3 護身術について1
結局外出は4日後ということになった。
ある程度の護身術があるなら、マッチとセサリーだけで十分だとの判断だ。
そうと決まればマクスにもらった資料を読み込んで、空いた時間はマリコッタさんに教わった事を自主練して…。
「アリーお姉様っ!着いたよ!」
「大丈夫、わかってるわよ」
「そっか。あ!マリコッタさん!!!」
遠くにマリコッタさんの姿が見える。でも裾幅が狭い。あれはワンピース?
そしてその横には、等身大のわら人形…らしきものが数体横たわっている。
「来たわねぇ!出発が4日後でしょう。だから今日は遂に初心者向けにしては本格的な実践訓練に入ります。もうっほらっ、訓練着作ってきたから着替えて」
なんだかマリコッタさんが歳に似合わずたくましく見える。
リドレイとマッチに服が投げられて、2人は慌ててキャッチする。
アリコスには手渡しで渡されたが、ずしりと重くてよろけそうになった。
「ほらセサリーも」
「あっはいっ」
服を近場へ運んでいく。それにしてもこれって。
「これ、重いですね」
私の声を代弁したようにマッチがマリコッタさんに述べる。
「防御魔法は自分でかけるから…ああそうだった。まだ着ないでね?防御魔法がかけられるか見るから。ほら胸が苦しいと、集中しにくいでしょお?」
「え、ええ」
答えが聞こえてこない。
予告もなしに実践訓練なんて強引な気もするけど、これもそれも私が焦ったせいなのだろうか。
なんて思っていると、マリコッタさんがまた声を張り上げた。
「防御魔法!シールドのっ詠唱っ!はじめ!!」
「シールド《ミズ・ヨ・ワガミ・ヲ・マモレ》」
各自、詠唱が始まった。
シールドが展開されると、マリコッタがそれぞれを回って評価を下す。
「実感薄いけど合格!でももう一回やってみて。今度は、そうね。分厚く、こう…甲羅を作るようなイメージで」
「やりました!」
マッチは合格したようだ。
「不合格!ちょっと範囲が狭すぎるのよね、アリコスお嬢様は」
「え、なぜかしら」
「んふふっ3分だけ、自分で考えてみてください」
「う…はい」
ちょっと厳しい気もするが、今日は答えを自分で考えさせるプログラムらしい。普段アリコスの周りは、雇い主に厳しくすまいと、危ない橋を避けようとする先生ばかりだから、マリコッタさんのそういうところも好きだ。
「合格!半径2メートルってところ?まずまずだわね。さすがセサリー。じゃあ今度はアリコスお嬢様も守るつもりでもっと広く」
「はい」
セサリーも合格らしい。
「えっと…何に悩んでるのかしら?」
「ごめんなさい、マリコッタさん。僕、シールドの呪文忘れちゃった」
「ああ。なるほどね。じゃあ覚えやすく教えましょう」
「うん!」
リドレイの目が輝いている。
「前にも言ったように、詠唱は簡潔が基本。同じ内容でも短く、次に奇数にわかれているのがより良い呪文の選別の仕方ですよ」
マリコッタの声はアリコスたちの方にも聞こえているので、アリコスは自分なりに考えていた。
(確かにこれまでに聞いたことのある魔法は全部詠唱が必要で、着火とか三語だし、他のもたしか七語までの奇数ばかりだった…ような…気がする)
「まず『ミズ』は五大魔法属性の内の水の魔法を司る精霊に干渉してるから『ミズ』といいます。『ヨ』は呼び掛けね。『ワガミ』は私を、と範囲を限定する。次に『ヲ』は我が身の補助に当たると思うのがいいわね。そして最後に『マモレ』。守るの使役系なのは、水の魔法を使っている私達が立場的に上だと知らしめることで、魔法に呑まれないようにするためよ」
リドレイの目がだんだん点になっている。
ようやく戻ってこれたようで、リドレイは記憶に残る中で一番わからない言葉を復唱した。
「のまれる?」
「ちょっと難しかったかしらね。もうっ私ったらっ」
そう言ってマリコッタは、軽く自分の頭を殴る仕草をした。
セサリー達はこれをマリコッタの癖のようなものだと思っている。
「暴走するのと大体同じですよ」
「うーん。わかった…気がする」
「じゃあ頑張ってください。魔法は暗記が基本ですからね」
マリコッタは一度リドレイの元を離れると、声を張り上げた。
「防御魔法!シールドのっ詠唱っ!はじめ!!」
「シールド《ミズ・ヨ・ワガミ・ヲ・マモレ》」
各自、詠唱が始まった。
そしてマリコッタはまたマッチのところから順に巡回して行った。




