5 護身術について3
残念ながらリドレイの火矢も最初のアリコスの矢と同じように、わら人形を通り過ぎた地面に飛んでいった。
「もう一回やります」
「はい、どうぞ」
(どうしたのかしら。くらくらするし、まぶたが重い)
先ほどまで余裕でいたアリコスだが、ようやく眠気が襲ってきた。なのでそれとなく物陰に移動して、見えないようにアイテムボックスから取り出したポーションを口に含んで、すぐに戻る。
リドレイはまだそこに居た。
「……はぁはぁ」
計三回の火矢は今のところ一度掠ることもしないでいる。
なのにすでに息は上がってしまっている。
一見すると運動もしてないのに奇妙なことだが、受験勉強で苦しくなるみたいな精神的な辛さだ。
例によってリドレイも同様な辛さを隠せずにいる。
(そんなふうに頑張ってる姿もかわいい)
「焦らなくていいんですよぉ。人形は逃げません」
マリコッタはリドレイに近づいていってそっとささやいた。アリコスに聞こえないくらいの声量で、そっと。
「アリコスお嬢様に頼ってもらえるようになりたいんですよね?だから回数も負けていられないのでしょう?」
リドレイは見透かされていた事実に、肯定的なうなずきをした。
そしてそのうなずきを見たマリコッタは、少し離れてリドレイのすぐ横から火矢を放った。
「火矢」
完全な初心者であるアリコスやリドレイから見ても、その火矢の精度が格段に高いことはわかった。
詠唱からすぐ、わら人形の首が燃え尽き頭に似せた部分が取れかかっている。
もっともあの人形をわら人形と言うからホラーだが、実際木にわらの巻いてある十字に足をはやしたような道具なので恐怖心は湧かない。
アリコス含め全員は驚いてみていた。
「魔法は使える量も大切ですが、人形にあてたいときには人形の当てたい場所に強く意識を向けるんです。するとあんな風に、精度も…まああれにはもっと鍛錬が必要ですからそこまでではありませんが、まあ。少しくらい精度も上がりますよ」
「イメージって事ね…」
「アリコスお嬢様。私の思い違いならいいのですが、間違えやすいので注意してください」
(独り言のつもりだったのに、恥ずかしい)
アリコスは周りの些細な視線に、少し顔が赤くなるのを感じた。
だが意味のある話を聞かせてもらえるならありがたいと思うと、少しは良くなる気がした。
「というと?」
「はい。シールドのように魔法そのものを、例えば亀の甲羅の強度だったり、半径5メートルといった範囲だったりとイメージすることもあります。ですが攻撃魔法は、威力がイメージで多少上がったとしても、当たらなくては意味がありませんからね。あくまで当てたい部位に意識を集中させるので、イメージと言えばイメージですが、ピントを合わせるとかその他の部分を意識から消すような限定です」
マリコッタのありがたい講義は少し難しい。四人ともしばらくそれぞれに思いふけっていたが、しばらくしてアリコスが声を出した。
「なるほどね」
この世界にはなかった気がするけど、この考え方は銃に似ているのかもしれない。
(もっとも唐突にシューティングゲームの記憶が蘇っただけで、おもちゃの銃さえ使った記憶はないけど)
アリコスの声にまわりもなんとか納得したらしい。
ただリドレイにはマッチが横について、咀嚼した内容を伝えている。
「なんとなく意識の原理がつかめたようでよかったです」
「ええ」
みんなマリコッタの方を見ている。
きっとアリコスと同じように先ほどのマリコッタの火矢を思い出しているのだろう。
だがマリコッタはそんな声のない称賛などよそに、もともとやろうとしていた行動を終わらせた。
「ではどうぞ」
マリコッタはリドレイを促すが、アリコスはマリコッタが目の前の定位置に戻ってくるまで実感はわかなかった。
(さっき、マリコッタの時のエフェクトは杖からでるとこと、人形にあがった煙だけだった。あんなエフェクトはゲームでも見た気がしない。さすがは公爵家の家庭教師)
「火矢」
多少マリコッタの口調にムラがありますが、今後これまでの部分を含め統一していく予定です。読みにくくなってしまい、申し訳ありません。




