5 家族で食べる夕食、6 お屋敷紹介、7 直談判
各話の切れ目は::::::::::::左のようにひたすら記号を打っています。
また予定外の割り込みという事で、あくまで補足をする形で、内容に直接的変化は加わらないようにしてあります。
「ほらほら話してないで、先行くぞ」
「えっ⁉︎一緒に行こーよ、アリーお姉様っ!!」
「えっ、ええ?」
手が引っ張られて、何事かと思うとリドレイがルードリックお兄様に急かされて走りながら、私の手を引いているのだった。
「ちょっと待って、こ、こけちゃうっ」
「あっ、そっか。アリーお姉様は病人だもんね。僕が運ぶよ」
「い、いや大丈夫」
倒れた問題だけじゃなく、ヒールも気にして欲しいんだけど。それと数ヶ月前にそれで二人で倒れたから、お姫様だっことかもうやめて欲しい。
そんな抗議とは裏腹に、リドレイは悲しそうな顔で考え込む様子が可愛くてならない。
「うーーん。じゃあ、一緒にゆっくりいこう!ゆっくりね!」
「うん。ゆっくり、ね」
かわいい弟に気を使っもらえて嬉しい限りだ。
「レイも早く!」
「はいっ」
アリコス達の前を行くルードリックお兄様は、小走りにやって来たレイシアお姉様を待ち、レイシアお姉様の手を引いた。
そして前ではお父様がお母様を。ルードリックお兄様がレイシアお姉様をエスコートして、リドレイはアリコスと仲良く手を繋いで、少しおしゃべりをしながら大きな部屋の夕食の席に着いた。
(すごく綺麗な景色だな…)
ってあれ?
恋人同士ならまだしも、家族でこんな仲良しこよしなんてやるものだっけ?
いいや、やってない。
まあいっか。感覚が少しズレてても。
仲のいい家族ってだけだもんね。
そんな事を考えていると、隣に座るリドレイがはしゃぎ出した。
「美味しそうな匂い!コーンスープかな」
私には全く匂いが感じられなかったが、少ししてメイドや執事が部屋の扉まで大きなお皿や飲み物を運んできて、ようやく匂いが感じられた。
「リド、よくわかるわね」
「当然でしょ!ふふんっ」
リドレイは自慢気に笑った。
「リド、大当たりだよ」
「わあ!」
「本当にコーンスープだ」
「まあ、リドはすごいのね」
「エヘヘっ」
子供達の話にお母様まで参加して、リドレイは照れた。お父様は静かに笑っている。
(よかった、いつもとおんなじだ)
心の中で安堵した。
「さて、ご飯が冷めてしまうよ」
「そうね、リドの折角当てたコーンスープも冷めてしまっては悲しいものね」
「そうだよ、料理は温かいから美味しいんだ」
リドレイは演説するように声を張り上げて、みんな一斉に笑った。
それも、それでは、とお父様が言って手を合わせると静まった。
「いただきます」
「「「「「いただきます」」」」」
リドレイはまずコーンスープから一口ずつ食べていったが、他の人はみんなそれぞれだ。
アリコスはこの世界特有の鳥の包み焼きから食べていった。ゲームには料理イベントもあったから、コックさんに聞けば、聞き覚えのある鳥かもしれない。
どれもこれも美味しかった、が、これも気に食わないことがあった。明らかに品数が多く、量も多いのだ。
(一、二、四、六、八、?えっと、大皿もあるから、全体で二の四の六…六×六たす…)
大体四十品。その後には、デザートが取り分け式の10種類。
甘党だからデザートが出たのは嬉しいかった。昔食べたような気のする、フランボワーズみたいな味ののケーキは特に美味しかったが…。
いくらなんでも多いでしょう!
ルードリックお兄様やお父様にはちょうどいいかもしれな…くないや。二人共、デザート少ししか取ってないのに残してる。
とにかくリドレイとお母様とレイシアお姉様と私は、主食も食べきれなかったのだ。
おまけにデザートも大皿に三分の一以上が残っている。それなのに明日にはまた、真新しいのが作られるのでしょう?
(もったいない、もったいない、もったいないィ〜!)
なんとか改善せねばなるまい。
上手く説得する情報を集めて、納得のいく計画を練り上げるまで。
あともう少しの辛抱だ、アリコス。うん。
こうして夕食は終わったのだった。
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セサリーを連れて、アリコスはとても広い、母屋の外へ出た。
扉の閉まる大きな音にビクッと体を震わせて、かろうじて足を前に踏み出す。
「星が、たくさんね」
見上げれば、途方もなく高くて青い空。
前を向けば、一番奥がぼやけるように長い道。
そんな道を特に大した目的もなく歩いていく。
(それにしても私の家は無駄に広い)
「館に戻らないんですか?」
「うん。気分転換よ」
最低賃金でも暮らしていけそうね。そう言われて育ってきた私には、この世界は息が詰まりそうだ。
東京ドームが一個は入るであろう大きな敷地に、お父様、お母様、ルードリックお兄様、レイシアお姉様、アリコス、リドレイの館がそれぞれある。
私達兄弟の館は割と狭いものだ。とはいえそれは、大貴族大金持ちの令嬢の目で見て、だ。庶民的な日本人の目では、小国のひとまわり小さな王宮にすんでいるイメージだ。使用人は8名程寝泊まりしているが、それでも心細い。
試しにアリコスとして知っている情報で比較してみよう。
お父様の館は、二階建の合計十二部屋。特に母屋と言っている館だ。もちろん台所付き。おまけに庭園まで付いている。まあ、今はその庭園のあった場所に研究所がすっぽりと建てられている。それに台所も、一流の料理人さえも憧れそうなくらい広い。
そして私達がいつも集まるところは、やはりお父様の館。大きめの、やけに天井の高い会議室のような場所があるのだ。食事もそこでとる。
マクスはここの、寝泊まりできる執務室に、連日泊まり込んでいるそうだ。
一方お母様の館は、二階建の計九部屋。二階には大きめなテラスがある。そしてやはり、台所付き。その台所ひとまわり小さいが、隣には使用人に配慮された部屋がある。それぞれの館専属の使用人以外の、泊まり込みの使用人はここで寝泊まりしている。
そしてここにも小さな庭園まで付いている。ただし、小さな庭園と言っても、犬が五匹は自由に走れそうな広さ。
そして私達はそれぞれ、計八部屋、六部屋、六部屋、六部屋。ルードリックお兄様の館は、お父様が誕生祝いだと作ったそう。そしてレイシアお姉様が2歳差で生まれた時、これはいかんと、六部屋から増築したらしい。
その後、アリコスが4年後、リドレイが9年後に生まれた時、そのふた部屋は子供部屋として使われたらしい。
まあ今はレイシアお姉様も私もリドレイも、館を与えられているけれど。
レイシアお姉様の館は、元々お客様用だったのを改装してできたのだ、とお母様に聞いた。
レイシアお姉様はお母様に似て花が好きだから、レイシアお姉様が物心ついた時から、お母様の庭園に、よく遊びにいっていたらしい。
ちなみにそこの庭園は今、レイシアお姉様が薔薇園にしている。そしてお母様は、その薔薇園に引けを取らない程綺麗な花壇を作っている。
二人とも、とても楽しんでいるそうだ。
私も時々誘われるが、私はやはり……。無理だ。一応アリコスの館には花は植わっているが、全て専門家に投げやりだ。
それの理由には、興味が湧かないというのもあるけど、そもそも私には、花を愛でる暇なんてない。
そう、イネック王子と年を近くして生まれたため、王太子妃を目指した勉強が、ただでさえ忙しいレイシアお姉様より一層大変なのだ。
草取りくらい自分でれば人件費を削れると思ったが、それすら難しいだろう。
「ねえセサリー、住む世界が違うって思ったことはない?」
「わ、私がお話しできるようなことはな、な、ないかと」
「そう?私はよく思うのよね」
「申し訳ありませんっ」
「そんな謝ることじゃないわよ。私が勝手に困ってるだけ」
そう。本当に困ってるだけなのだ。
知識も身体能力も、アリコスのおかげでそれなりにあるし、ゲームの記憶もうっすらとはあるから、いわゆる強くてニューゲームというやつだ。
ただこの豪華なドレスを纏い、インテリアだらけの庭を歩くだけで、病的なまでに頭痛がする。ここでやっていける気がしない。
「……あっ!」
閃いた!そうだ!生活費!維持費!それだ!それ全体を直訴しよう!
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道の途中で決意を固めれば、お父様のもとへ、いざ、出陣だ。
お父様のいるところといえば、研究室。アリコスは迷わずそこへ向かう。
母屋からは第一倉庫を始めとする四つの倉庫を挟むので、結果的に随分離れたところだ。
ここに来るのは倒れて以来になる。
「お父様、アリコスです」
「どうした?珍しいな」
「…お父様。私、お願いがあるのです」
「なんだい?アリー」
お父様。お父さんだけど相当若くて、ハゲてない。
うっ、慣れない…。わけじゃないけど、ちょっと違和感が…。
まあ、それにも慣れるしかないのだけれども。
「あの、金銭関係のお話なんですが」
「ああ…」
お父様は、作業をしていた例のキデンや部品をわきによせ、顔をしかめる。
地雷であることに違いない。
だがこれは私の命に関わることだ。これが上手く行かなければ気が狂ってしまいかねない。そのくらい私は重症らしいと、ピカピカする異空間に実感させられている。
よって申し訳ないけど、突き進めるしかない。
「私の屋敷の管理は、私に任せて頂けないでしょうか。それで削減できたお金は貯金します」
お父様は、少し考えるようにうつむく。
「いくら必要なんだ?できる限り出資しよう」
「今すぐに入り用な訳ではなく、その、私の趣味といいますか…とにかくすごくすごく大切なんです」
「とりあえず座りなさい」
言われたように、机の下から椅子を出し、お父様の正面へ座る。
「目的はない、ということだね?」
目的…正気を保つ?とか?
違う。
領民を一番に思えと教育してされてきたお父様なら、私にも同じ事を求めるはずだ。
それなら残念だが、私にはない。
なんといっても私はまだ、領民というものを教科書と、お父様の言葉の中でしか知らない。
「そう…なりますね」
「うぅむ」
そんなお父様に、執事のマクスが耳打ちをした。静まった空間に、お父様とコールの低い声だけが聞こえる。
アリコスはなにもかもが経験不足である事を恥じると同時に、これからは領民へ精一杯の行動をできるようにするには、外へ出なければならないと察した。
(どうすれば外へ行かせてくれるだろう)
マクスが後ろに下がると、お父様は視線を下に深く息を吸う。
緊張が漂う。
お父様は私を真剣に見て、にこりとした。
ピンと張った緊張が一気にゆるむ。
「いいだろう。だが一つ条件がある。これができなければ、その許可はなしとしよう」
私はお父様から目を離せなかったが、つい左後ろにいるセサリーが、固唾を飲んだのがわかった。
「なんですか?」
大概のことはできる。勘当も、嫌だけど、最悪家族に迷惑をかけず悪役令嬢の役も降りられるから、最終手段としてなら視野に入れている。
なんでもこいだ。
「自分の口で説明して、私と、家族全員を納得させなさい。それが条件だ」
(思った以上に難易度が高いのがきてしまった!)
アリコスの焦りとはすれ違い、セレルドはアリコスに期待していた。
これまでセレルドの言った通りに事を進め、滅多に欲しがるものなどなかったアリコスが願いを言った事に、少なからず感激していたのだった。
「私はこれから執務室で仕事がある。話しながら行こう」
研究室を出るとセレルドは続けて、採点基準を詳しく伝えた。
時間はいくらかかってもいい事。
家族全員が集まっていれば急いでいない限り、いつ言い出すのでもいい事。
全員が納得できなければ認めない事。
嘘をついてはいけない事。
そして最後に、家族を頼る事。
だそうだ。
「もう母屋についてしまったね。さあアリコスもそろそろ戻りなさい」
「あのお父様っ」
「調べ物も聞きにくるのもまた明日。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
ものを欲しがる子供がなだめられるのと同じだ。
こうして半ば強制的に、アリコスは自身の館への帰路についた。
リドレイの意外な能力についてはまだ内緒です。
───後書き────
読者のみなさまへ
諸事情により、割り込んでの投稿ができなかったため、予定外の3部作として改稿をしましたがいかがだったでしょうか。
感想欄でお待ちしています。
この度の改稿については活動報告より、詳しく書いています。気になった方はそちらからご確認ください。
読者のみなさまにはお手数をおかけしますが、今後とも『貧乏性の公爵令嬢』をよろしくお願いします。