3 戦闘
「ポーション、売ってたわ」
すぐあの路地には着いた。黄色いポーションを振って見せると、闇に同化していた何かの目が光った。
「アリーお姉様!」
その路地には、すでに別の人物もいた。後ろにも。
「お姉さまダァ?」
目の光は、一度消えて、また光った。
その横で刃物も光っている。
「そいつも抑えておけ。残りはあの精霊を抑えろ。手筈通りに殺せ。毛皮さえあればいいが、背は裂くなよ」
少し声の高い男の声がして、背後からまた一人、声が降ってきた。相当背が高いらしい。
「おお。いい服、着てるな。ついでに脱いでけよ」
「いくら女性向けの世界でも、その言い方はあんまりにお下品じゃないかしら?」
ふつふつとした怒りを、そのままイメージに変える。
「火矢」
1番めは当たるわけもなく、ジュッという音を立てていった。ただしその後も標的は変えることをせずに、この狭い路地で大した動きのできない巨漢だけを狙っていく。
男は3番めの火矢でようやく、股間を抑えて踊り出した。
「火矢」
奥からも声が聞こえる。
「雪弾幕…氷矢《コオリ・ヨ・ワガミヲ・オビヤカスモノヲ・イレ》……水弾《ミズ・ヨ・ワガミヲ・オビヤカスモノヲ・オオエ》……」
なんと言っているのかはわからない魔法も聞こえてくるようだ。
ともかくそれを、アリコスは後ろから加勢して火矢を打ち込み、セサリーとマッチたちはシールドで守り抜いた。
「水嵐……」
嵐、と聞こえた気がしてシールドを貼ったとき、ずっと打ち続けていた男が倒れた。
そこからは両側から、中央の巨漢たちを挟み撃ちに火矢を打ち込み続ける。
誰もが痛みに悶え、先ほど股を押さえていた巨漢もあと何箇所か火傷を負った。
「事情を聞くから眠っていてね」
マッチがスリープ、と眠り魔法でこの惨劇は完全に終了した。
マッチはそして近くの騎士を探しに行き、セサリーは馬車を呼びに行った。
その間アリコスはというと、目をゆっくり閉開させ衰弱しているのが見てわかるあの犬に、ポーションを飲ませてやる。
「口、開けて?」
焦りながらもゆっくりとした口調で、ジェスチャーを交えてリドレイが指示すると、犬は軽く口を開けた。
リドレイが口を広げる手伝いをして、アリコスが流し込む。
すると出血は止まった。
リドレイと安堵していると、すぐにアリコスは犬が目を閉じていることに気がついた。
アリコスの視線に気がついたリドレイは、不安そうにつぶやく。
リドレイの顔にチラリと光るものがあった。
「し、死んじゃった…の?」
心優しいリドレイのことだ。きっと涙目なのだろう。
アリコスはゆっくりと体を前に倒し、リボン状の髪飾りが濡れるのも厭わず、口の前に耳を当てる。
すーすーすーすー、と一定の鼻息が聞こえる。
「ううん、大丈夫よ」
そう言うとリドレイは満面の笑みを浮かべたが、その表紙に涙が頬を伝った。
「リドのおかげで、この子は生きてるのよ」
だからきっと嬉し泣きなのだ。
思えば前世、今世と、延命はさせられても、完璧な命を救ったのは初めてかもしれない。
アリコスも、泣いていた。
後書き
R2.5.30更新
活動報告でもつい先ほど投稿してきたのですが、
『貧乏性の公爵令嬢』は昨日を持ちまして、月一投稿へ変更となりました。
作者の勝手な都合とは言いつつ、一応ご報告させていただくと詳細は前回の高校受験に続き、高校入学(?)となります。実は前々より考えていたことではあったのですが、コロナ休暇のおかげで少し期間を延ばすことができました。やはり勝手な話ですが、ご理解いただけますようお願いします。
これまで読んでくださった方々、申し訳ないです。しかしここまでよんでくださってありがとうございます。
くどいようですが、今後も【投稿は続ける】つもりなので、今後もぜひよろしくお願いします。




