3 魔法教室
「おはよう、マリコッタ」
今日から護身用魔法の集中レッスンが始まるらしい。
馬に走らせるためのひらけた草地に、アリコス、リドレイ、セサリー、マッチが生徒として並んだ。
「おはようございます。アリコスお嬢様ったらまーた大きくなったんじゃありません?」
「そんなことないわよ。それにおとといあったばかりでしょう?」
「そうでしたっけ。ふふふふふっ。アリコスお嬢様もセサリーも綺麗になって。もう立派なお嬢さんですね」
こう朗らかに笑うのが私の家庭教師、マリコッタである。
こうセサリーをひいきするのは、ただ血縁だからというわけじゃなく、息子一人にしか恵まれなかったため、女の子が可愛くて仕方がないらしい。
「それじゃあ、護身用魔法でしたっけ?」
「ええ」
「始めましょうか」
「お願いしますっ」
「はい、お願いします。リドレイ坊っちゃまも大きくなりましたね」
「うん、マリコッタさんを越すのもすぐだよ」
「楽しみですね。おっと、脱線脱線。まずは杖の持ち方です」
こうしてこないだやった事と同じことをする。
こないだが予習のようになって、少し先取りをした気分だ。
次に呪文。
「着火」
と口々に言うと、マリコッタはその火の様子を見て消火をしていく。
こういうシステムがあると見越しての、あのような書き方だったとすれば、魔法は独学向きじゃないのかもしれない。アリコスはそう思いながら、淡々とそつなくこなしていく。
そしてリドレイが合格をもらうまで数十分。
その間にアリコスを含め、リドレイ以外は次のステップに進む。
「魔法というのは簡単なものなら、自分で考えるのが主流です。試しに紙に書いてみてください。あ。できても口には出さないでくださいね?暴走は控えたいですから」
セサリーもマッチも課題を黙々とこなしていく。
どうやら知らなかったのは私だけのようだ。
ついでに、彼女達はマリコッタがリドレイに付きっきりで励むための、アリコスの監視役なのかもしれない。
ふとそんな気がした。
「はい。できましたか?」
マリコッタが、少し離れたところで練習していたリドレイを連れてこちらへ来た。
リドレイも合格をもらえたらしい。
「見せてください」
マリコッタはこの間だけでもオリジナルを考えるようにと、リドレイに伝えると3人から回収した紙を読み進めていく。そして最後にリドレイの紙を読む。
「なるほど」
マリコッタはなにか自己完結させたらしくうなづく。
適当にたくさん書いただけの紙に、とんちんかんなことを書いていたらどうしようと、アリコスはドキドキとしてくる。
「みんな、長いですね。例えば着火三文のこれのように簡単にする事も魔法の美学のひとつです」
(よかった、私だけじゃなかった)
短くした方が効力も強くなるし、当然ながら発動時間までの時間も短くなる。
全員がまた紙に向き直り、短くしようと懸命に頭をひねり、書いていく。
そしてまたしばらく経ってマリコッタが軽食を喉に詰まらせると、マリコッタは気がついたように声をかけてきた。
「できましたか?」
今度も短文にすることかと思うと、そうじゃないらしい。
「いかに綺麗にするか。教科書に載っているのは大概洗練された呪文です。それらの呪文によって、魔法陣の美しさ、発動の成功確率は格段に上がります。と言っても発動はみんなします。強いて言えば暴走するかしないかの差くらいです」
ここで今日はみんなつまずいて、夕方の授業終わりまで、この調子だった。
そしてその帰りに、お父様のところへ行って手紙の文面を確認してもらった。
「いいだろう。送るのか?」
「はい」
「いつだ?」
「いえ、私はまだ…」
「絶対にここに残るのは4日後までだ。そこでオルティースがダメなら、また別の日だ」
「わかりました。それならホウキ便がいいですか?」
「そうだな。こちらで送っておこう」
手紙を託すと、やる事全部やりきった感じについガッツポーズが出た。
そうしてアリコスはダンジョンから帰って以来、初めての上質な眠りについたのである。




