第十一階層+α③/海中探索
ゴーレムの水中戦闘への対応。
その為の改造は無事に完了した。
とは言え、素材の都合で対応出来たのは双子の内の一機のみの改良。
そして効率や利便性を考え、本体を改良するのではなく外部装備として外けで追加する形に纏まった。
結果としては初期案よりも更に消費魔力は少なく済んだ上に、装備を外すだけで元の形に戻せるのは利点となった。
ただ、実利を求めた結果デザイン面にまで追求が及ばなかった。
「こっちのほうが可愛くて私は好きよ?」
「まぁ悪い訳ではないんだが……」
――出来上がった〔水中適応装備〕を纏った【ゴーレム/ウコン】。
その新たな姿は正に宇宙服にも似た分かりやすい潜水服の姿であり、見る人によっては着ぐるみにも、大きな卵から手足が生えただけのマスコットのようにも見えるその姿は、正直言えば本来の騎士ゴーレムの風格を彼方へと追いやった姿であった。
「まぁ見た目はこの際いいや。鈍重に見えてもちゃんと機動力は確保されてるはずだし実利優先で、気になる点はまたいつか余裕がある時にでも考えよう」
「それじゃあ行くの?」
「ああ。このまま潜って、相手が出てきたら実戦試し。問題無ければそのまま進む。幾分余計に時間も喰ったし、とっとと探索に入ろう」
こうして準備を整えた一行は、ようやく本格的な宝箱探し。
海中探索を開始したのであった。
『……早速来たか。水中装備のお手並みを――』
『うわー瞬殺ね。やっぱり陸上よりも強くなってるわね』
海中探索を始めて数分。
最初の宝箱よりも先に、回遊するモンスターと対峙した。
勿論それが水中装備のゴーレム/ウコンの初陣となったのだが…結果は瞬殺で撃破。
その撃破速度は、素体の陸上ゴーレムよりも速い。
『まぁ実際、ステータスが上がってるからパワーも速度も上がって当然なんだけどな』
【ゴーレム水中適応装備 ワダツミ】
〔耐久ステータス+25〕
〔水中活動時 全ステータス+50〕
〔環境適応証明(水中/海中)〕
装甲が増した分、耐久力が強化されているのは当然とも言えるが、それ以外にも装備には特殊効果が付随してる。
〔水の聖剣〕を素材にした結果なのか、完成した水中装備にはおまけ効果として全ステータスにボーナスが付随していた。
その上げ幅が元の聖剣よりも大きいのは、神剣曰く『製作者の腕の差』らしい。
勿論カイセではなく神剣の腕前の話だ。
水中装備のゴーレムが陸上よりも強くなっているのはこの項目の影響だろう。
ただし利点の反面、増加した重量分と水中での動作制御に魔力の消費量が少しばかり上がっているが、この程度なら充分許容範囲であると判断している。
ただ気になるのは、〔環境適応証明〕が色々鑑定してきたカイセにも初見となる項目だったことだろうか。
『気にしなくてもいいわよ。あくまでも〔水中に適応しています〕っていう証明書でしかない項目だから。非生命・道具にしか付かない項目だし、そもそも無くても適応対応しているモノはいっぱいある、特に付ける必要の無い項目でもあるけど。多分その神剣の配慮程度の意味しかないから。一目見て分かりやすくってね』
『マスター。お邪魔でしたらすぐに撤去いたしますが?』
との事だったので、特には気にせずそのまま残した項目だ。
ちょっとした刻印のようなもと考えよう。
『――さて問題も無いみたいだし、このまま護衛は任せて、こっちは探索に専念するか』
ゴーレムの動作に問題なく、二機から一騎へ減った影響も少ない事を把握したカイセは再び探索を開始する。
その後はモンスターと遭遇しても特に立ち止まる事無くゴーレムの自動迎撃に任せて、自身は宝箱探しに注力する。
『……また【ミミック】か!だけど今度は警戒万ぜ――ん?』
そして海の中で見つけたいくつ目かの宝箱。
偽物の宝箱、宝箱型モンスターの【ミミック】と久々の遭遇となった。
一度目で学んだカイセはこの展開でも焦らずに、きちんと即応できる位置に控えさせたゴーレムに対処を任せる。
だがしかし……
『……なぁ、これ溺れてないか?』
目の前に現れたミミックから、大量の空気泡が溢れだし海上へと昇っていく。
同時にもがくように震えるミミック。
それはまるで水に溺れる姿であった。
『……死んだ?』
『死んだわね』
そしてミミックは何もせずとも、勝手に溺死し光の粒子となったのだった。
『なんかこう、どう反応すれば良いのかわからないんだけど。陸地に召喚された魚の時みたいにさ?』
『いっそ気にせず受け流す方がいいんじゃない?滅茶苦茶にいちいち反応したらキリないわよ』
何にせよ戦闘も起こらずに終結したのは有り難いのは確かだ。
ただ、本当に反応に困る、気まずい。
『……そうだな、次行こう次。とっとと当たりの宝箱を探さないと』
再び海中を進み始めるカイセ達。
ただせめて、もうこんなミミックには遭遇しないと良いなと、カイセは若干祈りながら進む。
……その甲斐あってかその後は海中でミミックに遭遇する事はなかった。
ただそれよりも問題は、肝心の当たりの宝箱にいつまで経っても遭遇できなかった事だ。
『出ないな。そろそろ出て来て欲しい所なんだが』
探索開始から二時間程。
魔力の問題よりも若干の疲労が、カイセの肉体や精神の消耗が気になりだした。
カイセ自身は水中探索という名の散歩を行っているだけのようなものではあるが、周囲を水に囲まれた環境、抵抗、圧迫感。
変わらぬ海の闇の光景。
小さなストレスの積み重ねは、確実に負担となりじわじわ消耗する。
『……あれは』
『〔沈没船〕ってやつね。大当たりの宝箱が待つ場所としては分かりやすい場所ね』
その時見つけたのは、海溝に沈んだ一隻の船。
内部に入り込み探索すると……
『……あった、宝箱。しかもやたらと豪華な』
予想通り見つけた宝箱は、今までのシンプルな統一デザインの物とは異なり、明らかに豪華な装丁の宝箱だった。
『騙しでなければこれが当たりだと、中に鍵があれば――』
カチャリ。
カイセが宝箱に触れた瞬間、持ち上げてもいないのに宝箱の蓋が開いた。
咄嗟にカイセはいつものミミックを警戒するが、宝箱そのものが襲い掛かる気配はない。
『何が――うぉッ!?』
次の瞬間、開いた宝箱から飛び出し伸びた腕がカイセの体に巻きつこうとした。
しかし備えの防御に弾かれ、その間にカイセは伸びた腕から距離を取る。
『一端下がる!』
宝箱を放棄し、沈没船からも急速に距離を取るカイセ。
遠巻きに沈没船を眺める。
すると姿を現したのは、カイセが開いた宝箱の中身。
『【キングクラーケン】。ボス鍵じゃなくて、ボスがそのまま宝箱に入ってんのかよ……』