2 奇妙な光景
なんの変哲も無いスポンジケーキを焼いているはずだ。
なのにどうしてこんな、どろっとしたキャラメルみたいなものができてしまうのだろうか。
「やり直し。また私、入れるわよ?それと、メイト。まーた時間短縮しようなんてしてないわよね?」
「し、してないですよ」
すっごくわかりやすい。
だからこそ憎めないのだけど。
「メイト?時間は30分以上かけて、全体を加熱していく。わかったわね?」
「だから俺は!」
「メイトにいちゃん、嘘は良くないよ」
「エティ、エティもエティで時間をかけ過ぎ。弱火でやるのはいいけど、それじゃ中まで火が通りきらないわ」
「だって」
「それを俺にいうなよ。それはエティの問題だろ」
こっちの兄弟も微笑ましい。
そういえば、この2人は魔力量がセサリーと同じ、Cクラスらしい。そのため、16歳のメイトも学園には一応通っている。エティも来年通い始めることになるだろう。だがCクラスは全体として単元も、通う時間も短い。
しかしサイモンもいることだし、本来ここへどうしても来なくてはいけない、ということはない。
だが本人達と一家全員の願いで、ここにきているらしい。
「じゃあそこの餃子を詰めて」
「はい!」
「はい…」
そういえばエティは反抗期の年齢なのに素直すぎる。
あとが心配だが、ゲームにエティという人物が問題を起こす話はなかったはずだ。
「ぎょうざってどうしてこんなひらひらつけるのかな」
「密着する部分を多くすることで、肉汁や具が外に出ないようにしてるんだろ」
聞かれないよう、ひたむきに粉を混ぜ入れる。
メイトの答えには感心した。よくわけもわからない郷土料理についてここまで分析できるな、と。
実のところ、そういった話はよく知らない。ただ、昔やっていたようにひらひらをつけただけだ。
そういえば作り方だけの餃子を初めて2人に見せた時に、たった1日でメイトは、本場の中華料理の餃子と瓜二つに作れるようになってしまった。なんだか無性に子供扱いしてしまっているが、エティも1日でできるようになっていた。
(そんな2人のいう話だから、そういうものなんだろう)
こうして粉と乳を入れ終わった。卵も横に置いておく。
「そうだ、2人とも。あとセサリーも。餃子よ、餃子」
「ぎょうざ」
「はあ…?」
セサリーが困ったように声を出す。
乗ってくれたのはエティだけだ。
「餃子」
「ぎょうざはぎょうざだろ」
「でもいいから」
「餃子」
「「ぎょうざ」」「ぎょーざ」
「おお、エティ上手!餃子」
「?ぎょうざ」「ぎょーざ」「ギョーザ」
「餃子」
「ぎょざ?」「ギョーザ」「ぎィーざ」
「もうっ2人とも下手。餃子」
「「「ぎょーざ」」」
「まあいっか。次、クレープね」
こうして料理をしながらの発声練習も始まった。
「おーい、夕食だぞー」
「あハワードさんだ」
「やべっ」
「あー、ハワード様。2人お借りしてます。…あとこの机も」
「いいですいいです。構いませんよ」
「では失礼して。みんな、焼きあげましょう」




