4 猛特訓、フル活動ですね
その翌日も、その翌々日も、その次の日もマリコッタは来てくれた。
普段は週に二回、マリコッタの授業がある。主に筆記の勉強だ。
「今日はこんなものですね。明日は防御魔法、シールド《ミズ・ヨ・ワガミ・ヲ・マモレ》と簡単な攻撃魔法、火矢、短期特化魔法、消灯《チ・ヨ・アタリヲ・クラヤミ二・シロ》を覚えて、それぞれ半径自分の行動域、相手の弱点、相手の目を的確に狙えるようにしてきてください」
2日目からは毎日こんなテンポだ。
「僕つかれたー」
マリコッタの魔法の授業は、魔力の枯渇がどの程度か知るために、必要な特訓だとかで、すっかりくたくたになるまで魔法を使う。
「お疲れ様、リド」
「アリー、お姉様はぁ、疲れてないの?」
「もちろん疲れてるわ」
しかし5歳上の私が疲れているくらいだ。リドレイも体への負担も大きいだろう。
でも私はこんなところで疲れていられない。なんといっても明日はノエタール様が来るのだ。ケーキの焼き具合を見に行かなくては。
「まあ、いい匂いっ」
「アリコスお嬢様!」
いつだったかのフォーク事件以降、厄介払いが普通だったアリコスだが、ケーキの試食会を開催してからは歓迎されるようになった。
「今日もいい焼き加減ですよ」
「今日は一個も焦がしませんでしたよ!ねえ、メイトにいちゃんっ」
「まあ、ああ」
ただし、メイトとの関係は曖昧なままだ。
メイトに何をしていて欲しいのか、逆にメイトがなにをしたいのか、アリコスは測りかねている。だがメイトは聞いてみても一向に教えてくれない。
「食べますか?」
「ええ。よそってくれるの?」
「はい!」
エティは気遣ってこちらに声をかけてくれるが、メイトは離れた場所でクレープを丸め、練習しようとしている。
「ねえエティ、私避けられてる?」
「うーーー?」
無理やりうやむやにされた。
やっぱり避けられているのだろうな。
「仕事がやだって?」
「仕事はいいんですよ!はっ」
エティが息を飲んだ。
何かいけないことでも言ったのだろうか。
メイトは、気付いていないようだ。
「何?」
「なんでもありません!俺には何も聞かないですださいね。あ、にいちゃん達には内緒ですよ」
エティは念を押すように言う。
一体なんだと言うのだ。
疑いながらもアリコスは、ケーキをうちに運ぶ。
ほろっほろでおいしい。
「今日も合格よっ」
そろそろ『七冊目』通り、作れるかもね。明日が終わったら。
アリコスは新作のことを思う。
「盛り付け、上手くなりました」
エティがいなくなって1分ほど。しかしこれほどエティに助けを求めたくなったのは初めてだ。
「いただいてもいいの?」
「はい。あと新作、俺に任せてください」
「え…」
「だめ、ですか?」
「ううん!そんなことないわ、よ」
な、にがあったというのだ。
この心変わりはなんだ?
メイトの目がキラキラしている。
エティは……と思えば、出口付近で笑っている。
「じゃあ早速始めますね!」
「え、ええ。でも明日の分は忘れないでね。ハワード様の言う量に従って…」
「わかってますって!」
(一体なに!?)
不安になって、逃げるように厨房を歩いてく。
そしてふと思い返して、声を張る。
「よろしくね!」
ようやぬ腕の頼れるようになった料理人に任せる新作は、それはそれは楽しみだ。
さてまた一直線に歩く。
「エティ!」
アリコスは癇癪玉起こしたように小声で叫ぶ。
「フォークはありませんよ…?」
エティはビビってみせる。
「ふざけないでっ。メイトったらどうしちゃったの?」
「ご不満ですか?」
「いいえ全く。むしろもっと頑張ってくれていて嬉しいくらいよ」
「それならいいじゃないですか」
「そうだけど、気になるじゃない」
「ふふん。そうですか。そうですよね。聴きますか?」
「もったいぶらないでっ」
「はいはい。メイトにいちゃん、ついに恋をしたらしいです」
恋って誰に?
アリコスの高飛車にやられた?
でもそういうのは困る。
「あ、アリコスお嬢様じゃないですよ?」
エティが恐る恐る声をかけてくる。
やめてほしい。そんな自意識過剰女ではないのだ。少なくとも、私は。
「もちろんよ。で、どなた?」
「学園の人です。多分貴族。それ以上は僕も知りません」
「なるほどね」
(ファイト!メイト!)
「なにしてるんですか?」
どうやらグッドポーズが不審がられているようだ。
「頑張ってって伝えといて」
「はい、はいっ!」
エティも応援組のようだ。二つ返事でか答えてくれた。




