1 ファムリス侯爵様
ファリムス家の馬車が見える。
これをお出迎えするのも私達の仕事だ。
私達の後ろを、マクスをはじめとした、執事、メイドが囲んでいく。
「ようこそ、カルレシア家へ」
「いつも来てるけどな」
お父様達は本当に仲がいいのだとうかがい知れる。
「長旅ご苦労さまです」
「これはこれはフィオラ様また一段とお美しくなって」
さてさてさて?私の出番だ。
「ごきげんよう、オルティース様、メコッド様、ノエタール様」
「お久しぶりです、アリコス様。また大きくなりましたね。こちらはリドレイ様?」
「はい!こんにちは」
「こんにちは。あの小さかった時とは大違いだ」
「子供の成長は早いものですからね」
「ふふっ」
オルティース様の話を、お母様がつなげていく。
「うちの息子も大きくなって」
そうオルティース様がいうと、見たことのない美少年が現れた。
「こんにちは、メコッドです」
「ああ!あの!懐かしいな、覚えてるかい?」
「もちろんです、公爵様。ほら、ノエル?」
少し遅れて馬車から見えたはノエタールだ。
今日は黒いベストに半パンという、極めて西洋っぽい服装だ。
アリコスがじっと見たていたせいで、馬車から降りるとすぐに目があった。それにはノエタールもアリコスもあたふたとする。
「アリコス様、この間は…」
「その節は、本当にすみません」
「いえ、こちらこそすみませんでした」
お互いに頭を下げあう。
「あれ?もう知り合いだったみたいですね」
メコッド様が茶化してくる。
ファリムス侯爵様宛に手紙を書いたのは私なのだから、もう既にわかっていることだろうに。
謝りたりないが、このくらいにしないと怒られてしまう。
頭をあげると、ノエタールもお父様もこちらをうかがっていた。
「それじゃあ行こうか」
お父様の声と共に、一行は歩き出す。
その間、お父様とお母様はオルティース様と、メコッド様はマクス様と話しかけていたが、私達は無言だった。
長い廊下をあと数分。ついに喋りたくなって
「あの」
というと、なんですか、と重たい声が帰ってくる。
「また、第一倉庫には来ますか?」
「来ていいんですか?」
「ええ。もちろんです」
ノエタールの顔がぱあっと笑う。
さて、もうひと畳。
「お待ちしています。私、あれからまた読みましたから」
「では私も頑張らなくては」
「かたいですね」
「アリコス様も」
「ふふふっ」
いたずらっぽい、いつものノエタールだ。
「ここです」
お父様の声で、話し声がなくなる。
会場に着いたらしい。
テラスにしては窓がないが、庭が臨める。
「いいところですね」
「私もお気に入りなんです」
丸みを帯びた長机の、既に決まっている席に、執事に椅子を引いてもらい、座っていく。
アリコスはリドレイとお父様の隣だ。
「手紙にも書いたように、今日のメインはうちのアリコスのつくった真新しいレシピなんだ」
お父様がオルティース様に向けて放った言葉だが、アリコスを真っ赤にするには十分だ。恥ずかしくて仕方がない。
「そんなっ」
「そう謙遜するな。評価はみんながしてくれる」
「私は彼のせいで舌がこえていますがね」
「ええ、それならよりアドバイスが欲しいです」
これはもう変えようがないけど、もっと甘くするなら生クリームがあるし、他も後から足すのでなんとかできるだろう。
「それではいただきます」
「どうぞ、どうぞ」
セサリー達メイド衆が、まず餃子を取り皿によそっていく。
それをそれぞれが口に運んでいく。
「うん、美味しい」
(お父様っ、驚かさないでくださいっ)
心の中で念じると、目のあったお父様は気持ち眉を下げた。
ノエタール達も美味しいと言ってくれるが、オルティース様は何も言わない。そのうちに、クレープ、ケーキ、パンケーキが運ばれていく。
「これは?」
「パンケーキです。そこの生クリームや蜂蜜をつけても美味しいですよ」
蜂蜜はこの数日のうちに発注し、今朝届いたばかりのものだ。
オルティース様は蜂蜜をかけて食べるらしい。
間に合ってよかった。
「ふむ」
ようやく一言貰えた。
「これは、奇抜な形ですね」
「はい、クレープと言います」
そして一口食べると、続けてもう一口と食べていく。
もうここ毎日食べているリドレイもだ。
「皮が破れないよう気をつけてくださいね」
次にオルティース様はケーキを一口食べる。
アリコスはもうはじめから、これ目当てで食べて美味しかった。なので味はもう保証している。
「これは、ふわふわしてますね」
「はい」
そしてもう一口。
「これは美味しい」
(おお!)
これは嬉しい。
「他のも美味しいですが、これはとびきりですね」
「ありがとうございます。実は私もこれが一番好きです」
緊張した品評会は成功で終わったらしい。
ふーっとアリコスは安堵のため息をつく。




