1 メイト目線
その3日後。
メイト達はアリコスがいなくても、パンケーキ、餃子、ケーキ、クレープの全ての焼き加減がバッチリになった。
最初に料理を出して以降、ハワードが専属で料理に付き合い、同じ焼き加減、同じ膨らみ方、同じ形になるよう特訓をしたのだ。
「調子はどう?」
その日の夕方、セサリーの叔母、マリコッタによる筆記の勉強を終えたアリコスは、手紙を携えてやって来た。
「まあまあですよ」
「まあまあって…ふふふっ。随分と余裕が出たものね。こないだまで焦げないかどうかも怪しかったのに」
「だってよ、メイトにいちゃん」
「エティだってそうだろ?」
「こないだ話したかしら。お金が貯まったら、お店を作るの」
はい、とアリコスはメニューの原案を書いた二通の手紙を渡した。
「ええ!!!!俺聞いてませんよ?」
「俺も知りませんでしたよ」
二人はアリコスが予想していた以上に大いに驚き、あえて封をされていない手紙を開ける。アリコス曰く、封をしなければ封筒はまた使えるのよ、だそうだ。
その度にメイトは、どうせくれるなら変な気遣いしなくていいのにと思う。
さて先にも書いたように内容はメニューだ。
ただし、けえきのケーキという綴りや、ぎょーざの餃子という綴り以外に、聞いたことのない名称ばかりが並んでいる。
しかもそれのすぐ下には、それについて簡単に説明した文が載っているが、よくよく読むと見たことのない食材を使い、生地に混ぜたり、やったことのない盛り方をしたりするらしい。
「無茶ですよっ」
「あら、あと1年はあるのよ?できるわよ。私とハワード様がいるんだから」
「そうなんですか?」
ハワードには手紙が行き渡っていなかったため、メイト宛の手紙を覗き込むような形で、メイトの質問に答えた。
「俺も作ったことないからな。でもこのうちの半分はできないことはないんじゃないか」
「半分ですか…」
便箋6枚に及ぶメニュー、2×6種───余白は俺たちにわかりやすいように書かれた説明書きだ。
これの半分。たったそれだけで店というのはやっていけるのだろうか。
「これで店が成り立つとお思いですか?」
メイトは思っていた事を口に出す。
「まあ、そうね。もともと人にあげるように、全面赤字の予定で作ったレシピだから、美味しいという評価がつけば満足なの」
つまり、利益はいらない、と。
「本気ですか?」
「みんなに笑顔になってもらいたいから、しばらくはとんとんでいいのよ。学園に入る頃にはまた別かもしれないけどね」
死ぬよりはマシでしょ、そんな世間一般で悲観的な考えをアリコスが持っているとは、メイトも思わなかった。なのでつい辛く当たってしまった。
「そんな事の為に俺らを使うんですか?」
「嫌?」
「ええ、嫌ですね。俺らはハワードさんにたくさん助けてもらってますけど、公爵様への恩返しと、サイモン兄さんを支えるために来てるんです」
なのに既に笑顔な人たちをこれ以上喜ばせて、どうするというのだろう。大概の人間は一度いい思いをすれば、もっともっとと優しくしてもらうことを当たり前にする。
そう思うともうやり切れない気持ちになって、メイトは厨房の出口へスタスタと出ていく。それしかないと思った。
つまるところ、メイトには不可解すぎたのだ。
「アリコスお嬢様、すみません。僕は賛成です。やりますよ、アリコスお嬢様のためですからね」
「ありがとう、エティ」
エティが必死で繕っているのも嫌だ。
厨房の扉が、ガコンと大げさにしまって、メイトは自分の世界へ隔離されたような寂しさを感じた。




