4 懸命に。2
前回分が修正していく上で長くなってしまったので、急遽、2部作成にしました。
ですが次回の投稿は平常通り、金曜日にする予定ですのでご安心ください。
戸を叩くと、アリコス達は前回のように通された。
そういえばずっと荷物───ケーキやクリームいっぱいのクレープ───はセサリーとマッチが運んでくれていた。
馬車に詰め込んだときからそこの広いトートバックのようなものに入っている。バックに型崩れしないようにまじないがかかっているらしい。こないだ護身術の訓練の合間に、マリコッタが縫ってくれたバックだ。
本当はアイテムボックスに入れてあげたいところだが、必要以上に人に見られたくはないので、アリコスはなにも言わないで思い出す度申し訳なさを胸の内で感じていた。
(だってせっかくスティラに気付かれずに済んだのに、バレてしまっては損でしょ)
「よっ…と」
マッチとセサリー、どちらの声かはわからなかったが、掛け声がかかって、バックから取り出してそのままお菓子が長机に並べられる。
その匂いからして甘い料理に、シーマ達は奇声を上げて喜んでくれた。
クレープが一人一人のお皿に分けられていく間に、まずリドレイが軽く自己紹介をすることになった。
「ええっと、リーレスです。えっと…好きなのはクレープ!あとリコお姉ちゃん!」
「まあ嬉しい」
アリコスはまたなんとも言えない幸せに包まれた。
「私はマッチです。魔法が得意です」
「見たい!」
リコが叫んで、子供達の視線が集まっていく。
しかしそれをもろともせず、ぶった切っていくのがマッチだ。
「ああでも、危ないのはいけませんからなにもしませんよ?みたければ自分で勉強して、実戦は学園に行ってからです。わかりましたね」
「えーー以上だそうです。みんなともかく、マッチさんたちに拍手!」
支度が整った園長がこちらに来て、仕切る声に合わせて子供達からばらつきのある拍手が送られる。
大半の女子、トーマス以外はマッチへの不満の尾を引いているらしいが、コースは心ここに在らずといった様子でアリコス達を懸命に見つめているのが原因らしかった。
園長が退いた場所から長机に並んだ、光沢のあるお菓子が目に入ると、すぐさま全員が席についた。
「いただきます」
前とほとんど同じようだが、リドレイがアリコスの隣に座ったかたちで食べ始める。
先に遊んでも良かったのだけれど、料理は冷めない方がおいしいという園長の計らいだった。もっとも各皿に勢いよく伸ばされる手やシーマ達のはしゃぎようは、園長の子供達を待たせられないだろうという予感を確実に裏付けていた。
「この料理、なんていうの?」
「ね」
「とっても甘いよ?」
「これ食べたことない」
「外国の料理?」
「いやお菓子だろ」
「あ!知ってる知ってる!」
トーマスが叫んで、アリコスは軽くドキリとしたが、それでもまあいいような気もする。
「ハクライヒンってやつだろ?」
内心軽くずっこけながら、隣で美味しそうにクレープを頬張るリドレイを見て和む。
「ううん。これはみんなが食べてるのはクレープ。今、園長さんとマッチとセサリーが取り分けてくれてるのがケーキってお菓子よ。私が作ったの」
「すごい!リコが作ったの?」
「ありがと…」
「えー?これ料理じゃないの?」
「うまいな」
「甘いから違うだろ」
「砂糖だよね?」
「ええ」
「ほらな、決まったんだろ?」
「なによそれ、なんにも言ってなかったくせに、コースのバカっ」
次々と言葉が交わされていく。
みんな、声が被っても気にしない。こういう親しさを、アリコスはしみじみ楽しんでいた。
「ねえねえリコ。これ小麦粉使ってるでしょ?なんかもちもちしてるもん」
「そうよ、よくわかったわね」
そう言うと、ローズは喜んで付け加えた。
「だってローズ、よくお料理するもん」




