2 金銭出納帳
部屋に戻り、興奮を抑えようと眠ることを試みた。例えば、つまらないだろうと教科書を読んでみても、集中してしまった。以前の私と違う、アリコスの勉強家な一面が垣間見える。
しばらくしてまた眠ろうと試みるが…
「眠れない…」
仕方がないので飛び起きるようにして『7冊目』のノートを開く。
内容は貯金。
【目的 開業】
【金銭出納帳】のページと、【従業員候補】、そして【必要な物】をリストにしたページに分ける。
金銭管理には以下のように
《
範囲
アリコス館のみ
支出計算
マクスに聞く
現在収入はお父様から。毎月金貨1枚
今後
店の開業→金貨10枚以上(70枚くらい?)の資金が必要
思いっきりアリコス館の出費を抑えて、貯金に回す
許可
すでに取っている(お父様)
》
《
範囲
手の届く範囲
対象
》
【対象】はどうしよう。お金は使いたくないから【できれば有志】。
あとお父様に教え込まれた人助けの道で一言いうなら、【困っている人がいい】。
でもそんな人って早々いるだろうか?
少なくともスラム街なんかはないこの世界。…でもストーリーイベントで盗人なんかはいる。なら程々にお金に困っているっていうことだろうか?
しかしどこで会えるのだろう…?
悩みは深まるばかりだ。
《
今後
店の開業までに
許可
本人に。
あと保護者に。
》
有志でできるとするなら、孤児院の子供達に言ってみようか。身分を明かすのは嫌だが、いざとなれば仕方ない。
このお菓子を持っていって近々同じものを作るお店がオープンしたら、バレるのはものの数日だ。
「あと必要なものは…」
すらすらとノートが埋まっていく。
大体かけた。また何か思いついたら書き足そう。
「セサリー?お父様がいつ戻るかは知ってる?」
「はい、あと5日から一週間後だそうです。ノエタールの叔父様達をお招きする時は、予定を調整してご帰宅するそうです」
アリコスの思っていたこと全部を、教えてくれた。
にしても、滞在時間はたったそれだけ?
「あ!なんで私すっかり忘れてたのかしらっ。早くシーマ達のところに行かなくちゃ」
そうしないと、好感度アップのお菓子も何も作った意味がないとさえ言える。
………
……
…
「お父様、アリコスです」
あたりは既に明るめの星空から黒色に変わってきた。
アリコスならもう当然、寝ている時間だ。
そんな時刻に戸を叩くのもなんだが、予定が合わなければ先も言ったように意味がない。
「どうした?」
あくびを噛み殺したような返事とともに、扉が開いた。
深夜といえば、お父様もお休みの時間だろう。
「こないだのお話、すぐにお願いします」
「……というと?」
お父様はすっかり忘れているらしい。???が頭に浮かんで見える。
「お出かけの件です」
「おおそうかそうか。そういえばそんな事も言っていたな」
「ルートはお父様にお任せします。ただこないだの孤児院に行きたいです」
「なるほど、な」
お父様は考え込むいつもの癖で、顎に手を当てた。
「目的は孤児院だけか?」
「い…急ぎの理由はそれです」
ゆっくり街探検はしたいからな。
「なるほどな。マリコッタに護身用の魔法も教えるよう言っておこう。どのくらいの周期で行くかはまた話し合うが、今回はアリー一人で行ってくれ」
護身用の…魔法?
ドキドキしてきた。
「はい!」
「あ、それと一人というのは、Bクラス以上を2、3人引き連れて、という意味だからな」
「?Bクラスの人というのは、私と、セサリーと…?」
「マッチだ。だからリドも連れて行きなさい」
ほほう、リドの社会見学も兼ねて、ですか。
こうして2回目のお出かけは決まった。
ちなみにマッチというのはおっとり系の美人。リドレイの専属メイド、22歳婚約者持ちのことである。




