1 予感
シーマたちに見送られながら孤児院を出る。
身分を隠すためにと馬車と合流するのも離れた場所にしているから、まだ少し距離がある。
「楽しかったわね」
「はい。マーカス達にも喜んでもらえてよかったです」
シーマ達の距離感の影響か、アリコスとリドレイはいつもより親しげにその距離を歩いていく。
「私はリドは友達ができて何よりよ」
「はははっ。マーカスは球技が得意なんだそうで今度教えてくれると言ってました」
「へぇ」
「アリーお姉様っ、次はいつになりますか?」
「そうねぇ。私は早く行きたいけどどうかしら」
アリコスが今朝のフィオラとの話を思い返していると、すぐ後方にいる、マッチが答えてくれた。
「まずは旦那様の許可を取って、ですね」
それはそうと、とマッチは言った。
「それはそうとリドレイお坊ちゃま。怪我はいけませんよ?」
「はーいはい。…でも剣技よりはずっと危なくないと…」
手頃な言い分見繕ったリドレイの言葉を、マッチがすぐに効力を奪っていく。
「気を抜くと怪我をしてしまいますよ?」
するとリドレイもしぶしぶ了解した様子だった。
「あ!」
しばらくしてリドレイが叫んだ。
「リド?」
声をかける前に、リドレイは人混みへと向かっていく。
アリコスは何事かと思いつつも、マッチがリドレイを追って走っていく。
ワンピースで足が縺れるが、いつもより軽い分、いくらか走りやすい。頭の端でヒールのことをおもったが、ヒールには慣れているし、しかも相当低いのを選んで来たので気にしなくてもいいだろう。
ともかく3人は、リドレイを見失わないように追っていった。
人混みを抜けると、そこは人通りの少ない通りだった。このまままっすぐ行くと路地につながっているようだったが、リドレイの姿は見つからない。
あたりを見回すと、マッチが左に曲がって走っていくのが見えた。アリコスもそれを追う。
アリコスには後ろを見る余裕はなかったが、セサリーはなんとかついて行っていた。
マッチの後ろ姿が見える。今度はリドレイも見えた。緑色の光る糸が入っているせいで、距離や位置までわかった。
「大丈夫だよ、怖くない、怖くない…」
近づくにつれて、水の滴る音とリドレイの囁き声が聞こえてくる。
「リド…レイっお坊ちゃま……。急に走られては、困ります」
後ろからセサリーの声もするが、マッチの怒声は聞こえない。アリコスが言えたことではないが、マッチも相当息切れしているようだ。
「セサリー、なにか回復系の魔法使える?」
「いいえ私は。マッチさんは?というかなぜそんな」
「この子、怪我してるのよ」
そう言って、マントから現れた袖が指差したのは、暗がりでもわかる、白い塊に広がる赤い血だった。




