度は四体。
こちらの表示は【ジャバジャバジャバ 脅威レベル4】となっていた。
「いやだからジャバジャバジャバって何?」
「もしかしたら、成長度合いに合わせて呼び方が変わるんじゃないですか?」
「出世魚みたいに?」
「シュッセウオ?それは知りませんけど、小さいうちはジャバジャバジャバで、大人になるとジャバジャバになるとかです。たまにそういう生き物居ますよね?」
「それだとしたら何処かでジャバにまでジャバが減りそうな流れだな……ところでジャバが減るってなんだ?」
「さぁ?」
自分でも言っててよく分からない。
「キュー」
「キュ」
「キュキュ」
ちなみにこのモンスター達、どれもジャバにそっくりではあるものの中身は流石に別物のようで、少なくとも人が理解できる言葉は発さない。
龍種の鳴き声として適切なのかも分からない鳴き声で互いに会話しており、その会話をカイセもアリシアも理解できない。
カイセの持つ《言語理解 Lv.10》は、魔物の言葉にもある程度効力を発揮するものなのだが、やはり他のモンスター同様、見た目はジャバでも確かにダンジョンモンスターである以上は通用しないようだ。
「……というかジャバのインパクトに負けてサラッと流したけど、脅威レベル6ってそんな野良で出て来ていい奴なのか?」
先のキングクラーケンと同レベルである脅威レベル6のジャバジャバ。
ダンジョン内の量産通常モンスターとして出現するには、些か高すぎるレベルな気もする。
「ところで、結局あの子らとも戦うんですか?」
「気配的には臨戦態勢っぽいし……だけど流石に気が乗らないなぁ」
どんどんと魔力が高ぶっていくジャバジャバの群れ。
モンスターである以上、一度標的と定めた相手には何処までも追ってくるはずで、襲ってくるなら戦わねば面倒がいつまでも続き更に面倒になる。
更にはそのまま戦闘中と認定され続けると、ダンジョン内での次に進むに必要なギミックが戦闘終了まで発動しない場合もある。
しかし今回の相手の姿は、見知ったジャバに瓜二つ。
相手にして戦うには、正直とってもやりづらい。
「さっきの蜂もだけど、ここで遭遇するのが少なからず情が沸きそうな相手なの、精神面への攻撃の一環か何かなのか?」
「記憶が読み取られてる以上はそれも無くは無い可能性かしらね。接点とか記憶比重が僅かなりとも多い子らを選択してる可能性。ただ、結局似てるのは見た目だけよ?そっくりなだけのただの赤の他人だから気にする必要もない」
「分かってるんだけどさ……」
改めてジャバの群れに向き合う。
怒った顔というべきか、戦いの顔もジャバにそっくりだ。
だからこそ逆に、言葉は分からずとも彼らがやる気満々なのは容易に把握できる。
「……跡形は残したくないな。ゴーレムは下げよう」
本来は前衛の双子ゴーレムを下げ、アリシアの前に立たせて守りと共に彼女の目隠しにする。
戦いは魔法で、一撃で。
瓜二つなその姿が出来る限り無残な姿を晒さぬように跡形も無く消す。
(今回の一件で一番精神ダメージが大きいのはここになるかもなぁ)